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野望とカリスマ

 どうやらこのダンジョンには、もう倒すべき敵はいないようだ。

 なので俺達は、ロゼーカンナ市へと帰還することにした。

 来た時と同様にミニバンへと乗り込み、市に辿り着くまでの道中で、今後の対策について考えなければならない。


 特に魔族の存在についてどうするのか、それは悩ましい問題だ。

 これから魔族が実際に姿を現して人間を襲ったとしたら、俺達が隠しても意味が無いし……。


 ……それなのに──、


「おー、おぉー!!

 これは凄いなぁ!

 我もこの乗り物を欲しいのだが?」


 助手席に乗っている魔族のマグエアルは、はしゃいでいた。

 なんだかドンガトさんと、似たような反応をしているな……。

 新しい物が好きなのだろうか?

 意外と怖くない人なのかもしれない。


 ただ、運転しているアンシ一は、ちょっと迷惑そうにしていた。

 しかし魔族が怖いのか、なるべく態度には出さないようにしているようだが……。


 ちなみにマグエアルの護衛であるクロムスタは、別行動で同乗していない。

 彼女の場合は自力で移動した方が速いようだし、何よりも車内が狭くなるからと、彼女自身が遠慮した。

 実際、車が低速で走行しているとはいえ、彼女は併走して見せ、そしてそのまま何処かへと行ってしまった。

 確かに車は必要なさそうだなぁ……。


 いや、そもそもマグエアルが、ここに同乗しているのがおかしいのだが……。

 仲間でもなんでもないし……。

 しかし彼女は、ダンジョンに入る前から俺達が車で移動しているのを見て、乗りたいと思っていたそうだ。

 今、そんな状況か?


 だが、マグエアルは、


「これを我が、購入することはできないのか?」


 と、商談を持ちかけてきた。


「……燃料が私にしか充填できないので、無理ですよ。

 いずれは誰にでも乗れる簡易版を開発するので、その時なら販売は可能ですが」


 この異世界では、普通の車だと燃料が尽きた時点で補充の方法が無く、使い物にならなくなるからなぁ。

 まあ、実を言うとソーラーカーならば燃料の問題は解決するのだが、ぶっちゃけ売る度に運転の仕方を教えるのは面倒臭いし、今は売らない方がいい。

 旧式の物をこの世界の技術だけで量産できたら、運転マニュアルも同時に作ることになるのだろうから、その時に一緒に売ればいいや。


「おお!

 その際には頼むぞ。

 それに……そなたが使っている武器にも、興味はある」


 ああ……そっちが本命で、同乗したのかな?

 まあ、燃料問題がある車とは違って、火器は弾薬のみを作ることも可能だ。

 なので一度本体を売れば、あとは使用した分の弾薬を追加購入すれば、長く運用することもできるが……。


 そして結果的に軍事力を俺に依存させることによって、魔族に対する俺の発言権が大きくなるのならば、悪い話では無い。

 前世の世界でも、そうやって他国に武器を売って大きな影響力を持つことで、国際社会の中で好き勝手をしている国もあったからな。

 勿論批判も受けてはいたが、結局はその国を孤立無援にすることができない国際情勢の中では、その国の暴挙を止めることはできなかった。


 そう、いくら平和や正義を唱えても、結局は力や実利が伴わないと無意味なのだ。

 だから俺はこの世界の軍事産業を牛耳り、各勢力に強い影響力を持つことで逆に戦いを起こさせないようにする──。

 それが最終目標だな。

 そうすれば前世の世界でも不可能だった平和な世界を、この手で成立させることができるかもしれないし、俺とアンシーの平穏な生活も約束される。


 ただ、やはり商売する相手は、ある程度信用できる者に限定したい。

 その方が色々とやりやすいからな。


「あなたは私の武器に頼る必要が無いほど強そうですが、本当に必要ですか?」


 そんな俺の指摘に、マグエアルは、


「我は珍しい物が好きなのだよ」


 あっけらかんと答える。

 その気持ちは分かるが、本音なのかねぇ……。


「それよりも……あなたが追っている者は、どのような存在なのですか?」


 これが聞けないのなら、マグエアルを同乗させた意味が無い。


「ふむ……そうだな……。

 ギゼオンと言う男でな。

 魔物使いの能力をもっている」


「魔物使い……。

 それは魔族にとっての、基本的な能力ではないのですか?」


 魔族は魔物を従えている──そんなイメージだったのだがな……。


「それは無いな。

 ゴブリンなどの低級な亜人種なら飼い慣らすことも可能だが、手間暇も金もがかかるから、わざわざやる奴はおらんよ。

 むしろ魔物には、村々が襲われて困っているくらいだ」


 その辺は人間と大差ないのか……。

 だからこそ魔物に対抗する為に、俺が作る武器を欲しているというのはありそうだな。


 しかし、だとすると──、


「それでは、魔物使いの能力は、かなり貴重なのでは?」


「そうだな……。

 奴の能力を正しく使えば、民からも(した)われたであろうが……。

 だが、奴は魔族至上主義を掲げ、人間の領土をかすめ取ろうとしている。

 奴にとっては、人間が豊かな生活をしているのが面白くないのだろうな」


「……」


 それって魔族は、人間と比べて貧しい生活をしているってことかな?

 それに魔族の中でも高い地位にあるらしいマグエアルが、直接謀反人を追っていることを考えると、魔族は少数民族で人材が乏しいのかもしれないなぁ。

 

 でもこれは、部外者にはあまり知られたくない情報だろう。

 おそらく魔族は人間よりも少数だ。

 いざ戦いになれば、人間の数に押し切られるだろうからな……。

 それを知れば、変な気を起こす人間の勢力は必ず現れる。


 それなのに、ハッキリと言わないまでも、臭わす程度には内情を話してくれたマグエアルには誠実さを感じる。


 そしてなおさら魔族にとって、俺は喉から手が出るほど欲しい人材なのでは?……と気付かされた。

 よく攫おうとしないな、この人……。

 強硬手段に出られたら、たぶん俺は抵抗できない。

 おそらくそれくらいの実力差はあるだろう。


 それでもマグエアルは、俺達との対等で友好的な関係性を望んでいるようだ。

 うん、いい人だ……。

 ちょっと喋りすぎで迂闊なのではないか……と、思わなくも無いが、そこがむしろ「この人は放って置けない」と、庇護欲を刺激する。

 ちょっと惚れてしまいそう……というのは大袈裟だが、これがカリスマなのか……と思わせるねぇ。


 それはともかく、さすがにロゼーカンナ市が近づいたら、マグエアルは車から降ろさないとなぁ……と思っていたところ──、


「む、煙が見えるな」


 と、マグエアルは呟く。

 確かに空には煙が見え、そちらにはロゼーカンナ市があるはずだが……。


「市が襲撃されている!?」


 どうやら緊急事態であるようだった。

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