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嫉妬とやつあたり

 私はクレア。

 アーネスト兄様の妹だ。

 しかし今、兄様の隣にいるのは私ではない。

 まるで本物の妹のよう顔をして兄様の隣にいるのは、別の人間だった。


 ずるい!

 私は兄様とどんな顔をして会えばいいのか、それさえも分からないのに……。


 勿論、兄様から逃げてしまった私が悪い。

 兄様を捨てた両親も悪い。

 それは分かっている。

 分かっているけど、このやるせない気持ちをどこかへぶつけないと、どうにかなりそうだった。


 幸いにも……と、言っても良いのだろうか……?

 兄様の隣にいた子は私と同じクラスにいて、彼女について調べることは簡単だった。


 その名はアリサ・ブラウン。

 私が1年かけて勝ち取った魔法の上級クラス──そこに編入する資格を、彼女は入学早々いきなり得たのだ。

 座学や戦闘でも中級クラスで、私と同じだった。

 悔しいが学校に1年通っている私と、彼女は既に同等の能力があることになる。


 アリサは私と同じく、男爵家の娘らしい。

 ただ我が家のように先祖代々の男爵家とは違い、最近爵位を得たばかりの、所謂(いわゆる)成り上がりと呼ばれる家のようだ。

 生意気なやつ!


 ……成り上がりといえば、おかしな話を聞いた。

 私は兄様とは1つも同じクラスにはなれなかったけれど、クラスメイト達がする噂話から兄様のこともなんとかして調べようとしたのだ。

 ただ、私には友達がいないので、他の子達の会話を盗み聞きしているだけなのだけれどね……。


 その話によると、新入生に子爵家の当主がいるらしい。

 しかも自らの力で成り上がった……とか。

 その名もエルネスタ・タカミ子爵。


 ……どうやらそれが、兄様らしいのだけど?

 どういうことなの?

 子供が子爵になれるものなの?

 どうやって?

 高額納税で陞爵(しょうしゃく)できるのは知っているけど、そのお金は何処から来たのかしら?


 よく分からないけど、兄様が凄いということだけは分かった。

 実際、マルドー辺境伯家のコリンナ様も一目を置いているとか。

 さすがは私の兄様だ。


 ……アリサはそんな兄様の威光に(たか)る、羽虫のようなものね。

 なんて鬱陶しいのかしら。


 だから私は、ちょっとした嫌がらせをすることにした。

 アリサが隙を見せた隙に、彼女の私物を隠したり、席に紙クズを置いたり……。

 ただ、あまり酷いことをすると兄様にばれた時に心証が良くないだろうから、あまり手の込んだことはしていない。


 だから本当なら兄様からアリサを引き剥がす為には、徹底的に叩き潰すべきなのだろうけど、迂闊なことはできない。

 我ながら気の小さいことだと思う。

 それでも私の気は、少しだけ晴れたような気がしたのだ。


 そんな生活を続けていたある日、私は普段と違う時間に入浴することになった。

 いつもは大浴場が開いた直後の、人が少ない時間帯を狙って入っている。

 その時間帯はまだ学校に残っている人が多いし、寮の門限までには町へ行く者もいた。

 なので大浴場に訪れる人もあまりおらず、気楽に入浴を楽しむことができるのだ。


 だけどその日は色々とあって、大浴場の終了間際に入浴することになった。

 そこでまさか、兄様と鉢合わせになることになるとは思わずに。


 大浴場に入ってきた兄様に、私は目を奪われた。


 うわ……っ、兄様の身体(からだ)綺麗……!

 手足はすらりと長くて、肌も白くて艶があって、凄く柔らかそうで……!!

 同じ生き物とは思えない。


 私の貧相な身体と比べるのは、恥ずかしいくらいだ……。

 私なんて背も低くて、手足もガリガリで、胸も平らで……。

 うう……こんな私を見ないでぇ……!


「な、なんであなたみたいな人が、女子校に入学しているのよっ!!」


 兄様は元男なのに、まるで女子のプライドを打ち砕く為に、存在しているかのような容姿をしている。

 比べられる者の気持ちになってほしい。


 って、兄様といきなり会っても、何を話していいのか分からない。

 そもそも私のことを、兄様は憶えているのだろうか……!?


 そう思うと私は怖くなって、その場から逃げ出してしまった。

 そして部屋に戻ってからも私は、グチャグチャになった心をどうして良いのか分からず、ベッドの上で身悶えながら眠れぬ夜を過ごすことになる。


 翌日、私は寝不足の所為でイライラとしていた。

 よし、アリサに嫌がらせをしよう。

 人目が無くなるタイミングを狙って、さりげなく彼女の席に近づく。


「あれ……?」


 机の下部に備え付けられている教科書とかを入れる為の棚に、何かが置かれていた。

 全体的に黒くて、何か短い筒のようなものがついていて……。

 これ、昔兄様が暴漢を倒した時に、使っていた武器なのでは……!?


 私は思わず、それを手に取ってみた。

 やっぱり見覚えがある……そう思った瞬間、


「きゃっ!?」


 手にしていた物体は(はじ)け、中から煙のようなものが吹き出した。

 それを吸い込んだ瞬間、私の身体には劇的な変化が生じる。


「げふんっ!!」


 私は咳と涙が止まらなくなり、悶え苦しむことになったのだ。

 な、なにこれぇ~っ!?

 いつも応援ありがとうございます!

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