長女と三男
このロゼーカンナ市を含む地域を統治する、ロゼー子爵家。
その子爵家の三男から接触があった。
おそらく現場の責任者だった彼は、俺の能力を直接目にする機会があったのだと思う。
そして俺に興味を持った……というよりは、何かに利用できると判断したのだろう。
ただ、今の混乱した状況で会うというのは無しだな。
会うのは落ち着いてからだろう。
そもそもゴブリン達の襲撃が、これで終わったとも言い切れないし。
今はやれることをやるだけだ。
俺はルエザリクさんを通して、市に瓦礫撤去の為の道具を提供することにした。
できれば重機を出したいところだが、さすがにそれは目立つので、俺が提供するのはスコップとツルハシだ。
特にスコップは、戦場で塹壕を掘る為に大活躍しただけではなく、塹壕に乗り込んできた敵兵を叩き切ることにも威力を発揮したという立派な武器だ。
ツルハシはそれを武器にしているゲームがあったので、俺の中では武器に該当している。
で、日が暮れて──。
俺とアンシーは、ルエザリクさんの家へお邪魔することになった。
なお、冒険者達は色々と後始末がある為、今夜は徹夜での作業らしい。
ゴブリン達の死骸を処理やギルドへの報告など、数日は忙しくなるようだ。
大変そうだが、冒険者でもなんでもない俺には──しかも肉体的には子供の俺には、作業に付き合う義務も無いし、手伝おうとしてもさすがに周囲の大人も止めるだろう。
自分だけ休んでいていいのだろうか……と、少し後ろめたさを感じつつ夕食をいただいた後、俺はというと──、
「よろしくね、エルちゃん!」
「はい……よろしく」
ルエザリクさんの娘、アリサに懐かれた。
外見上は同い年の同性だからだかなぁ……。
父親に似て顔立ちは整っているし、性格も素直そうで、可愛い印象の娘だ。
というか、ルエザリクさんって、こんな大きな娘がいたのか。
彼の見た目は30歳くらいにだが、この世界の人間は老けて見えがちなので、本当は25歳くらいの可能性もあるんだよなぁ……。
実際、奥さんは普通に25歳未満に見えるし、夫婦で同い年くらいだと考えた方がいいだろう。
そんな彼に8歳くらいの娘がいるというのは、前世ではあまり考えられない話だったな……。
ちなみに俺は、アリサからは同い年だと思われているっぽい……というか、下手すると年下に見られているような気がするけど、この身体の年齢は見えないかもしれないけど10歳!
俺の方がお姉ちゃんやぞ!
……「お兄ちゃんだ」とは言えない、この悲しさよ。
「エルネスタ嬢、今日は疲れただろう。
風呂に入って、疲れを流したらどうだい?」
「お風呂があるのですか!?」
平民の家にはあまり無いんだけど、儲かっているんだなぁ。
まあ、旅の途中では風呂に入れなかったので、入れてもらえるのならばありがたい。
「薪で沸かすから時間がかかるし、頻繁には使えないんだけどねぇ。
それに狭いのは我慢してくれ」
うん、貴族は魔法使いを雇って、お湯を作り出している場合があるけど、俺の実家ですら薪だったから贅沢は言わない。
……今後は専属契約したリーリアか、エカリナさんに頼もうか。
「行こう、エルちゃん!」
「え……一緒に?」
アリサに手を引かれて風呂に誘われたが、それはどうなんだろうか?
ちょっと事案っぽいが、実際には今や俺も女の子なので、明確に断る理由も無い。
せめて何度も一緒に風呂へ入ったことがあるアンシーに同行して欲しいところだが、彼女の方を見ると──、
「非常に残念なのですが、さすがに3人では狭いと思います」
本当に残念そうにしてどうした……?
う~ん、少し心細いが、同年代の少女が相手なら、さほど緊張しなくてもいいか。
さすがに幼児体型の裸も、自分ので慣れてきたしな。
冷静になると、臍の位置の違いなんかも分かってくる。
男の時と比べると、ちょっと位置が下なんだよね。
でもやっぱり他人のを客観的に見ると……いや、見てはいけないという意識が働くのに、どうしても見えてしまうと、なんだか変な気分になってしまう。
「エルちゃん、髪も肌も綺麗だねぇ。
あたしに洗わせてね?」
「え……自分でしますよぉ」
俺は拒否したが、アリサは構わずに俺を洗い始めた。
アンシーといい、なんでみんなは俺を洗いたがる!?
そんなに触りたくなるほど、俺の身体は魅力的なのか!?
「うあああああぁ……」
俺の身体は敏感なんだから、あまりあちこちこすらないでくれよ!
……結局俺は、ちょっとのぼせてしまった。
それから数日間は、ルエザリクさんの店に納品する武具を作ったり、アリサの遊び相手になったりして過ごした。
アンシーは家事手伝いをしつつ、引っ越し先を探していたが、やっぱり今は空き家が高騰していて、なかなかいい物件が無いようだ。
あ~……専属の冒険者達の手が空けば、市の外に出て兵器の性能テストをしたいんだけどなぁ。
義手でハッキングすれば、機械で制御するタイプの武器の使い方は理解できるから、冒険者達に使い方を教えることもできるはずだ。
現状ではハッキングをすると頭痛が酷くて長時間使えないので、義手の能力だけで操作するのは難しいし、武器の扱いに関しては他人に頼る必要がある。
相変わらず子供の身体では使えない武器も、かなり多いからなぁ……。
しかし冒険者達はまだ、戦後処理で忙しいらしい。
本来なら俺と専属契約をしているのだから、こちらを優先させることもできるんだけど、市が大変な時くらいは協力を惜しまない方がいいだろう。
俺も一応、この市の住人になるのだから──。
それに子爵家に恩を売っておけば、俺にとって良い方向へ転がることもあるかもしれない。
そして5日ほどが経過した頃、件の三男に会うことになった。
呼び出されたのは、ロゼーカンナ市の庁舎の一室だ。
そこで暫し待たされた後、その三男が入ってくる。
「お待たせしました。
コルニリカ・ロゼーです」
と、挨拶したのは、少し胡散臭さを感じる青年だった。
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