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我が存在理由

 私はクロムスタ。

 クロムスタ・クロリー。

 敬愛する魔王女、マグエアル様の親衛隊長です。


 私は人間の父と、魔族の母の間に生まれました。

 魔族の地に迷い込んだ父が母と出会い、そして──いえ……親の色恋ごとなんてどうでもいいですね。

 私も気恥ずかしいので、詳細には聞いていませんし。


 ともかく人間と魔族のハーフである私は、両種族の血を受け継いでいます。

 しかしその外見は殆ど人間と変わらず、その所為で昔は同い年の子供達からはよく苛められていました。

 その所為で私は、自分自身の存在すらも否定しようとしていたのです。


 しかしマグエアル様は違いました。


「よさぬか!

 その者とその父親は、我らが一族に受け入れた同胞(はらから)だ!

 その同胞を(しいた)げることは、我は許さぬ!」


 と、たまたま私が苛められているところを目撃したマグエアル様は、子供達を(たしな)めてくれました。

 魔王様──とは言っても、父の話では、人間世界での地方領主程度でしかない勢力の長だという話ですが、それでもその魔王様のご息女であるマグエアル様が、一介の民のことを気にかけてくれる……。

 それは私にとって、衝撃的な出来事だったのです。


 私は魔族の世界には居場所が無いと感じていましたが、ようやく居場所を得ることができたような気がしました。

 そして同時に、マグエアル様の気高き姿に、強い崇敬の念を(いだ)いたのです。


 だから私はマグエアル様へ少しでも近づく為に、普通の魔族でも難しいであろう側近の座を目指しました。

 それには大変な努力が必要でしたが、私は数多くのライバルを蹴落としてそれを獲得し、マグエアル様の忠実な(しもべ)となったのです。

 私はこの座を、もう手放すつもりはありません。

 命懸けで、終生の忠誠を尽くそうと考えています。


 しかし今、マグエアル様に対して、大きな懸念が生じていました。

 私はどうすればいいのか迷っています……が、勝手に行動するのはいけないことなのでしょうね……。

 直接本人へと、その懸念を伝えた方がいいのかもしれません。

 私がマグエアル様の方を見ると、

 

「これは……凄まじいな……!」


 感嘆の声を上げました。

 今、我々は飛行魔法で、上空にいます。

 眼下に広がる草原には、かなりの数の魔物が(うごめ)いていた……はずだったのですが、その魔物達は今、まさに殲滅されようとしていました。

 都市を攻め落とせるほどの戦力が、ものの半時にも満たない時間で……です。


 その攻撃は、異常な性能を持った空を飛ぶ魔道具によって、無慈悲に行われていました。

 それがばらまく物体は数え切れないほど分裂し、地上で爆発することによって魔物の群れを蹂躙したのです。

 恐ろしいまでの威力でした。

 もしかしたらあの少女だけで、一国を攻め落とせる能力(ちから)があるのでは?──そう思わずにはいられないほどに。


 ただ、その魔道具を操る少女自体は、脆弱に見えます。

 そのアンバランスさが、私にはむしろ不気味に見えました。


 果たして彼女を、このまま放置していてもよい存在なのでしょうか?

 マグエアル様に、関わらせても良いのでしょうか?

 いっそのこと──、


「あの娘は、我ら魔族の脅威になりませんか?

 まだ幼い今の内に、処分した方が……」


 そんな私の進言を受けて、マグエアル様は小さく何度も頷きながらも、苦笑しました。


「うむ、クロムスタの気持ちは分かるぞ。

 だが、下手に手を出してしくじれば、我々自身の手で最大の敵を生み出すことになりかねん。

 それよりはあの娘を味方に付けた方が、良いと我は思う。

 幸いにも今は、友好的な関係を築けているしな」


「……出過ぎた真似をしました」


 マグエアル様の言葉を受けて、私は頭を下げる。

 いざという時は、私が命懸けで対処することを誓いなから──。


「良い。

 忠言はありがたいぞ」


 と、マグエアル様は笑う。

 ああ……。

 この爽やかで気さくな性格が、マグエアル様の魅力ですね。

 私は一生ついていきますよ。


「それよりも手勢を片付けられたギゼオンが、そろそろ動きだすぞ」


 そう、あれだけ多くの魔物の群れを操る為には、おそらくギゼオン本人が近くにいる必要があるはず……。

 そうでなければ戦局を把握し、魔物達へ急な命令の変更は行えないでしょう。

 実際、あの少女が操っていた空を飛ぶ魔道具に対して、翼竜が攻撃を仕掛けようとしていたことを考えると、少なくともギゼオンはどこか近くで戦況を観測しているはずです。


 そして状況が不利だと判断すれば、逃走を図ると思われます。

 今は隠形(おんぎょう)の術で隠れていますが、逃げようと動けば魔力が揺らぎ、感知するのは容易(たやす)い──。

 ……いました!


「マグエアル様、あそこに!」


「ああ!」


 私達が見下ろした先には、護衛の魔物を引き連れて逃げようとするギゼオンの姿がありました。


「くっ、何なのだ、あれはっ!?」


 酷く焦った様子でした。

 まあ、気持ちは少し分かります。

 私達にとっても、あの少女の力は理解不能で、混乱するのも当然でしょう。 

 だからギゼオンが使っている|隠形の術も甘くなり、その行動はこちらに筒抜けとなっています。


「そこまでだ、ギゼオン!」


「くっ!?」

 

 ギゼオンの前に、私達は降り立ちました。

 さあ、マグエアル様に逆らう愚か者に、天誅を下すとしましょう。

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