色々聞かれました
応接室に現れた偉そうな少女は、王女様だった。
第5王女とはいえ、王族じゃないか
思わぬ大物の登場に、俺は深々と頭を下げる。
「良い。
楽にしてくれ」
そう言われてもなぁ……。
この人、男みたいな口調でナチュラルに尊大だし、緊張するわ……。
俺から話しかけてもよいのかどうか……。
王族が相手だと、許可が出されるまで話しかけてはいけないとかいうしきたりがある場合もあるし。
なんで俺を呼び出したのか……とか、聞いてもいいのか、これ?
で、俺が黙っていると、ミーティア王女の方から質問があった。
「そちを呼び出したのは他でもない。
ラーガン兄様について聞きたいのだ」
「……ラーガン……様ですか?」
俺は首を傾げる。
誰それ?
完全に初耳の名前なんだが……。
俺が本気で困惑しているのを見て、王女の護衛が助け船を出してくれた。
「ザントーリ公爵家の、ご長男でございます」
ああ、あの変態か!
え? 何?
王女とあの変態は、どういう関係なの?
「兄様」と呼んでいることを考えると、かなり近しい関係だよな?
イトコとか、そんな感じだろうか。
これは下手なことは言えないなぁ……。
だが──、
「ラーガン兄様とそちの間で、いざこざがあったと聞いている。
経緯を説明せよ」
と、王女は求めた。
これは公爵家からも、ある程度事情を聞いている感じかな?
向こうの都合の良いことばかりを吹き込まれている可能性もあるので、正確に説明した方がいいだろう。
「私とラーガン様とは、言葉を交わしたことも無いのですが……」
そう前置きして、下着泥棒のことや、それを捕縛したら何故か俺の方が逮捕されたことまでを説明した。
そこから先はあまり聞かれたくないので、とりあえず保留する。
「ふむ……ラーガン兄様がそちに暴行を受けたとは聞いていたが、事実ではあっても、肝心な情報が抜けていたか……」
そうですよ、俺何も悪くないもん
「それで……?」
「それで……とは?」
「惚けるな。
何故、兄様は行方不明になっている?
そちはどのようにして釈放された?」
やっぱりそれも話さなきゃ駄目?
……駄目かぁ。
俺は覚悟を決めて話す。
どうせある程度のことは、公爵家から聞いているのだろう。
あの夫人や執事には口止めしたというか、俺に敵対するような行動をしないように釘を刺しておいたつもりだが、それでも王族から説明を求められたら抵抗はできないはずだからな。
だから王女には、俺達があの変態達を処分したことまで把握されていると考えるべきだ。
その上で俺と直接会うということは、敵対するつもりは無いと、彼女は考えているのかもしれない。
俺が……というか、アンシーがその気になれば、王女とその護衛を皆殺しにする為には、数秒もあれば足りるだろう。
彼女がその危険性を考慮せずに、俺の目の前で敵対行動をするとは考えにくい。
そんな訳で俺は話す。
公爵家に連行されたこと。
そこでの交渉で、公爵家に非を認めさせたこと。
しかしラーガンがメイドを拉致して殺害したので、報復したこと……を。
「……」
俺の話を聞き終えた王女は、黙り込んだ。
「あの兄様がな……。
公の場では、常識的な振る舞いをしていたように見えたが……」
そうなんですよ。
あいつってば、裏では変態でサイコパスだったんですよ。
だから俺達の報復には、正当性があるっス!
しかし王女は──、
「兄様は私の婚約者だったのだ」
と、衝撃的な事実を口にした。
え、直接復讐したいから、この面会をセッティングしたとか言わないよね!?
俺はそう危惧したが、王女は笑みを浮かべる。
「つまりそんなクズと結婚せずに済んで、私は助けられた形になる訳だ。
私個人としては複雑な想いもあるが、そちへの感謝の気持ちもある」
お?
流れが変わったぞ?
だよな?
あんな変態と結婚なんかしたら、人生が終わるもんな。
しかも王族との婚姻だから、下手に権力を持たせたら国が傾くぞ。
まあ、結婚を予定していた相手が死んだのだから、王女には思うところもあるのだろうけれど、王侯貴族の間ではそんな感情を後回しにしてでも選択すべきことがある。
俺との敵対は、間違い無く国にとっての不利益になるだろうし。
「だが、たかが子爵が、公爵家に逆らったとなれば、貴族社会の秩序が保てぬ。
それはまずい。
事実、そちに敗北した形となるザントーリ公爵家は、没落していく可能性が高い。
そうなれば公爵家が持っていた利権を狙って、暗躍を始める貴族も出てくるだろう。
何らかの形で締め付けが必要になる」
駄目かーっ!!
そりゃ、下の者が上位者に逆らうことを良しとすれば、階級制度が瓦解する可能性もあるからな。
今回の件では一部の貴族が俺の釈放の為に動いたから、隠蔽して無かったことにするのも難しいはずだ。
そして事件の噂が広まれば、俺をお咎め無しにすることはとは難しくなる。
「……それでは、私はどうすれば良いのでしょうか」
そんな俺の問いに、王女は予想外の答えを提示した。
「うむ……要は身分を無視した争いによって、下剋上が起こったという形にならなければよい。
ならばそちが公爵……せめて侯爵になれは、同格同士の争いだったということで済む」
と、とんでもないことを言い出した。
本作を読んでいただき、ありがとうございます。