実力判定テスト開始
校長や来賓の挨拶がつまらないのは、何処の世界でも同じようだ。
そんな退屈な内容を聞き流している内に、入学式は終わった。
精々30分程度という、短時間で済んでくれて良かったよ……。
まあ、それには理由がある。
この後に予定が詰まっているからだ。
その予定が何かというと、実力判定テストがある。
この結果によって、能力に合わせたクラス分けが行われるらしい。
仮にこのテストの成績が悪くても、退学ということにはならないようだ。
……少なくとも貴族は。
一応人材を育成する目的の学校でもあるので、能力が低く成長が見込めない者は、弾かれるという訳なのだが……。
しかし貴族は、その対象外という特権がある。
だからどんなに怠けていても、学費さえ払い続けていれば、いずれは卒業できるそうだ。
……学校の意味ある?
ちょっとそう思うけど、学校での生活態度などの評判は学校に通う生徒からその親へと貴族社会に広がることになる為、怠けていると将来の立場を危うくする。
だから露骨にサボる者は、そんなにいないそうな。
で、テストは「一般常識・国語・算数・歴史を総合した筆記試験」、「礼儀作法の実技試験」、「魔法の実技試験」、「戦闘(魔法無し)の実技試験」の4つとなる。
筆記試験については、この世界の歴史は知らんが、俺もこの世界に誕生して10年以上経つので、一般常識や国語はある程度分かるし、算数どころか数学なら前世から知っている。
この世界だと足し算と引き算、そして簡単な割り算とかけ算さえ使えれば日常生活には支障が無いので、小学生レベルの計算能力があれば合格のようだ。
次に礼儀作法だが、貴族社会の礼儀作法は分からないが、前世で社会人経験もあるから、そこで身につけたマナーはある程度こちらでも通用するみたいだな。
それにこの世界で商売をしていれば、多少は礼儀作法も身についてくる。
だから合格レベルには達していると思う。
問題なのは、魔法だ。
「え~い!」
「おお……なかなかの威力……!!」
目の前でアリサのテストが終わった。
彼女はエカリナさんやリーリアから指導を受けているので、結構高いレベルで魔法をつかうことができる。
実際、周囲からは驚愕の声が上がっていた。
おそらく同年代と比べても、実力的には頭1つ抜けている。
そして次に俺の番な訳だが……。
「エル、頑張ってね」
「え、ええ……」
だが、相変わらず俺は魔法が使えない。
アリサと同じように魔法の指導を受けても、全然駄目だった。
どんなに魔法を発動させようとしても、うんともすんとも言わない。
「くっ……」
いや、その気になればスキルを使って、武器として魔法に似た現象を起こすことはできる。
例えば氷塊や岩塊は鈍器として使えるし、炎や雷や風や水だって攻撃に使える。
だからそれらを「変換」で発生させることだけはできるし、他人が見れば魔法だと勘違いするだろう。
けれど実際には、魔法としては操れない。
俺としては魔法を初歩の基礎から習ってみたいので、ありのままの魔法の実力を見せるつもりだ。
そう、専門的な教育機関で初歩から学べば、俺だって魔法が使えるようになるかもしれないからな。
そうななれば今までは不可能だったことが──「変換」で生み出した武具に、魔法の効果が付与することができるはずだ。
まあ、結果としてこの魔法テストは、壊滅的な成績になるのだろう。
けれどそれで退学になる訳でもないしな……。
ただ、馬鹿にされることにはなるだろうけれど……。
「くふふふ、なんですの?
幼児でも使えるような初級の魔法すら使えないなんて、大したことがないのですわね」
今朝、俺達に絡んできたセリエルのそんな声が聞こえてきた。
まあ、そういう反応にはなるだろうなぁ……。
そして今回は事実であるだけに、反論する言葉が見当たらない。
……が、やっぱりちょっとムカつくな……。
「あだっ!?」
その時、セリエルの悲鳴が上がる。
「あばばば……一体何が……!?」
セリエルは尻の辺りを押さえて、呻いていた。
そんな彼女の足下には、見覚えのあるゴム弾が……。
ああ、アンシーが狙撃したのか。
証拠隠滅の為に、ゴム弾は消しておこう。
それにしてもアンシーは、何処から狙撃したのだろうか……。
俺ですら何処にいるのか分からないのだから、結構距離は離れているはずだが、セリエルが俺を馬鹿にしたタイミングで狙撃したということは、聞こえていた……!?
いや、唇の動きを読んで、何を言ったのか判断したのかもしれない。
それでも充分に凄いが……。
とにかくグッジョブ、アンシー!
……さて、魔法のテストは間違い無く0点だったので、戦闘テストではちょっとくらいはいい所を見せないとな……。
義足で身体能力は上げられるから、満点以上の結果は得られるはずだ。
俺とアリサは、戦闘テストが行われている会場へ向かう。
まあ、広いグラウンドの中──魔法テストがが行われていた場所の隣だが。
すぐに到着して順番を待っていると、何か違和感がある。
具体的に言うと、股間の辺り。
え……まさか……?
今このタイミングでアレが来た!?
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