露天商
そんな訳で数日後──。
俺は男だった時の服で身を包み、長い髪を帽子で隠して出掛けることにした。
身長も縮んでいるから、微妙に服のサイズは合っていなかったが、それはメイドのアンシーに仕立て直してもらった。
それでも肩幅とかも違っているらしく、どうしてもピッタリとはいかなかったが……。
出掛ける目的は、露天商をはじめる為だ。
そこで俺が作った武具……みたいなものを売る。
そしてこの男装は、お嬢様みたいな風貌だと客に胡散臭く見られたり、なめられたりすると思うので、せめて少年に見えるようにした訳だ。
でも、身長が縮んだ所為で、本来の10歳よりも下に見られるかもしれないなぁ……。
変な客に、からまれなければいいけれど……。
で、露天商を開く場所はこの前、門前払いを受けた武具屋の近くにある路地を選んだ。
それなりに人通りは多いようだし、何よりも売った物の評判が上がれば、それを聞きつけた武具屋の方からこちらに声をかけてくるかもしれないからな。
それで店舗の方に卸せるようになるのなら、そっちの方が効率がいい。
そんな狙いもあるので、売る物にはちょっと目立つような、珍しい物も用意してある。
「なあ、これはなんだい?」
早速30分ほどで、声をかけてくる者が現れた。
「これは竹刀という、剣の練習に使うものです。
持ってみてください。
中身が空洞になっているので、木刀よりは軽いですし、威力も劣るので、怪我もしにくいです。
子供でも比較的安全に使えると思いますよ」
「へえ……」
しかもこの辺には生えていない竹で再現してあるから、他では手に入れることはできない。
つまり、めっちゃレア物だぞ!
それでいて棒切れから変換が可能なので、製造コストが低いのも魅力だ。
「どうです?
初めてのお客さんだから、銀貨5枚のサービス価格ですよ。
通常なら倍の金貨1枚だ」
「ふむ……」
銀貨5枚と言えば、日本円で5000円くらいの感覚だろうか。
竹刀のレア度を考えれば、十倍の金貨5枚でも売れるだろうけれど、今は販路が無いので、まずは名を売ることの方が優先だな。
客の男は、ひとしきり竹刀を振り回した後──。
「ここにある3本全部もらおうか」
「毎度あり!」
初めて自分が作った物が売れた。
これはなかなか嬉しいもんだな。
しかもたかだか30分程度で、15000円相当の稼ぎだ。
まっとうに1日働いても、子供では絶対に手に入れられない額だ。
悪くない稼ぎではないだろうか。
いや、今の俺の外見なら需要はあるから、やりようによっては10倍以上の稼ぎも可能だろうが……。
だがやらん。
男の相手とか絶対にやらん……。
ロリコンのお姉さんがいたら、考えなくもないが……。
そしてその後も、毛皮の帽子が金貨1枚で売れたし、この商売でやっていけるという手応えを感じた。
生活費を稼ぐだけなら、これだけでもいいくらいだ。
ただ、身の安全を確保する為には、まだ財力も能力も伸ばさなければ……。
……ともかく、そんな順調な滑り出しの商売だったが、更なる転機は3日後に訪れた。
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