王都へ引っ越し
「わぁ……ここが王都なのね!」
「アリサ、あまりはしゃぐと田舎者だと思われますよ」
「えっ……!?」
俺の指摘を受けて、テンションを上げていたアリサは、姿勢を正して口を閉じる。
まだ子供でも、その程度の見栄や恥じらいはあるんだな。
何故かミミも、微妙に背筋が伸びているが……。
まあ、はしゃぐ気持ちも分かるよ。
ロゼーカンナ市と比べると、数倍の規模がある大都会なだもの。
だから珍しい物も多い……とは必ずしも言いがたく、ぶっちゃけロゼーカンナ市の方が、俺の関与した影響で文明的には発展していると思う。
王都はどちらかというと、名所旧跡って印象の方が強い。
つまり観光地だ。
王都の外からも見える城は古めかしいが大きくて、確かに観光するだけの価値はあると思う。
だが街にはそれほど活気は無く、停滞しているとさえ感じる。
……そういえば俺をこの世界に送った女神は、この世界が停滞しているとか言っていたような気がするな。
だから活性化させる為に、俺を送り込んだ……と。
まあそれはともかく、俺達は王都へと来た。
馬車だとロゼーカンナ市からは半月ほどかかるらしいが、俺が出したキャンピングカーでは4~5日くらいってところか。
道中では何度か魔物が出現したけど、ミミの実戦経験を積ませるのに丁度良かったな。
……彼女は青い顔をしていたが、それでもしっかりとゴブリンにヘッドショットを決めていたので、大人しい性格と実力にズレがあるわ……。
で、この王都への旅に同行していたのは、俺と一緒に王都の学校に通うことになっているアリサ、そして俺達の身の回りの世話をしてくれるアンシーとミミ、それから王都で開店する支店などで働く従業員が4人だ。
ちなみに従業員の内の2人は夫婦で、店舗兼住宅に住み込みすることになっている。
残る2人は、王都で商品の製造工場を作る為に動く要員だな。
そう、支店の準備は、既に整っていた。
「ここが支店ですよ」
「……思っていたよりも小さい」
辿り着いた支店を見て、アリサは拍子抜けしたように呟いた。
まあ、本店から比べればね……。
ただ、この小ささは、俺の意向だ。
うん、王都に来るのは、実のところ4度目となる。
なのでアリサ達とは違って、王都にはさほど新鮮味を感じていないんだよなぁ。
この3ヶ月間、俺はルエザリクさんやアンシーと一緒に王都へと何度も訪れた。
俺のスキルで作った戦闘用のヘリコプターを使えば、1日で往復できるからな。
ちなみに軍用の輸送ヘリは、スキルでは作れなかった。
いくら軍用でも、武器という認識が俺には無いようだ。
事故で人の命を奪うことはあっても、わざわざ攻撃の為に高価なヘリをぶつけるのは勿体ないからなぁ……。
でも、旅客機なら、いけるような気がする。
実際にテロで使われたことがあるからな……。
しかし離着陸に滑走路が必要なので、それを作らないと現状では使えない。
一応、ハリアーのように垂直で離着陸できる戦闘機はあるけど、あまり人数は運べないので、選択肢からは外していた。
そんな訳で俺が義手の力を使ってヘリを操縦し、王都まで移動した訳だが、そこで何をしたのかというと、俺とルエザリクさんで共同経営している商会の支店となる店舗を手に入れる手続きだ。
支店はまず個人商店レベルの規模で、始めるつもりだ。
ロゼーカンナ市で作った商品を、いちいち王都まで運んでくるのは大変だからな。
いずれは王都にも商品の製造工場を作るつもりではいるし、その為の人員も連れてきてはいるけど、工場が稼働するまでは俺のスキル頼りになると思う。
しかし俺1人で作れる商品の数にも限界はあるので、だからこその小規模経営だ。
なので、支店の人員はそんなに必要無いし、守らなければならない企業機密も無い。
これは警備にかかるコストを抑える意味もある。
ロゼーカンナ市には開発室や工場、それに倉庫があるけど、そこには我が商会の機密と言える物が大量にあり、それらの金銭的価値は計り知れない。
だから警備体制の構築も大変だった。
そして王都での商売も、ロゼーカンナ市と同規模でやるつもりなら、同じだけの警備体制の構築が必要になる。
しかしそれらは、俺が王都の学校に入学するまでの時間では整備できなかった。
俺が在学中に、ゆっくりとやるつもりだ。
なお、ロゼーカンナ市から連れてきた人員以外は、王都で雇うことになっている。
特に工場で働く為の人員の主力として、ドンガトさんの伝手でドワーフの職人を雇う予定だから、それにもちょっと時間がかかる。
信用できる人間を集めるのも大変だからなぁ……。
ともかく支店は当面の間、小規模の形で運営する為、開店準備は殆ど終わっていた。
商品も既に作っておいたし、後は従業員だけでもどうにかなるだろう。
「それでは、店のことはお願いします」
「かしこまりました」
俺達は連れてきた従業員を支店に残し、入学する学校へと向かった。
俺とアリサは、そこの寮で生活することになる。
一応貴族なので、メイドの随行も許されており、その為にアンシーとミミを連れてきた。
俺達の身の回りの世話だけではなく、護衛も兼ねている。
「ここが聖レイア学園ですか」
なにやら聖女レイアとかいう、過去の偉人の名を冠した学園らしい。
それだけに伝統のありそうな古い校舎ではあるが、貴族の子も通うのだから、見窄らしい感じはしない。
頻繁に改修や、壁の塗り直しがされているのだろうな。
そしてここには、主に貴族の女子が通っている。
つまり女子校だ。
そりゃ貴族の娘が共学に通ったら、変な男にたらし込まれる可能性があるからな。
貴族の娘って、大抵は婚約者がいるから、それはマズイ。
勿論、俺には婚約者はいないけどな。
男との結婚はノーセンキュー!
最近になって男爵家になったばかりの、アリサも同様に婚約者は決めていない。
というか、元男の俺が女子校へ通うことには、後ろめたさをちょっと感じるのだが……。
いや、身体は完全に女子だし、気にする他人はいないだろうけど。
ただ、俺の過去を知っているアンシーですら気にしていないのは、どうかと思うが……。
「お嬢様、まずは寮に入りましょう」
「ああ、そうですね」
俺達は校舎の隣にある学生寮へと向かう。
近年になって建て替えられたのか、比較的新しい建物だ。
寮は3階建てで、それを見上げながら俺は玄関へと進む。
あ、2階の窓に人影が横切るのが見えた。
果たして先輩か、それとも同級生か。
「──!?」
今、窓に見えた人影が、明らかに俺を二度見したような……。
二度見するほど、俺が美少女だったか?
それとも俺の何かに気付いた?
俺も歩いていたのですぐに玄関に入って死角になってしまったから、あれが誰だったのかはもう分からないな……。
まあ、わざわざ戻って確認するまでもないか。
ブックマーク・本文下の☆での評価・いいねをありがとうございました!




