子供の喧嘩に親が出る
俺は官憲の詰め所にある地下牢へと、ぶち込まれた。
こんなの前世を含めても、初めての経験だよ……。
しかも食事は不味いし汚いしプライバシーは無いしで、最悪の環境だ……。
トイレも外から丸見えなんだよ!
まあ、トイレは人気が無い時に、念の為大きな盾を立てかけて隠すことで凌いだが……。
ふう……「変換」があって良かった。
そもそもこれ、何の待ち時間?
裁判があるとは聞いてないし、かといって刑罰が決まっている訳でもないようだ。
いつまでこんな詰め所の牢屋に、閉じ込められるのだろう?
収容所とかへの移送は無いのか?
それがハッキリしないと動きにくい。
そして2日後──。
「外に出ろ」
俺は外に出され、馬車によって護送されることになった。
勿論、俺には手枷がかけられ、拘束された状態だったがね……。
どこに連れていかれるのか聞いても答えは無かったが、大体想像はつく。
で、馬車で移動すること15分ほどで、目的地に到着したようだ。
そこは豪邸だった。
やはり上級貴族の家か。
俺が玉を潰した、変態の実家なのだろうな……。
そして俺は拘束されたままで、応接室らしき場所へと通された。
それから待たされること30分ほど──。
執事らしき男と多くの護衛を伴って、おばさんが部屋に入ってきた。
豪華な衣装で身を包み、化粧もしているが、年齢は隠しきれない。
無理をして若作りをしているな……という印象だった。
おばさんは俺の正面にあるソファーに座るが、俺を睨み付けるだけで言葉を発さなかった。
しかし代わりに──、
「名乗りなさい」
と、老齢の執事が告げる。
子爵家当主に対して、命令口調だと……?
となると、このおばさんはかなり身分が高いってことか?
その後ろ盾がなければ、ただの執事が子爵家当主に対して有り得ない態度だ。
……ここは素直に名乗っておくか。
「エルネスタ・タカミ子爵です。
どうぞお見知りおきを……」
「ここに御座す奥様は、ザントーリ公爵夫人であらせられます。
この度の件について謝罪を」
「こ……っ!」
公爵家……!?
貴族としては最上位で、王族の親戚筋である場合もある連中じゃないか。
そりゃあ、そこのご子息の玉を潰したとなれば、不敬罪で処刑も有り得る暴挙だわな。
あの変態が長男だった場合、直系の家系が途絶える可能性もあったのだから。
それだけに、謝罪しただけで許してくれるの?
違うよね?
しかも謝ったら、そこにつけ込んでくるのが貴族や政治の世界だろ?
そもそも悪いのはあの変態じゃん。
素直に謝るのはなんか嫌だな……。
いっそ論破してやる勢いで抵抗するか。
「謝罪することは吝かではありませんが、ご令嬢方の下着を盗んだご子息も、彼女達に対して謝罪し、損害を補填していただけるのでしょうか?
犯罪行為をした彼の謝罪が無いのに、私だけが謝るのは道理に合わないと思うのですが?」
「!」
俺の発言で、一気に室内が殺気立った。
うわぁ……公爵夫人達の顔が怖い。
だが、ここで屈したとしても状況が好転するとは思えないから、強気で行こう。
「しかも今回の件は、表沙汰にはできないことでしょう?
だから彼に謝罪なんて、できませんよね?
つまり最初から、公爵家としては何も関わりが無かったことにするしかない。
ならば私も、何も関わりがありません。
何処に謝罪すべきことがあるのでしょう?」
これは謝罪の拒否でもあるけど、変態の正体について吹聴しないという譲歩でもあるんだぞ。
まあ、公爵家の力なら、口封じをした方が手っ取り早いと考える可能性もあるが。
「……屁理屈を!」
ここで初めて公爵夫人が口を開く。
怒ってはいるようだが、いきなり逆ギレするほどではないようだ。
「それよりも、お互いにとって利益のある話をしませんか。
私は商人ですので、禁制品で無ければ大抵の物を、適正価格でご用意できると思いますが?
どうです、マダム?」
実際、俺に謝罪させる為だけに、公爵夫人ほど身分が高い人が、わざわざ格下の俺に直接会うとは思えないんだよな。
他に何か目的があると、考えた方がいいような気がする。
「……確かに、最近は羽振りが良いようですね。
特殊な防衛装備や、自転車なる革新的な商品の評判も聞き及んでいますわ」
ふむ……こちらのことは調べているか。
むしろ謝罪要求は建前で、俺の商会の方が本命なのかもしれないな。
「だが、そのような態度で良いのか、小娘?
我が公爵家の力ならば、その商会を潰すことも、奪うことも容易いのよ?」
俺を脅す気か。
ならば俺も脅すぞ?
「……ええ、公爵家の力なら、可能かもしれません。
ただ、あの商会は私の能力があってこそなので、私がいなければ奪ってもあまり意味がありませんね。
それに権力の差があるのは現時点での話ですし、そもそも物理的な力の差があることを見誤ると、酷い目に遭いますよ?」
「戯れ言を……!!」
「そうでしょうか?」
ここで俺はアクションを起こす。
「!?」
「何事!?」
公爵夫人は勿論、執事や護衛達も動揺する。
そりゃ、目の前のテーブルが、突然発光して跡形も無く消滅すれば、驚愕するわな。
この場で冷静なのは、その現象を起こした俺だけだった。
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