大パニック
前回の冒頭に数行ほど追加しています。
ヤバイ!!
騒ぎを聞きつけた生徒が、ここに集まってくる!!
これは早めに下着泥を無力化しないと、こいつの攻撃に生徒が巻き込まれるとか、人質に取られるとか、ろくなことにならんぞ!?
「アンシー、ミミ!!
全力で制圧を。
生徒に被害が及ぶようなら、実弾を使用しても構いません!!」
「「はっ!!」」
アンシーとミミは、連続でゴム弾を下着泥へと撃ち込む。
俺はテーザー銃が効かなかったので、手裏剣に切り替えて投げつけた。
電撃への耐性はあるのかもしれないけど、刃物ならどうだ?
「ぐっ……!!」
さすがにゴム弾の速度は回避できないらしい下着泥だが、手裏剣はなんとか回避している。
避けるということは、当たれば効果があるということだ。
だが、当たらなければ意味は無い。
それにゴム弾によるダメージも皆無ではないはずだが、このままではいつ倒れるか分からん……。
あ、そうだ。
これなら……。
「!?」
突然、下着泥の足下が消失する。
俺が「変換」で落とし穴にしたのだ。
ここに落とせば、下着泥を無力化できる──はずだったのだが……。
「あっ!?」
下着泥が穴の壁面にしがみついたその瞬間、猿のような俊敏さでよじ登り、そして更に跳躍して寮の壁に貼り付いた。
このまま壁を登って逃げる気か!?
「逃がさないで!!」
「ハイッ!!」
アンシーとミミが下着泥の手に集中砲火を浴びせ、ゴム弾が命中した衝撃で壁から指が離れる。
そして落下した彼は地面との衝突によって、今までで1番大きなダメージを受けたようだ。
これなら拘束するのも、そんなに難しくないか?
それくらい動きが鈍くなっている。
直後──、
「お姉様、大丈夫ですか!?」
セリエルやその他の野次馬達が、この場へと到着した。
……って、野次馬の中に、クレアとアリサもいるじゃないか。
危ないから近づくなと言っておいたのに、むしろ騒ぎに乗じて様子を見に来たのか。
俺と目が合った瞬間に目を逸らしたってことは、怒られるようなことをした自覚はあるということだろう。
「まだ不審者を拘束していないので、危険です。
下がっていてください!」
とはいえ、既に20人以上の囲みの輪ができていた。
殆どは無力な子供だが、中にはセリエルやクレアとアリサのように、戦闘クラスや魔法クラスの上級に所属する実力者もいる。
今の下着泥には、この囲みを突破するほどの力は残されていないと思うが……。
「何……?
あれが下着泥棒……?」
「変な格好……」
野次馬達は、ある意味呑気な反応をしている。
もしも下着泥が爆発物とかを持っていたら、命に関わるんだぞ。
下着泥にこれ以上変な動きをさせないように、気をつけないと……。
──って!?
下着泥が自身の服に手をかけた──そう思った瞬間、彼はその服を引き裂き、マスクと靴を残してほぼ全裸となった。
……は?
「「「「きゃぁぁーっ!!!?」」」」
「め、目が穢れますわーっ!?」
「なっな……ふえあっ!?」
「……変態だぁぁぁぁーっ!?」
野次馬達から悲鳴が上がる。
俺も思わず叫ぶ。
それぞれの反応は様々だ。
手で顔を隠して、ひたすら悲鳴を上げる者。
前者と同様のリアクションに見せかけて、実はチラ見している者。
この場から逃げだそうとする者。
腰を抜かして、地面に座り込む者。
気絶する者。
まさにパニック状態。
大多数のお嬢様達にとっては、男性に対する免疫が無く、その全裸は衝撃過ぎたようである。
まあ、貴族の令嬢にとっては、婚約者や配偶者以外の男性との接触すらも禁忌だろうしなぁ……。
ただ、男だった頃の俺の面倒を見ていたアンシーや、兄弟がいたクレアやミミには多少免疫はあるようだが、それでも初めてまともに成人の男性器を見た所為で硬直している。
なお、俺から見た感想は、「ちっさ」である。
それよりも……下着泥の奴、この混乱に乗じて逃げ出すつもりか?
ここは元男であるが故に、何にも感じていない……というか、さすがにこんな所で全裸になるような変態は怖いが、それでも冷静に対応することはできる俺が対処しよう。
俺は変態へと、無造作に近づいて行く。
「い、いけません、お嬢様!」
アンシーの悲鳴じみた声が上がるけど、彼女だってまだ完全に立ち直っていない。
今、この変態を倒せるのは、俺だけだ。
変態は、俺が近づいてきたことに対して、すぐさま反応した。
俺が近づいているのだから、警戒している暇は無い。
逃げるか、それとも俺を倒すか──すぐに動き出す。
俺が素手であることから、俺を突き飛ばして突破しようと判断したのか、変態が突進してきた。
……ほぼ全裸という、異様な風貌の所為で、妙な迫力があるな……。
だが、ここは冷静に対処だ。
俺が狙うのはただ一点。
これが決まれば、この変態も一撃で沈む。
「かっ……!?」
靴の皮ごしに、嫌な感触が伝わってくる。
直後、変態は悲鳴を上げることもなく地面に倒れ、切迫したような呻き声を上げていたが、それもやがて止まった。
どうやら気絶したらしい。
……俺が股間を蹴り上げたからな。
たぶん玉が潰れたから、その激痛に耐えられる男はいないだろう。
元男としては少し同情するが、俺自身はもう経験できない痛みだし、他人事に感じている部分の方が大きい。
そして、精神的へと女に近づいてしまったんだなぁ……と嫌な実感をした。
その後俺は、勇敢にも単騎で変態を討ち取ったということで、生徒達から賞賛の歓声を浴びることとなった。
そう、一躍して学園の人気者となったのだ。
……だが、本当の問題はここから始まることになる。
まだ何も終わってなどいなかったのだ。
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