音を超えて
俺の銃撃は、ギゼオンのマントによって弾かれた。
どんな材質で作られているんだろうな、あれは……。
とにかくダメージを与えることはできなかったが、あいつも防戦一方で反撃はできていない。
そして一瞬でも時間を稼ぐことができれば、マグエアルとクロムスタがギゼオンの制圧に動く。
さすがに2対1……いや、俺達も戦力に入れればもっと差はあるが、いずれにしてもこのままだとギゼオンに勝ち目は無いし、逃走することも難しいだろう。
「もう終わりだ、ギゼオン!」
「まだ終わらぬわっ!!」
ギゼオンが叫ぶなり、何者かの咆哮が聞こえてくる。
あ……そういえば、あの地竜とかいう怪獣はまだ倒しきっていなかった。
そいつの巨体がこちらの方へと、地響きを立てながら迫ってきている。
ギゼオンはその地竜の力で逆転か、あるいは逃走するチャンスを狙っているのだろう。
確かにあれが突っ込んで来られると困る。
ブレス攻撃をされたら、死人が出かねないからな……。
ただ、その射程にさえ入らなければ、脅威ではないはずだ。
幸いにもまだまだ距離は離れていた。
よし、撃つか。
「あれは私に任せてください。
魔族の男についての対処は、マグエアルさん達に任せます」
「構わないが、大丈夫なのか……?」
「ええ、問題は無いと思います」
俺は「遠隔変換」を発動する。
周囲にあった魔物の死体は、俺の義足を作る為に使い切ってしまったが、範囲を広げて残った魔物の死体を使おうと思う。
義足で身体能力が上がったおかげなのか分からないけど、俺の能力が影響を及ぼすことができる距離が伸びたようだ。
元々魔力は充分だったけど、その大きな力に身体の方が耐えられない所為で使いこなせていなかった……って感じだったからな。
ともかく、今までは能力が届かなかったような離れた場所にある魔物の死体が、光の粒子へと分解され始めた。
その光の粒子は蛍のように空中を漂い、俺の手に集まってくる。
そして形作られたのは、筒状の物体であった。
長さは2m、太さは30cmほどと、脇に挟んで抱えなければならないようなサイズだ。
以前の俺ならば持ち上げられないような重量だが、義足によって身体強化された今の俺ならば問題は無い。
いや……やっぱり少し重いけどね。
それでも、これはかなり小型化している。
本来はもっと大きく、しかも前世の世界でも実戦配備されているとは言いがたかった兵器だ。
それを未来技術で改良したのがこれ──超電磁砲である。
なにやら漫画とかのヒロインがコインを撃ち出している方がメジャーになってしまったが、元々は膨大な電力によって発生させた強力な磁場を利用し、2本のレール上で弾を超加速させて撃ち出す兵器だったと思う。
俺も細かい原理までは知らないが、それを補って作ってくれるスキルって、人工知能みたいな補助機能を持っているのだろうなぁ。
まあそれはともかく、前世の世界では弾を撃つ度に砲身が摩耗していくというエロージョン問題とかで実戦配備には手間取っていた超電磁砲だが、俺が作った物に限って言えば、スキルで「変換」し直せばいい。
というかそもそも内臓されているバッテリーは1発撃てば空になるはずなので、毎回「変換」して充電する必要があるし、いつでも新品だからそのような問題は存在しないのだ。
で、この超電磁砲に、義手から出したケーブルを接続する。
これで性能や操作方法などの情報が脳に伝わり、更に脳波によって直接操作することも可能だ。
ふむ……。
以前は脳に負荷がかかって酷い頭痛が生じていたけど、義足の再生能力のおかげか、それも無くなっているな。
ちょっと頭が重く感じる程度。
腹の傷を治す為というのもあったが、こちらの方面でも効果があることを期待していたので、狙い通りの結果だ。
よし、これで遠慮無くぶっ放せるぞ!
最大出力で──、
「いっけぇえええええーっ!!
──うわっ!?」
発射した瞬間に爆音が響き渡り、俺は反動で後ろに倒れて転がった。
やっぱり身体が小さすぎるんだよな……。
でも、特に怪我は無いようだから、今後もこの手の武器を使うこと自体は問題無さそうだ。
一方、撃ち出された弾は無事に命中したようで、地竜の頭に風穴を開けていた。
超音速で発射されたから、俺が起き上がった頃には全部終わっていたわ……。
しかし元々貫通力が高い兵器だとはいえ、直径数mはあろうかという大穴が開くもんなんだな……。
スキルの謎技術で俺専用にカスタマイズされているから、多分実在の物よりもはるかに大きな威力になっているのだろう。
「ば……馬鹿な……!
地竜が一撃で……!!」
そして倒れゆく地竜の姿を目にしたギゼオンは唖然とし、呻き声にも似た声を上げた。
彼は既にマグエアルとクロムスタに制圧され、地面に押さえ付けられていたが、心も折れたのかガックリと項垂れる。
そしてマグエアル達も、呆然としていた。
超電磁砲の威力に度肝を抜かれたようだが、気を抜いてギゼオンを逃がさないでよ?
そんな訳で、この事件はこれで終わりかな?
「あの子に護衛は必要なのか……?」
アルクのそんな呟きを、性能が強化された聴力が拾ったけど、それは確かにそう。
一気に強くなってしまったから、俺にはもう必要が無いのかもしれない。
だが、護衛の役割はこれで終わりではない。
「はあ……良かった……!」
戦いが終わり、俺の元気な姿を見たアンシーは、安心したような表情で抱きついてきた。
このいつも側にいるアンシーは、俺ほど強くはない。
だから護衛達には今後、アンシーを守ってもらうつもりだ
ちょっと忙しいので、次の更新は来週くらいになるかもです……。