実戦を始めよう
さて、俺は自身の能力で生み出した武器の性能を確認し、そしてより武器のことを理解する為に、実戦を経験してみることにした。
森の奥には動物が結構いるらしいので、そいつを狩ることにしよう。
人を襲うような猛獣の話は聞かないので、危険はあまり無い……と思う。
その狩りの為に大量の材料を集めて、現状で可能な範囲で高性能の武具を用意した。
ただ、この選定にはなかなか苦労した。
俺には使いこなせない物が、かなり多かったからだ。
たとえば防具として鎧を生み出しても、それは重すぎて俺には着ることができない。
そもそも女の子が装備することを、想定していないんだな、これ……。
ならば電動アシストの機能をつけようとしたが、それほど高度な物は今の俺が持つ魔力量では変換不可らしい。
だから軽量の物で何が作れるのか、試行錯誤を何度も繰り返した。
結果的に採用となったのは、革製の服程度だ。
武器だってそうだ。
重くて筋力を必要とするものは、俺には使えない。
女の子の身体は、なんて弱いんだ……。
だから今の俺に使える物を、模索し続けた。
その結果でき上がった最高装備を携えて、俺は森の奥へと向かった訳なのだが、それは順調とは言いがたかった。
実際のところ、遭難しないようにあちこちへと目印をつけながら、道なき道を進むだけでも、結構疲れるんだよな……。
もしかしなくても、身体を鍛える方が先だったか……?
いや、その成果が出るのが数ヶ月後とかでは、時間がかかりすぎる。
今はこの身体能力で、妥協するしかない。
でも、だるい。
そんな葛藤を背負いつつも、2時間ほど森の奥へと進むと、ようやく動物に出会った。
それは耳が中途半端に短い、ウサギのような生き物だった。
あれならいけるかな……?
オオカミのように群れで活動して狩りをするタイプの動物だと、俺が1匹倒している間に群がられてアウトだ。
クマやシカのような大型の動物も、一撃で仕留めることができずに反撃を受けたら、大怪我だけでは済まない。
今の装備では、攻撃力・防御力共に不足しているしな……。
だけどあのウサギなら、反撃を受ける可能性は低い。
仕留め損なっても、逃げられるだけで済むはずだ。
よし……!
俺は空間収納から武器を取り出す。
しかしそれは剣などのような、接近戦を前提とした武器ではない。
今の俺の身体能力では、接近戦をメインにするのは自殺行為だ。
だから飛び道具を使う。
とはいっても、それは弓矢ではない。
情けないけど、俺の筋力では弓を引けないんだわ……。
一応クロスボウはあるけど、やっぱりオレの筋力では矢の装填に手間取るので連射ができないし、いざという時の奥の手としてとっておく。
ちなみにクロスボウは変換して作った時点で、矢が装填された状態だ。
それをいくつも作っておいて、撃つ度に「空間収納」から取り出せば連射も不可能ではないけど、そんな面倒臭いことをするくらいなら、頑張って拳銃でも作った方が早いかもしれない。
どのみち、今の魔力量では実現するのは難しいけれど。
そこで使うのは、スリングショットという、ゴムの力を使って石などを射出し、標的に当ててダメージを与える武器──つまりパチンコだ。
某海賊漫画の長鼻が使っていることでも有名な、あれである。
本当は紐状の物に石をセットして振り回し、遠心力の勢いを利用して投げつけるスリングの方が威力が高いんだけどねぇ……。
上手くやれば、数百m先まで石を飛ばすこともできるらしい。
しかし木の枝などの障害物が多い森の中では振り回しにくいし、動きが大きいので、獲物に気付かれる恐れもある。
そもそも命中率に、大きな問題があった。
かなり訓練しないと、標的の急所に当てるのは無理だわ……。
それはスリングショットも同じだけど、物陰からじっくり狙うことができるから、まだ当てやすい。
問題は威力が足りるか……だな。
とにかくまずは石をセットして、ゴムを引き──。
そしてよく狙いをつけて、ウサギ目掛けて撃つ!!
「ピギィ!!」
よし、胴体に当たった!!
だけど即死ではない。
逃げられる前にトドメを刺す!!
俺は「空間収納」へスリングショットを仕舞い込むと同時に、中から代わりの武器を出した。
ゆっくりと狙いを定めて射撃していては、撃つ前に逃げられるかもしれない。
だから近接戦闘用の武器で、直接攻撃する。
それは釘バットだ。
いや……長剣だと重くて上手く振り回せないし、短刀だとリーチが短い所為で反撃を受ける可能性が高くなるじゃん?
その点、木製のバットならなんとか振ることができるし、釘も打ち付けてあるから、殺傷力もそれなりにある。
これならばウサギ程度はなんとか……。
「ピシャ~!!」
「うわ、怖っ!?」
しかしウサギは逃げるどころか、唸り声を上げながら後ろ足で地面を叩いて威嚇してきた。
なんだよ、こいつ!?
結構凶暴じゃねーか!?
釘バットは勿論だけど、鉄パイプが武器だという認識は、ヤンキー漫画とかの所為。