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シスターコンプレックス

 途中で視点が変わります。

 俺は湯船に()かりながら、呆然としていた。

 ちょっと予想外すぎる再会があったからな……。


 そういえば俺には、妹のクレアがいたっけ……。

 ただ、俺が最後に見た彼女はまだ7歳だったので、3年も経過した現在ではかなり印象が変わっており、一見しただけでは分からなかった。

 子供にとって3年間という年月は、それくらい変化するものだ。

 特に女の子は、髪型とかでも劇的に印象が変わるし。


 一目で見抜いたアンシーの方がおかしい。


「よく一目で、クレアだと分かったね……」


「お嬢様と、少し似ていましたので」


「……そう?」


 俺の認識だと、今の俺とクレアは似ていない。

 男だった頃はともかく、今では髪の色が似ている程度だと思う。

 アンシーは俺達兄妹が(かも)し出す雰囲気とか、そういものを感じ取って言っているのだろうか……?


 しかしまさかこんなところ(女子寮)で、クレアに会うとはなぁ……。

 そして俺が元男だと知っているクレアからしてみれば、裸を見られるのには抵抗があったのだろう……。

 あの身体(からだ)を隠して逃げ出すという反応も、当然と言えば当然だ。

 色々と聞きたいこともあったが、あんな状態の彼女を追うことはできなかった。


 で、その聞きたいことだが、たぶん入寮当初から俺のことを監視していた視線は、おそらくクレアだな……。

 俺もこの3年間で外見の印象が結構変わったと思うが、隣にアンシーがいたから、クレアはすぐに俺が兄だと気付けたのだと思う。


 それにも関わらず今まで接触してこなかったのは、今更俺とどのように接したら良いのか、彼女も分からなかったのだろう。

 俺だってちょっと分からない。

 最後に会った時は、襲撃者との殺し合いを見せてしまったし、もしかしたら今も俺のことを怖がっているのかも……。

 実際、クレアの表情には陰りがあり、あの事件が未だに彼女の心へ、小さくない傷を残していることが察せられた。

 そう思うと俺の方から接触するのも、少し躊躇(ためら)われる。


 だけどそうも言ってられない。

 もしかしたらアリサへの嫌がらせの件は、クレアが関わっているかもしれないからだ……。

 今現在、俺の妹のようなポジションになっているのは、アリサだからなぁ……。

 本物の妹で有るクレアとしては、面白くないと感じている部分もあるのかもしれない。

 ……自惚(うぬぼ)れかもしれないが、クレアはまだ俺のことを兄だと(した)ってくれているのだろうか……?


 昔は仲が良い兄妹だったと思う。

 あの頃のような関係に、戻ることができればいいけど……。


 そんなことを考えていたら、俺はちょっとのぼせてしまった。




 私はクレア。

 リンジャー男爵家の長女……長女なのだろうか?


 私には兄様がいた。

 しかしその兄様は、ある日突然女の子になって……。


 突然変わってしまった兄様に対して、私はどのように接したらいいのか分からなくなった。

 元々は男の子だったのに、私よりも可愛くなってしまったことに嫉妬心を覚えたというのもあるが、何よりも両親が兄様のことを気味悪がり、遠ざけてしまったのだから……。

 兄様は離れにアンシーと2人暮らしを始め、私はその離れに行くことも禁じられてしまった為に、会うことも難しくなってしまった。


 こんな状態は良くない……。

 いずれは元の仲が良い家族に戻りたい……。

 そう私は思っていたが、両親は兄様を跡取りにすることを(あきら)め、その代わりに私を──正確には私が将来婿を取って、その婿を跡取りにするつもりらしく、私の行動を厳しく管理するようになった。

 私の縁談が上手く行くように、一流の淑女へと育てようというのだ。


 ……私の自由は少なくなり、更に兄様に会える機会は無くなっていく。


 そして決定的な事件が起こった。

 事情はよく分からないけど、私は暴漢に襲われそうになったのだ。

 それを兄様に助けられたが、兄様は相手を殺してしまった……と思う。

 兄様は見たことも無い武器を使っていて、暴漢からは沢山の血が出ていたのだから……。


 それを見て私は恐怖し、兄様から逃げてしまった。

 本当はお礼を言うべきだったのに……。

 また次の機会にお礼を言おうと思っていたけれど、それからすぐに兄様は姿を消してしまい、私はその機会を失ってしまう。

 後悔だけが残った。


 その後、鬱々とした自由の無い生活が続いたけど、それは突然終わりを告げた。

 両親の間に弟が生まれ、彼が跡取りになることになったからだ。

 そして用済みになったとばかりに、私は王都の学校へと送り出された。

 私という存在は、一体なんなのだろう……。


 それでも家にいる時よりは、気楽な学校生活が続いていた。

 まあ、私はちょっと陰鬱らしく、友達はなかなかできなかったけれど……。


 そんな生活が1年続いて、新入生が入学してくる季節が来た。

 きっと後輩ができても、私と友達になってくれる人なんていないだろうけれど……。


 だけど新入生の中に、予想外の人物がいた。


「兄様!?」


 寮の2階から、たまたま入寮しようとしていた兄様を見つけた。

 最後に見た時よりも、更に綺麗になっていて、本人なのかちょっと自信が無かったけど、隣に兄様と一緒に姿を消したアンシーがいたから間違い無い。

 彼女の見た目は──あの大きな胸はまったく変わっていなかった。


 それよりも、なんで兄様が女子寮に……!?

 元男なのに……いえ、今は女の子だから、いいの?

 そもそも貴族ばかりのこの学校に、両親から捨てられたも同然の兄様がどうやって……。


 でも、ようやくあの時のことを謝って、お礼が言える。

 言える……けれど、今更どんな顔をして会えば良いのだろう……?


 それに見過ごせないこともある。

 ……兄様、その隣にいる女の子は誰!?

 まるで妹みたいに……。


 そこは私の場所だったのに……っ!!

 いつも応援ありがとうございます!!

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