搾り取られるところでした
翌日、俺達は再びダンジョンへと向かった。
途中までミニバンで行き、道が悪くて車では通れない場所は、重機で整地して通れるようにしてから、再びミニバンでそのままダンジョンの中へと乗り入れる。
結果、地下への階段のところまでは、短時間であっさりと到達できた。
まあ、1階のマップは全部埋めてはいないが、それは後から来る冒険者に任せよう。
少なくともここに来るまでの道中で魔物は出現しなかったから、1階層にいた魔物は殆ど駆除したと判断してもいいのだろうし。
「ふむ……ワイヤートラップに異常は無いけど、階段に設置した地雷は作動した形跡がありますね……」
爆発の形跡と、なんだかよく分からない肉片が転がっている。
何者かが地雷原に踏み込みはしたけど、それ以上進むことができなかったようだ。
この様子なら、無理矢理に地雷原を突破できるほどの戦力は、魔物側には残っていないのだろう。
……そう考えていた時期が俺にもありました。
地雷やワイヤートラップを回収して、俺達は地下へと進む。
すると1階では現れなかったオーガなどの、強力な魔物が出現するようになった。
ゴブリンのような雑魚は殆ど駆除したようだが、強力な魔物はまだ温存されている感じか。
まあ今のところは、俺が作った武器の敵ではないが。
だけどなぁ……。
爆発物を地下で使うのは、やっぱり怖い。
万が一今使っている武器が通用しない敵が現れたら、このダンジョンを破壊する勢いの物を使わざるを得ない……のだが、地下でそういうのを使うと、俺達も巻き込まれて死ぬ。
となると、地上まで逃げてから反撃……ということになるのだが、逃げ切れない場合が想定される。
そうならないように、慎重に進む必要があるな。
それでもなんとか、地下2階へと無事に到達することができた。
そしてここで、最初の危機が訪れる。
「ヤバいぞ、ゴーストが出た!!」
ドンガトさんが指し示す通路の奥──その暗がりに、半透明の人影が見えた。
異世界だと幽霊って、本当に出るんだな……。
怖いと感じるよりも、むしろ感心したぞ。
いや……待て、幽霊ってことは……!?
「ひょっとして、物理攻撃が効かない感じですか?」
「ええ、魔法しか通用しないから、ここは私達に任せると良いですわ」
と、エカリナさんとリーリアが前に出る。
つまり俺は、役立たずということだな。
俺は魔法が使えないし、魔法の力を持った武器もまだ作れないもんなぁ……。
「それではお任せします」
「ええ、あたし達に任せなさいよ」
そしてリーリアは手にした杖の先に、エカリナさんは自身の掌に、眩い光を灯した。
2人とも同種の魔法を使っているようだが、ジョブによって使える術系統の制限は無いのかな?
個人の資質で、どんな魔法でも習得することができるのだろうか?
ともかく2人が生み出した30cmほどもある光の弾は、ゴースト目掛けて撃ち出された。
そしてゴーストに命中すると、ごっそりとその身体を削り取る。
おお……っ!!
いくら霊体でも、あれならば身体を維持できないだろうな。
しかし──。
「うえっ!?」
通路の奥から、更に複数のゴーストが現れた。
その数は10体……いや、20体?
これ……魔法使い2人で、対応できるんですかね……?
「逃げるわよっ!!」
エカリナさん達が身を翻して走り出す。
俺達も慌てて後に続く。
「あれに捕まったら、どうなるんですか!?」
「生命力を奪われて、干涸らびるらしい!!」
アルクの答えを聞いて、俺は必死で走った。
だが、悲しいかな。
俺の足は超遅い。
こんなことなら、事前に電動キックスケーターでも作っておけば良かった。
いや、こんな薄暗いダンジョンの中でそんな物を走らせたら、壁に衝突して死にかねんな……。
そんなことを考えていたら、すぐ後ろにゴーストの気配が近づいてきていた。
お、追いつかれる!?
幼女の干物とか、冗談じゃないぞ!!
「ぼっ……お嬢様!!」
その時、アンシーが俺の背後に向けて懐中電灯を投げつけた。
すると背後に迫っていた気配が、一瞬引いたような気がする。
怯んだ!?
物理攻撃は効かないのに!?
いや、ゴーストは懐中電灯の光に怯んだのか!!
さっきもエカリナさん達の光の魔法で倒せたのだから、光が弱点であることは間違い無い。
そしてそれは、魔法の光じゃなくてもいいってことか!?
「アンシー、俺を抱えて走れる!?」
「勿論です!!」
アンシーは何故か嬉々として、俺をお姫様抱っこして走り出す。
いや、重くないのかな!?
いくら俺の身体が子供でも、10kgや20kgじゃ済まない重量があるぞ。
「こういう時の為に、鍛えてますから」
心を読んだ!?
……まあいいや、今はゴーストの対処だ。
俺は「空間収納」から、スタングレネードを取り出した。
これの光ならどうだ!?
「みんな、目を瞑って!!」
俺がスタングレネードを背後に放り投げた次の瞬間、激しい音と光が通路を満たした。
そしてそれが収まった後、ゴースト達の方を確認すると、そこには何もいない。
まるで最初から、そこには何もいなかったかのようだ。
まさに幽霊だな。
良かった……上手く弱点を突くことができた。
「やりましたね!」
「はへっ……。
そ、そうね……」
喜ぶアンシーに抱きしめられて、俺はグッタリと身体を弛緩させる。
今更のように、全力疾走したことの代償が俺を襲う。
呼吸は激しく乱れ、ふくらはぎの筋肉も痛い。
ねぇ……今日はもう帰っていい?
さすがに疲れたよ……。
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