メイドさんと俺
途中で視点が変わります。
それから俺は、毎日のように森へ出掛けて、素材作りに没頭した。
で、夕方になると、帰宅する訳だが……。
「坊ちゃま、今お戻りですか?」
家……というよりは、今の俺は離れに隔離されている。
その離れに入ると、メイドのアンシーが声をかけてきた。
年齢は16歳だったかな?
黒髪なところが前世の自分を思い出して、ちょっと安心する。
「ああ、アンシー。
今帰った」
アンシーは両親から、俺の世話を丸投げされたメイドだ。
本当なら急に性転換した俺のことを、気味悪いと思っていてもおかしくないはずなのに、嫌な顔もせずに面倒を見てくれている。
元々、幼い頃に弟を亡くしたとかで、俺のことを実の弟のように可愛がってくれていたからなぁ……。
だから彼女は俺にとって、親よりも信頼できる相手ではある。
それにトイレとか、俺には勝手が分からない女の子特有の事情も教えてくれるので、本当にありがたい存在だ。
ただ──。
「またあちこち汚して……。
どこでなにをしていたのですか?」
「いや……森で遊んでいただけだよ……?」
アンシーのことを信用していない訳ではないけれど、本当のことはまだ言えない。
危険がまったく無いとは言えないから、たぶん話したら止められる。
話すのなら、色々と後戻りができなくなってからだろう。
それよりも今問題なのは──、
「ともかく服を脱いでください。
お風呂で綺麗にしますよ」
「い、いいよ……!!」
アンシーは俺と一緒に、風呂へ入ろうとするんだよなぁ。
俺のことはただの子供にすぎないという認識で、元男とすら思っていないようだ。
「駄目ですよ。
坊ちゃまに任せたら、髪とかも雑に洗ってしまいますし。
もう女の子なのですから、綺麗にしませんと」
「ちょっ……や……!」
こうして俺は、強引に服を脱がされて、風呂へと連れ込まれるのだった。
そして為す術も無く、アンシーに全身を洗われる。
「ほら、ここも綺麗に洗わないとですね……」
「ひっ……うう……!!」
敏感なところにも、アンシーの手が遠慮無く伸びてくる。
元男としては、女の人と一緒に入浴しているだけでも変な気分になるのに、更に身体を触られる度に、未知の感覚が俺を襲う。
ええぇ……こんなところ、くすぐったく感じたっけぇ?
前世だったら、腋の下や足の裏をくすぐられたってなんともなかったのに、今では背中や首筋とかに触られただけで、変な感じがする。
うう……女の子の身体って、なんでこんなに敏感なんだよ……!
それに……。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでも……」
アンシーの出るところは出て、引っ込んでいるところは引っ込んでいるプロポーションを見ていると、俺も将来あんな風になってしまうのか……と、複雑な気分になる。
そうなった時、俺は一体どうなってしまうんだろう……。
男としての矜持は、維持していられるのか……?
今の俺には、真っ当な将来像は、まだ描けそうになかった。
私はアンシー。
リンジャー男爵家に仕えるメイドです。
リンジャー家の長男、アーネスト坊ちゃまは昔から可愛らしくて、彼の世話が私にとって日々の潤いでした。
それどころか、私はつい抱きしめてキスをしたくなるという、もどかしい衝動に何度も襲われたものです。
しかしメイドと貴族の長男……身分が違いすぎます。
許されません。
まあ……坊ちゃまが成長して、私を愛人として迎えてくれる……という未来は有り得たかもしれませんが、その頃には幼さ故の可愛らしさはもう無くなっているのでしょうねぇ……。
しかしある日を境にして、坊ちゃまは女の子になってしまいました。
しかも以前よりも更に可愛らしくなり、こんな愛らしい少女は見たことが無いほどです。
ああっ、最早これは、性別を超越した美の極致──まさに至宝ですね。
そして幸いなことに、坊ちゃまのお世話は私に一任されました。
旦那様と奥様は、性別が突然変わってしまった坊ちゃまのことを気味悪がっているようでしたが、なんと愚かなことでしょうか。
可愛いのだから、性別とかどうでもいいでしょう!?
ですが渡りに船です。
こんな愛らしい坊ちゃまを、私へと任せてくれるのですから。
私と坊ちゃまは、屋敷の離れで2人暮らしを始めました。
まるで母娘のように、姉妹のように、もしかしたら恋人のように!?
実際、同性になったことで、合法的に触れる事ができるようになりました。
同じベッドで眠ることは勿論、一緒に入浴して、その柔らかな肌を磨くことだって、何ら問題はありません。
ありがとう神様!
坊ちゃまを女の子にしてくれて!!
願わくば、この坊ちゃまとの生活が、永遠に続きますように……!!
応援ありがとうございます。