一時中断
俺は地下へと続く階段に、地雷を設置し始める。
「それ、必要か?」
と、ドンガトさんは疑問を口にした。
「これで下から魔物が上がってきても、食い止めることができるでしょう。
折角魔物を駆除したエリアに、また魔物が入り込んだら鬱陶しいですからね」
まあ、通常のダンジョンなら、恒常的に魔物がうろついていないと冒険者達の狩り場になり得ない。
ただ、今は非常事態なので、ダンジョンの探索を効率化して、早めに原因を取り除いた方がいいだろうな。
その為には、魔物の動きは制限した方がいい。
「これで……よし」
地雷の設置は終わった。
階段の全体に敷き詰める形なので、踏まずにここを通ることは不可能だ。
しかも振動にも反応する仕様にしたので、撤去も困難だろう。
ただし、飛行するような魔物には通用しないが、今のところここでは遭遇していないので大丈夫だと思う。
それよりも問題なのは、魔物達が犠牲覚悟で人海戦術を使い、地雷原を突破してくる可能性だ。
だが、それは仕方がない。
どのみち一時しのぎだからな。
本格的に魔物の群れが動いたら、その場に俺がいないと対処はできないだろう。
群れがまだ動かないことを、今は期待するしか無い。
「一応、通路にワイヤートラップも仕掛けておきましょうか」
これはワイヤーに引っかかると、起爆するタイプだ。
それを通路に「変換」で仕掛ける。
作り出したトラップを手動で仕掛けるのではなく、最初から設置された状態で生み出す訳だ。
これならば設置作業の時間を大幅に短縮できるし、俺の手の届かない天井付近にもワイヤーを張り巡らせることも可能だぞ。
つまり、飛行型の魔物にも対応できるのだ。
「では、帰りましょう」
トラップを設置し終えた俺は、「空間収納」からミニバンを出して、みんなへ乗り込むよう促した。
このダンジョンの通路は広いから、ミニバンでも問題無く走行できる。
このままロゼーカンナ市まで、車に乗って帰ることにしよう。
まあ、ダンジョンの外にある急ごしらえの道は悪いから、徒歩に切り替えなければならない場所もあるけど、そこは次に来た時に整備しようか……。
そして夕方頃──。
宿屋に泊まる冒険者達と別れて、俺とアンシーがルエザリクさんの家に帰ると、娘のアリサがご立腹だった。
「遅いよ、も~っ!!
一緒に遊ぼうと、思っていたのに~!!」
「いえ……私にも仕事があるので……」
「え~?
子供なのにおかしいよ……」
いや、この世界の子供も結構働いているだろ。
アリサが遊んでいられるのは、家が裕福だからだ。
貧しい家の子は、生きる為に毎日のように休み泣く働いている。
しかしアリサが目に涙を溜めたので、俺はそれ以上反論することはできなかった。
ダンジョンに泊まり込む選択をしていたら、彼女の怒りは更に激しいものになっていただろう。
俺の顔を見た瞬間に、泣き叫んで駄々をこねたかもしれない。
探索の中断を判断した俺の選択は、正しかったのだと確信できた。
それにやっぱり俺も、夜はベッドで寝たいしな。
ダンジョン内にミニバンを停車させて車中泊する手もあったが、寝袋やテントでの野宿よりはマシとは言え、さすがに寝心地はベッドに負ける。
ともかく今は、アリサのご機嫌を取ることにしよう
「それじゃあ、寝る時間まで遊んであげるから……」
「……なにそれ?」
俺はトランプを出した。
トランプを投げナイフのように使うのは、フィクションの中ではお馴染みなので、俺の中ではこれも武器だ。
実際、金属で作られたトランプ型の投げナイフも実在する。
だが、子供が使うの物にそれでは危ないので、さすがにこれはプラスチック製。
頑張れば肌を傷つけることくらいはできるが、普通に遊ぶ範囲でなら危険は無いはずだ。
「トランプというものです。
色々な遊び方ができますよ」
アリサが今すぐルールを理解できるのは、ババ抜きや神経衰弱かな?
そんな訳で、アリサやアンシーと一緒にトランプで遊んでいたのだが、アリサはなかなか勝てず更に機嫌を損ねていた。
「もう1回っ!!
もう1回勝負だよ!!」
……これは手加減した方がいいかな?
そんな感じで、トランプでの勝負は続いていく。
その様子を見ていたルエザリクさんは、
「アリサ、そろそろ寝る時間です」
「え~っ!?」
熱中するアリサを止めてくれた。
ふ~、助かったぜ。
アリサは俺の言うことを聞かないし、このままだと徹夜コースだからな……。
それからルエザリクさんは俺の方を見て、ぼそりと呟いた。
「それ、売れますね……」
「……売りましょう!」
新商品が決まった瞬間だった。
トランプなんてすぐに他者に模倣されるだろうけど、発売の元祖となるのは大きい。
これだけでも、この世界の歴史に名を残すことになるし、それが別の利益に繋がるはずだ。
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