猛獣現る
いやぁ……ゴーストは強敵でしたね。
というか、マジで死にかけたぞ!?
アンシーがいなければ、確実に殺られていたわ……。
幸いにも、俺が対応できる形での弱点を見つけられたから良かったけど、今後「物理無効」ではなく「物理反射」の能力を持つような魔物が出てきたらお手上げだわ……。
いや、長距離からミサイルとかで、反射できる限界以上の攻撃を撃ち込めばあるいは……。
とにかくダンジョンでは、あっさり命を落とす可能性があることを思い知った。
正直言ってもう行きたくないけど、放置してまたロゼーカンナ市が襲撃を受けると、最悪の場合は住む場所が無くなるしなぁ……。
仮に前回のように撃退できたとしても、人は沢山死ぬだろう。
それはなんか嫌なんだよねぇ……。
いや、市が都市防衛の全権を俺に渡してくれたらやりようはあるけど、今の俺は一介の庶民に過ぎないし。
それに、元凶を絶たないと、延々と戦いが続くことになるから、やっぱり守りを固めるだけというのは悪手だと思う。
そんな訳で、ダンジョン攻略3日目。
昨日はあれから一時撤退したが、今日は遅れを取り戻す為に朝早くから訪れた。
その地下2階層──。
「みなさん、ゴーストが出たら、即スタングレネードで対処しましょう!
即ですよ、即!!」
俺は大量に作ったスタングレネードを、全員に持たせた。
これから発生する強烈な光は、ゴーストにも有効だ。
まあ、あの光でゴーストを倒したのか、それとも追い払っただけなのかは、眩しさでよく分からなかったが……。
「怖かったのね、エルネスタちゃん……」
「はぁ!?
怖くありませんが!?」
……本音を言えば、死にかけたのだから怖いが、虚勢を張ることくらいはさせてくれ。
俺にだって元男のプライド……というか、意地があるんや……。
ともかく、ダンジョンの探索を再開した訳だが、幸いにもゴーストは殆ど出現することはなかった。
昨日でその大半を、倒してしまったということなのだろうか?
まあ、オーガとかは出たけど。
そしてあっさりと辿り着いた地下3階層。
「これは……」
そこはこれまでのダンジョンとは、様相がまったく変わっていた。
今までは遺跡の内部という感じだったが、そこは洞窟のようになっていたのだ。
何者かが……おそらくは魔物が掘ったのか……?
しかしこれはマズイな……。
今までのように頑丈な素材で壁や床が覆われていないから、爆発物を使ったら崩れる可能性があるんじゃ……。
「この壁に大きな衝撃を与えたら、やっぱり落盤とかが起こるのでしょうか?」
「じゃろうな。
そんなに脆い感じではないから、そう簡単には崩れんじゃろうが、気を付けた方がいい」
地下で生活する為、坑道などには詳しいであろうドワーフのドンガトさんが言うのだから、それは間違いないのだろう。
となると、大きな爆発を伴う兵器は使えない。
だけど今後オーガや巨大イノシシを上回るような魔物が出てきたら、通常の銃器では太刀打ちできないはずだ。
今でも銃器だけではちょっと厳しいもの。
う~ん……どうしたものか。
その方針が決まらないうちに、新手の魔物が現れた。
現れたのは巨大な──、
「……巨大なコアラ?」
まさしくそれは、コアラだった。
巨大なことを除けば、オーストラリアでお馴染みの珍獣である。
まあ、異世界にイノシシがいるのなら、コアラがいても不思議ではない。
いや、コアラって、地下に生息するものだったっけ……?
そんな疑問が湧く。
ともかく見た目は可愛い……いや、可愛いかな……?
クマよりも巨大なコアラは、普通に怖いような……。
実際、爪が思っていたよりも鋭いし。
「クソっ!!
森鬼だっ!!」
冒険者達が色めき立った。
オーガ相手でもそこまで動揺しなかったのに、明らかに焦っている。
え……そんなにヤバイ奴なん?
というか、「森鬼」って異名がつけられているの!?
「え……?
どうします?
撤退しますか?」
なんかヤバそうな雰囲気なので、そうした方が良さそうだけど……。
「無理よっ!!」
エカリナさんが叫ぶ。
そうかぁ、無理かぁ……。
実際、彼女の言う通り、コアラは物凄い勢いで突っ込んできた。
あ……確かにこれは、逃げ切れるようなスピードじゃないわ。
そもそもコアラって、木から木へと飛び移ることもできるんだよな……。
そんな身軽な相手に、俺が逃げ切れるビジョンが浮かばない。
「ミ゛ャアァァァッ!!」
「ガアッ!?」
コアラは奇声を上げて腕を振り上げ、そして振り下ろした。
それをドンガトさんは、仲間を庇う為に前に出て、大盾で受け止めた。
しかし勢いを殺し切れずに、大きく弾き飛ばされる。
こりゃ、受けに回ったらすぐに潰される。
速攻で倒さないと──。
「アンシ一、ライフルで撃てっ!!
エカリナさんも!」
「ハイ、かしこまりました!」
「分かったわよ!」
俺は「空間収納」からライフルと弾を出して、2人に渡した。
すぐに2人の攻撃が始まる。
俺も拳銃での攻撃を始めた。
「グウィィィィ!?」
だが、コアラへの効果は薄い。
毛皮は天然の鎧みたいなものだからなぁ……。
角度が悪いと、剛毛が弾を弾いてしまう。
一応ダメージは与えているけど、あと何十発弾を撃ち込めば倒れてくれるのか、まったく分からない状態だ。
それでもコアラは、銃器での攻撃を嫌がっている。
しかしだからこそなのか、コアラは不穏な挙動を始めた。
そう、まるで深呼吸をするかのように、大きく息を吸ったのだ。
え、まさか口から火を吹くの!?
たまには違う時間に投下してみる。