和解をしよう
「誠に申し訳ありませんでした……!」
ここは学校の保健室。
そして椅子に座っているアリサの前──そこの床で、俺は土下座をしていた。
隣で同じように、妹のクレアも土下座している。
というか、俺が土下座させた。
「……スミマセンデシタ」
棒読みはやめようか?
アリサに嫌がらせしていた犯人は、妹のクレアなのではないか──?
その可能性に気付いた俺は、スキルを使ってあぶりだすことを思いつき、それをアリサへと持ちかけた。
「この道具を机に置いておくだけで、犯人が分かるから」
──と。
俺が作り出した武具は、特定の条件を満たすと予め設定しておいた効果が生じるようになっている。
基本的には犯罪行為とかに使おうとすると機能を失うだけだが、特定の誰かに対して悪意を持つ者が触れると爆発するとか、違う設定にすることもできるのだ。
今回はその能力を使って、犯人を特定することにした。
まあ、爆発させると相手は死ぬので、今回は催涙ガスが噴出する程度にしておいたが……。
クレアはその罠へと見事にひっかかり、苦しんでいるところをアリサに身柄を確保されることになる。
その後、咳と涙が止まらなくなったクレアは、保健室送りとなったのだ。
そして犯人確保の報告を受けた俺が保健室へと合流し、症状が落ち着いたクレアと一緒に土下座することになった訳だ。
……「犯人を見つけ出して、一族郎党に土下座させてやる」と宣言していたので。
俺、犯人の一族だったよ……。
「なんでエルが謝っているの……?」
アリサは困惑する。
まあ、説明も無く初手で土下座を決められては、そうなるだろうな。
「クレアは私の妹です。
実家とは訳あって離縁していますので、会うのは3年ぶりですが……」
「そう……だったんだ……」
「今回のことは妹が辛い時に、何もして上げられなかった私にも責任があります。
クレア、あなたが何故こんなことをしたのか、ある程度は察することができます。
寂しかったのですよね?
あなたに何も言わず家を出た、私が悪かったのです。
ごめんなさい」
そんな俺の言葉を受けて、クレアは泣きそうな顔へと歪めた。
「なによ……。
別人みたいな喋り方して……!」
ああ、今は外面モードだからな。
美少女が男言葉だと、おかしな目で見られることも多い。
だから普段は、淑女を演じるようにはしているが……。
でも、それじゃあクレアの心には、響かないか……。
「ああ、ごめんな。
急に別人へと変わってしまって、お前も戸惑ったよな?
姿や振る舞いが変わっても、中身は変わっていないつもりだぞ」
「うう……兄様の馬鹿ぁ……!!
私の方こそごめんなさい。
私は兄様が1番大変な時に、何もできなかった……!!」
そしてクレアは、大粒の涙を流し始めた。
「兄さ……モガッ!!」
おっと、余計なことを喋っているので、俺はクレアの頭を抱えるように、胸へと包んで口を塞ぐ。
最初は藻掻いていたクレアだが、暫くすると大人しくなって、俺の身体を抱きしめ返してくれた。
……なんか、やたらとスーハーしているのは気の所為か?
ネコ吸いをされている気分。
「兄様……?」
一方アリサは、訳が分からないという顔で俺達を見ていた。
うん、たまに男言葉になることくらいは知っているが、俺が元男だということは彼女にも秘密だからな。
だが、やがて疎外感を抱いたのかアリサは──、
「私もー!」
と、俺の背中に抱きついてきた。
「……兄様は私のなんだけど?
離れなさいよ」
「兄様って何よ?
エルは私の親友よ!」
なんか幼女2人の間で、俺の奪い合いが始まったのだが……。
俺を挟みながら争わないでほしい。
でも、正面から言いたいことを言えるのなら、今後2人が仲良くなれる可能性はあると思う。
水面下で争うよりは余っ程いい。
それよりも……。
「お嬢様、随分とおモテになるようで……」
今までことの成り行きを見守っていたアンシーが、笑顔でそう呟いた。
笑顔なのに冷たい物を感じる。
これ、絶対に怒っているよね!?
でも、俺は何も悪いことをしていないよね!?
俺はミミの方へ助けを求めるように視線を送ったが、彼女は視線を逸らせるだけだった。
誰か俺を助けてくれ……。
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