兎狩り
オイオイオイ、森に危険な動物はいないって聞いていたけど、ウサギでもかなり凶暴そうなんだけど!?
異世界基準では、こんなのは危険な内に入らないってこと!?
まあ、命の危険があれば抵抗するのは当然だけど、小動物の抵抗って逃げることじゃないの!?
とにかくヤバいな……。
ウサギとはいえ、その前歯は鋭い。
窮鼠猫を噛むということもある。
噛まれて動脈が傷つけば……いや、雑菌に感染しただけでも命に関わるぞ……。
こいつはすぐに片付けないと……っ!
俺は釘バットを振り上げて、ウサギ目掛けて振り下ろした。
しかしそれは、何も無い地面を叩く。
「避けられた!?」
くそっ、やっぱり野生動物は素早い。
そしてウサギは、こちらへと跳びかかる体勢に入っている。
これは動きを止めないと──。
「とっておきだ!!」
俺はある物を「空間収納」から取り出し、地面に向けて投げつけた。
直後に複数の破裂音──。
そう、癇癪玉だ。
花火の一種だが、火薬を使っているので、直撃すれば人間でも怪我くらいはする。
まあ、ウサギに狙って当てるのは難しいが、自然界ではまず発生しないタイプの音だけでも効果はある。
音に驚いたウサギは、一瞬動きを止めた。
逃げてくれるのならそれでも良かったが、このチャンスを見逃す手は無い。
「ギュピっ!!」
釘バットの直撃を受けて、ウサギは呆気なく昏倒する。
それから暫く警戒したが、ウサギはまったく動く気配は見せなかった。
どうやら即死させることができたようだ。
「はあっ、はあっ……!」
安心したのか、一気に緊張が解け、呼吸が乱れた。
心臓の音が激しく耳にこだまする。
怖っ……!!
命のやりとり怖っ!!
運が悪ければ、俺の方がウサギの立場だった……。
できれば2度とやりたくないなぁ……。
生き物を殺すのも、あまり気分が良くないし。
でも、俺はいつ親に捨てられるのか、分からない身の上だ。
もしも1人になってもこの世界で生きてく為には、能力を伸ばしていかなければならない……。
……よし、ウサギの死体は「空間収納」に収納して……さっさと帰るか。
あの大きな音を聞いて、近寄ってくる動物がいるとは思えないけど、これ以上戦闘はしたくないし、癇癪玉も使ってしまったから、同じ戦法は使えない。
この癇癪玉は、作るのに結構苦労したんだぞ。
前世の世界では駄菓子屋でも売っていたほど、手軽な子供のオモチャだった。
いや、やっぱり危ないのか、いつの頃からかあまり流通しなくなったが……。
しかしこの世界では、まだ火薬という物は発明されていないようだ。
俺の周囲には使える者はいないけど、魔法という物があるらしく、そちらの技術が発展している所為らしい。
つまりこの世界に、火薬は存在しない。
その存在し無い物を作るのは、結構な魔力や素材が必要らしい。
勿論、俺のレベルが低いというのもあるだろう。
とにかく変換を繰り返して材料を集めて、ようやく作れたのは数個だけだった。
近代的な物ほど製造コストが高いようで、やっぱり材料は金で買った方が効率は良さそうだな……。
そしてもうちょっと武器の数を揃えてから実戦に挑んだ方が、安全だな……というのが教訓。
今回でそのことが、嫌と言うほど実感できた。
というか、ウサギ程度でこの体たらくとは……。
次は最初からクロスボウを使おう……。
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