付与してみた
まず、「空間収納」から鉄の剣を取り出した。
「では、これに魔法を付与してください」
それを妹のクレアに渡す。
付与魔法が得意だという、その実力を見せてもらおう。
「重量軽減が基本だから、それでいい?」
それが基本って、結構凄いよな。
魔法で重力に干渉できるのだから、やはりこの世界の技術も侮れない物がある。
で、クレアは剣に魔法を付与する作業に入った。
それは魔力によって術式を──効果を発揮させる為の紋様を対象へと焼き付けることで成立する。
短時間だけ効果を持たせるのなら、わざわざ紋様を焼き付ける必要は無いけれど、永続的に効果を持たせるのなら、それを維持する為の仕掛けが必要なのだという。
そもそも効果を持続させる為には魔力が必要であり、その魔力を空中から自動的に集める術式の付与が大前提となる。
そして更に、その他の魔法効果を発揮させる為の術式を追加する──ここまでで付与魔法一式だ。
それを紋様として対象に焼き付け──まあ、焼き印で印字するようなものだが、これだとその紋様が傷や経年劣化などで効力を失う場合もある。
だから本当ならば物理的に彫り込むのがいいらしいのだが、それだと時間がかかるので、今は簡易的な物でもいい。
とはいえ、この簡易版でも10分近くかかったが。
「できたよ」
「ありがとう」
うむ、本当に軽くなっている。
じゃあ、この鉄の剣に付与された紋様を崩さないように、鋼の剣へと「変換」を試みる。
「う……う~ん……」
これは上手くいかなかったな……。
重量軽減の紋様が崩れて、急激に重くなってしまった。
再挑戦するにしても、またクレアに術式を付与してもらうのは手間だ。
それならば。
「こんな感じだったかな?」
今度は最初から術式の紋様を刀身に刻み込んで、「変換」してみる。
俺はイメージさえ明確なら、ある程度はデザインもいじれるからな。
しかし──、
「駄目ですね……」
魔法は付与されなかった。
「紋様が間違ってるよ、これ。
それに最低限の魔力を封じて付与しなければ、機能しないし……」
あ~、車のエンジンをかけるのに、バッテリーの電気が必要なのと同じ感じ?
俺にはその大前提となる電気を、充電させることができない。
たぶん紋様が正確でも、始動はさせられないのだろう。
「う~ん、地道に練習するしかないかな?
クレア、大変でしょうけど、付与した道具を量産してください」
「いいけど……1日10回くらいが限度だと思うよ?」
「非効率だけど、仕方がありませんね……」
その時──、
「あの~」
今まで見ているだけだったアリサが口を出す。
「その付与術式を、直接エルが変換とかいうのにできないの?」
「!」
そうか。
俺は自分の魔力から「変換」で物質を生み出すこともできるから、クレアの魔力で作った術式を「変換」の材料にすることもできるかもしれない。
さすが、子供の発想は柔軟だわ。
「クレア、付与術式を、空中にとどめておける?」
先程も紋様を空中に描いてから、それを剣に固着させたので可能なはずだ。
「長い術式は難しいけど、基本のならたぶん……」
そんな訳で、クレアに描いてもらった術式を、俺の魔力で包むようにしてから「変換」してみる。
なるべく包み込んだ内部に、干渉しないように……。
その結果──。
「失敗……」
だけど、先程よりは重くはない。
半分は成功って感じか。
物体に固着していない、不定型な状態の術式そのものを内部に残しているからこそ、多少の変質では効力を失わなかった……ということも有り得るのか?
ともかく、完全な失敗ではないのなら、いずれは成功させることも可能なはずだ。
事実、この試みは4日後に成功することとなった。
まあ、更に複雑な術式を組み込むのには、更なる修練が必要だろうけど……。
その辺はクレアの協力ありきなので、焦っても仕方がないな。
彼女だって、複雑で長い術式を空中で維持させることには、苦戦しているし。
「それならば、2人がかりで……」
「「え~?」」
「こらこら、揃って嫌な顔をしない」
そこでアリサにも協力してもらうことにしたけど、2人の仲がまだ親密ではないので、今後コンビネーションの成長も期待するしかないだろう。
いずれにせよ、ある程度の目的は達成できそうなので、魔法クラスの初級にいつまでも甘んじている必要は無くなった。
むしろアリサとクレアと同じ上級クラスへと、さっさと上がった方がいいだろうね。
ということでスキルによって擬似的に発生させた魔法で教官を騙し、俺は上級クラスへあっさりと昇級するのであった。
今後は疑似魔法を、いかに本物の魔法っぽく見せることに注力することにしよう。
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