これからの都市防衛
コルニリカ・ロゼーはやや痩せ気味だが、身なりがこざっぱりとした成年だった。
パッと見では好青年なのだが、糸目なのが胡散臭い。
いや、糸目だけならただの個性だが、笑顔なのに目が笑っていないという印象の男だった。
俺の敵なのか、それとも味方なのか、それはまだ分からない。
ただ、ルエザリクさんとは知己の間柄らしいし、ある程度は信用できるとは思うのだけどね。
実際、同席したルエザリクさんとは、親しげに挨拶を交わしている。
さて、俺も……。
「エルネスタ・タカミです」
俺が名乗ったのは勿論、全部偽名だ。
こちらの本名はアーネスト・リンジャーだしな。
正直、本名を名乗って、いざという時にはあの両親に迷惑をかけてやろうかとも思ったが、あいつらとの繋がりを他人に知られると、俺にとってもマイナスに働きそうだからなぁ……。
なお、「タカミ」という姓は、前世とは関係無い。
ちょっと似ているけど、実際には適当だ。
「ここ数日の協力、感謝します。
魔物を倒したお手並み、実に素晴らしい。
まさかこのような可愛らしいお嬢さんが、あれほどの力を持っているとは……」
「あっ……はい」
お偉いさんとの会合なので、一応正装をしているのだが、当然女性用……というか、女児向けの服を着ている。
なんかアンシーが、嬉々として可愛い服を買ってくるんだよなぁ……。
俺としては男装をしたいのだが、この世界の女性は男装じみた格好はほぼしないので、逆に目立つという理由で断念。
「そして様々な物資の提供は、非常に助かりましたよ」
「いえいえ、私もこの市に居を構えてようとしていますから、市の一員としては当然です。
それに対価もいただいていますし」
そりゃ、タダではないよ。
一部は無償提供したけど、それでも赤字にならない程度には他で儲けさせてもらっている。
それに「戦功への褒賞を出したい」……というのも、この会合の目的の1つらしいし、まだ何か貰えるかもしれない。
もっとも、他に目的はあるのかもしれないが。
「そのことなのですが、できれば今後も我が市にご協力をお願いしたい」
「……それはこれからも、魔物の襲撃があるということですか?」
つまり、何も解決していないと?
「うん、そうだね」
コルニリカの話によれば、ゴブリン達は何者かの意思によって動いていたという。
確かに巨大イノシシによって壁を破壊しようという作戦もあったし、無分別に攻撃をしかけてきた訳ではないようだ。
しかし今回倒されたゴブリン達の中には、指揮をとっていたと思しき個体は確認されていないらしい。
そもそもあのゴブリン達は、何処から来たのかという話だ。
ただの野生のゴブリンにしては、数が多すぎるという。
「近くのダンジョンを調べたが、そちらは関係無いようだった」
確かロゼーカンナ市の近くにはダンジョンがあって、そこから手に入る魔物の素材や財宝で市の財政は潤っているんだっけ?
ただ、ダンジョンには魔物が徘徊し、時には外に出てくることもあるということで、危険があるのも事実らしい。
大量の魔物の群れが出現する時は、このダンジョン絡みのパターンが多いそうだが、今回は関係無かったという。
「僕はこの近隣に、未発見のダンジョンがあるのだと睨んでいるんだよ」
ふ~ん、そういうこともあるのか?
でもダンジョンって、古代文明の遺跡みたいなものなんだろ?
今まで何百年も問題が無かった物が、いきなり危険な物になったりするものなのかね?
何か不確定の要素が絡んでいるのかも……。
ともかくコルニリカは、その未知のダンジョンへの対策に俺も協力しろと言いたいようだ。
「物資の提供は継続的に、そしてある程度纏まった数を発注するので、少し安くしてくれるとありがたい。
それとあの空を飛ぶ魔道具で、ダンジョンの捜索を空からできないかな?」
あ~、ドローンか。
あれを使っているところも、彼に見られていた訳ね。
もう操作方法は理解したから、義手でハッキングしなくても使えるはずなので、捜索自体は問題無い。
ちなみに俺が気絶した後に、あのドローンはどうなったのかというと、俺の制御を離れて一定時間が経過したら消える……という風に設定しておいた。
だから誰かに回収されて、悪用される心配は無い。
売り物以外の武具については、そんなことのような処置がしてあるのだ。
いや、売り物に関しても、実は別の設定をしてあるんだけどね。
これからその話もしないといかんな。
「捜索はできると言えばできますが……。
新しく作らなければならないので、少し高いですよ?」
「それはまあ……分割でもいいかな?」
「いいですが……。
それと、1つ条件を付けてもいいですか?」
「条件……とは?」
「無いとは思いますが、念の為……。
犯罪や侵略行為に、私が売った物を使わない……ということです」
ぶっちゃけ、俺が作った武具でなら、国を侵略することも不可能じゃ無いからな……。
戦争というのは国家を始めとした集団同士の間で、軍事力のバランスが崩れた時に起きる。
何処かが強くなりすぎたり、あるいは弱くなりすぎたりしたその時だ。
俺の能力は、そのバランスを容易に崩してしまうだろう。
そうならないように、武具を作る時にはとある制限を設定している。
犯罪や侵略には使わない──これに反した使い方をしようとすると、即座に機能を停止するような、そんな設定だ。
その判断基準はスキル任せなので、どこまで有効なのかはまだ未知数だし、設定の抜け穴もあるだろう。
だが、俺が近くにさえいれば、後から設定の修正も可能だから、試行錯誤しながら運用していく。
この条件を守れないような相手とは、危なくて商売はできない。
そんな俺の条件を受けて、コルニリカは少し顔を強ばらせた。
さあ、どう答える?
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