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風前の灯火

 我はマグエアル。

 誇り高き魔王ゼアルの娘、マグエアル・ダイダナードだ。

 我は魔族の中では、穏健派に分類されている。


 魔族の世界では小国が乱立し、小競り合いを繰り返していた。

 結果、魔族の勢力は疲弊し、人間に大きく劣る情勢となっている訳なのだが……。


 こんな状態で人間と争うのは、愚の骨頂である。

 しかし魔族は人間を始めとした他種族よりも、生物的にははるかに強い。

 だから他種族を下に見るという、思い上がった者も少なくはないのだ。

 中には同じ魔族に対してさえも、そのような態度を取る者すらいる。


 だが、そんなことでは、魔族は敵ばかりを増やし、やがて滅びの道を辿るだろう。

 我はそんな流れを、どうにかして止めたいと思っている。

 その為には他種族に喧嘩を売るような馬鹿な奴らを、粛正するのだ。


 ……穏健派らしくない?

 まあ、穏健派にも色々いるからな。


 ともかく今は、魔物を操って人間の都市に攻撃を仕掛けるという、宣戦布告にも等しい愚行を犯したギゼオンをどうにかしなければならぬ。

 そのギゼオンも、ようやく追い詰めることができた。

 今まで散々逃げ隠れしてくれたが、これで最後だ。


「ギゼオンよ、神妙に縛につけい!

 それならば少々長くなるが、苦役だけで勘弁してやろう。

 命までは取らぬ」


 まあ……実際には、命をすり減らすまでの厳しい強制労働を科すことになるだろう。

 既に人間側には死者も出ているようだし、それだけの大罪を犯しておきながら、その当人だけが無事というのは道理に合わないのだから……。


 しかしだからこそ、それを察しているギゼオンは、この勧告に大人しく従うことは無いだろうな。

 彼の顔からは、まだ観念した様子は見えなかった。


「ふざけるな……!

 我が野望は、まだ(つい)えぬ……!!」


「いいや、もう終わりだ!

 既に貴様が用意した魔物の群れも瓦解し、これ以上戦っても、貴様の敗北以外の結末は望めぬ!!

 (いさぎよ)(あきら)めよ!」


「くっ……6年も歳月をかけて準備したこの計画を、こんなところで終わらせてたまるかっ!!

 ゆけっ!!」


 ギゼオンの号令を受けて、護衛の魔物が襲いかかってきた。

 しかしこの程度の魔物は、我とクロムスタにかかれば、さほど時間をかけること無く倒すことができる。


 だが、ギゼオンの狙いは、魔物で我々を倒すのではなく、時間稼ぎだった。


「ここで奥の手を使うことになろうとは……!!」


 彼の前には大きな魔法陣が、魔力の光によって(えが)かれていた。

 そして次の瞬間、魔法陣は更に強く輝き、そこから何か巨大な物が浮かび上がってくる。


「召喚魔法かっ!!」


 そこに出現しようとしていたのは、数十mはあろうかという、巨大な地竜だった。

 竜種は魔物の中でも、最上位の存在だとされる。

 翼を持たず、後ろ足で直立する地竜は、竜種の中では原始的な種族であり、上位種から比べれば弱い。

 それでもいくらギゼオンが魔物使いの能力を持っているとはいえ、容易(たやす)く操ることができるような存在では無かった。

 おそらくは事前に、膨大な数の生贄を捧げることによって、契約を成功させたのだろう。

 一体どれだけの命を、ギゼオンは奪ってきたというのだ!?


 そしてこの地竜の存在は、我々の手にも余る。

 本来ならば、軍隊によって対応しなければならない存在なのだ。


「おのれ……!!」


 我は地竜に対して、保有している最大の攻撃魔法を撃ち込んだ。

 地竜の頭部で大きな爆発が起こり、その巨体が揺らぐ。

 効いてはいる。

 ダメージは確実に入っている。


 だが──、


「駄目か……!」


 地竜は倒れない。

 おそらく今の魔法攻撃を十数回繰り返せば、倒せるかもしれないが、我にはそれほどの魔力は無い。

 平均的な術者なら、1回発動させるだけでも難しい上位魔法──。

 残りの魔力では、精々あと3~4回だ。


「マグエアル様、撤退を!!」


 クロムスタによるそんな進言は、正しい判断だろう。

 だが、このまま地竜を放置し、人間の都市が襲われるようなことになれば、魔族と人間の間に取り返しの付かない亀裂が入ることになりかねない。


「せめてギゼオンだけでも討たねば……!!」


 ギゼオンを倒せば、操られている地竜が大人しくなる可能性も、決してゼロではない。

 ……まあ、ほぼゼロに近い可能性だが、やらないよりはマシだ。


 しかし地竜は、ギゼオンを守るように、我らの前に立ちはだかっていた。

 地竜を突破して、ギゼオンを倒すのは難しいかもしれない。

 それよりも地竜の攻撃からどう生き残るのか、そちらの方が喫緊の課題である。

 火炎息(ブレス)でも吐かれたら、どうしようもないぞ!?

 いますぐ逃げるのならばともかく、戦いながら防御するのは、正直言って厳しい。


 ところがその時──、


「ギィオオォォォォォォ!!」


「!?」


 爆発音が連続して上がるのと同時に、地竜の悲鳴が周囲に響く。

 なにやら筒のような物が複数飛来し、地竜に命中した瞬間に大爆発を起こしたのだ。

 これは……エルネスタの魔道具かっ!!

 この威力と数なら、地竜も倒せる!


 光明が見えてきた。

 だが、同時にギゼオンも反応した。


「また、あいつらかっ!!」


 そう叫ぶなり、彼奴(あやつ)の姿が影の中へと潜り込むように消えた。

 転移魔法かっ!!

 逃げた訳ではないのだろう。

 おそらくは、彼の計画を(ことごと)く邪魔した存在を、始末しに行く為に──彼奴は転移したのだ。

 邪魔者を消さなければ、今後も彼奴の計画は邪魔されることになるのだからな。

 

 そして真っ先に狙うのは、エルネスタだろう。

 1番弱そうに見えるから……というのもあるが、戦場に子供がいるのは異常だ。

 だが、異常だからこそ、そこに重大な意味がある。


 そう、その事実が最優先で狙うべき、重要人物だということを教えている。

 このままだと、あの娘は死ぬぞ!?

 我らも慌ててギゼオンを追うが、間に合うのか……!?

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