陞爵しよう
え……俺が公爵か侯爵に?
「なんなら辺境伯でも良い」
王女は軽くそう言うが、あんたに俺を陞爵させるような権限なんてあるのか!?
「しかしそんな簡単になれるものなんですか……?」
「今のままでは無理だな」
じゃあ、どうしろと……。
「だから、相応の武勲を立てる必要がある。
そちならばできるだろう?」
う~ん……俺とアンシーの実力も把握されている感じかな?
「具体的にはどのように……?」
その辺の魔物を狩ってこいと言われても、どれだけ倒せば陞爵に値するのか分からんぞ。
ドラゴンみたいなレアモンスターならあるいは……だが、そういうのって簡単に見つかるものなのか?
俺がそんなことを考えていると、王女は言った。
「ああ、何も冒険者の真似事をしろという訳ではない。
今、カトリ教国による侵攻が激しくてな」
……また教国か。
魔族の領域に攻撃をしかけていることは把握しているが、最近はこの国にも領土的野心を持ち、小競り合いを仕掛けてくるらしい。
まあ、表向きは教義で神敵となる亜人種の征伐を理由にしているが、この国にとっては亜人種も国民だし、どのみち他国の軍隊を国内に入れる訳がない。
そんな訳で国境線の周辺では、きな臭くなっているとは聞いていたが……。
「現在、教国がマルドー辺境伯領の砦に、攻撃を仕掛けているのだ」
「それを私にどうにかしろ……と?」
「そちならば、できるであろう?」
王女は確信に満ちた顔で言う。
でも、分かっているのか?
それって、人間同士が殺し合う戦場へ、俺に行けってことだぞ?
俺の能力を十全に発揮したら、何百何千もの人間が死ぬかもしれないということだぞ?
……気は進まない。
ただ、このままだと、もっと大きな戦争に発展する危うさがあることも理解できる。
教国がほんの少しの領土をかすめ取った程度で満足するのなら、最初からこんなことはしない。
侵攻することで得られるメリットがデメリットを上回っている内は、戦いを続けるだろう。
「ちなみに拒否することは……?」
「その場合は、公爵家に対しての暴挙について、お咎め無しとはいかなくなる。
勘違いしてほしくはないのだが、私はそんなことはしたくないのだ。
だが、それを許せば、貴族社会は荒れる。
だからそちがこの話を受けて結果を出したのならば、相応の地位を与えて不問とする。
これは国王陛下の名に誓って確約しよう」
……仕方がない……か?
国王の名まで出されちゃなぁ……。
「分かりました。
辺境伯家のコリンナ様にはお世話になっているので、彼女のご実家の為に戦います」
王女よ、お前らの為じゃないんだからな。
なんでも思い通りになると思うなよ。
いいようにこき使われるのは面白くないから、あくまで俺は交流がある人の為に戦う。
……そういうことにしておく。
「よい。
ただし、あまり長期間は、他の貴族共を抑えてはおけんぞ」
短期間で結果を出せということか。
本気を出さなきゃ駄目かもなぁ……。
ともかくそんな訳で、俺の出征が決まった。
私はミーティア。
この国の第5王女だ。
私の婚約者であったイトコのラーガン兄様がやらかした所為で、貴族社会に激震が走る事態になったが、もう1人の当事者であるタカミ子爵と今し方、問題の解決に向けての話し合いが終わったところだ。
彼女と従者が今後の準備の為に帰宅すると、応接室内の空気が弛緩した。
「ふう……」
私も思わずため息を漏らす。
「当初の予定通り話を進めたが、もっと譲歩しても良かったかもな」
ここで譲歩してたかが子爵を優遇すれば、ザントーリ公爵家派閥の貴族達から反発を受けるかもしれないが、その方がマシだったのではないかと、思い始めている。
「なんなんだい?
あの子から滲み出す魔力の量は?
敵対したら、勝てるとは思えなかったよ」
まだ幼く可愛らしい姿なのに、その魔力は底が見えなかった。
正直、怒らせたら命が無くなると、緊張を強いられたぞ……。
そんな私の言葉に、側近達が頷いた。
「そうですな。
ただ、私は子爵の背後に控えるメイドの方が、脅威だと感じました」
「ほう?」
例の蘇ったというメイドだな?
私は何も感じなかったが……。
しかし騎士団でも指折りの実力者が言うのなら、確かなのだろう。
「隙がまったくありませんでした。
それでいて、魔力どころか生命力すら感じません。
一体どのようにして動いているのか……」
普通の人間ではないということか。
しかしアンデッドとして復活したのならば、その身体を維持する為の魔力は必須のはず……。
その魔力すら感じられないというのなら、何か別の存在なのか、それとも能力の隠蔽能力が桁外れなのだろうか?
いずれにせよ、よく分からないものを過剰に刺激して、破滅を招くのはいかん。
タカミ子爵自身、四肢を失っていたと聞くが、先程直接見た限りでは、何も問題が無いように見えた。
かなり上位の回復魔法でも、手足は簡単には生えないはずなのだがな……。
ましてや死者の蘇生など……。
どうやらあのメイドは単純な蘇生ではないようだが、それでもこの事実を知れば、その手段を手に入れて悪用しようとする者は後を絶たないだろう。
それは国に混乱を齎す。
……最初に私の所へ話が来て良かった。
迅速にメイド蘇生の情報だけは、封じることができたからな。
「改めて言うが、彼女達については他言無用。
他の勢力にも関わらせるな。
接触と交渉は私に任せてもらおう」
「「「はっ」」」
できれば友好的にいきたいものだな。
この私の判断が、国の命運を左右する。
そんな確信めいた予感があった。
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