その真価
俺達のいる位置から都市の反対側へと、巨大イノシシ達が移動していく。
移動しているのは目視できる範囲内では2頭だけだが、あれだけでも壁に突っ込めば、壁の一部は崩れるだろう。
この都市を守る防護壁が──だ。
そして一部でも崩壊すれば、そこからゴブリンの群れがなだれ込むことになる。
それはなんとか阻止したいところだが、既に俺の手の届かない位置へイノシシは行ってしまった。
今からじゃもう、長距離を飛ぶような攻撃じゃないと、間に合わないよな……?
標的を追尾するようなミサイルとかは、設定の仕方が分からない。
ギリギリ使えそうなのはドローンだが、俺……操作したこと無いんだよなぁ……。
でも、一応作ってみるか……。
え~と、無線のコントローラーで、機体を操縦するタイプのイメージで……。
むう……「変換」すると、光が発生するから、ちょっと目立つが……。
もう今更か……。
よし、完成。
サイズは1mほどの箱形で、四隅にプロペラが付いているタイプだ。
そしてその底面には爆弾が2つ搭載されている。
これを上手く操縦できれば、上空から爆弾を投下して、イノシシを葬ることができる訳だ。
「なんじゃ、それは……?」
ドワーフのドンガトさん、興味津々。
手榴弾投げのお仕事はどうし──あ、腕が短くて戦力外ですか。
力はあるんだろうけど、投擲は苦手そうだもんなぁ……。
「空を飛ぶ道具ですね」
「ほう、是非動いているところが見たい」
「それが使い方がよく分からなくて……」
まずは本体のエンジンを、かければいいのだろうか?
スイッチ、どこ……。
それともコントローラーの方から、エンジンがかけられる?
そんな風に俺が悪戦苦闘しているこの瞬間にも、イノシシが何処かの壁に突っ込むかもしれない。
クソっ、今すぐどうにかならんのか、コレ!?
「ん……?」
なんだか義手に違和感が……。
うわっ、手の甲からケーブルみたいのが出て、ウネウネと蠢いている!?
気持ち悪っ!?
こんな物を他人に見られたら、魔物認定されかねんぞ!?
「お前さん、それは……!?」
もう手遅れだった……。
ドンガトさんに見られた。
取りあえず、説明はしておこう。
「これ、義手なんですよ。
特殊なものなので、秘密にしてください」
「なんと……!!
今まで本物にしか見えなかったぞ」
ドンガトさん、驚愕。
そしてやはり興味を持っている様子。
分解して研究したい……とか、言わないでくれよ?
「おお……線のような物が……!?」
……ん?
ケーブルになんか異変が?
そもそも、なんの為に出てきたんだ、これ?
え……。
ケーブルがコントローラーに接続された……だと?
強引に隙間に入り込んでいる……。
お、なんだか使い方が理解できる……というか、自分の身体の一部のように動かせるような気が……。
この義手の能力は今まで謎だったが、電子機器へハッキングして支配下に置くことが真の力だったのか?
これなら使い方が分からなかった近代兵器でも、使いこなすことができるようになるが……。
これはなかなか強力な能力だな。
前世の世界ならインターネットで世論形成をしたり、軍事基地や社会インフラに関わるシステムにハッキングしたりして、世界を盗ることも可能なのかもしれない。
……まあこの世界では、俺が作った武具を操作することくらいにしか、使えないだろうが……。
……って、ちょっと待て。
これ、やっぱり義手と俺の脳が繋がってるよね!?
怖……。
変な副作用とか無いよな……?
だが、今は使える物は使わないと……!
「おおっ、浮いたぞ!?」
「はいっ、いけそうです!!」
うん、問題無く動かせるな……。
それどころかドローンのカメラが撮影した映像すらも、俺の視覚として認識できる。
これならばなんとか、イノシシに追いついて攻撃することも可能だ。
って、あたたたたた!?
頭、痛っ!?
これは……ドローンを操作する為には、俺の脳ではスペック不足なのか!?
処理しなければならない情報が多すぎて、負荷がかかっている?
あるいは義手の能力を、まだ完全に引き出せていない所為なのか……。
とにかく今の俺では、長時間制御するのは無理だ。
一刻も早く、全部片付けないと……っ!!
うう……なんとかイノシシに追いついた。
これから壁に突っ込もうとしているのか、今まさに助走をつけようとしている。
やるなら今か。
イノシシの真上にドローンを移動させて、爆弾投下!
『ブギャアッ!?』
…………よし、命中!!
もう1匹仕留めれば、あとは烏合の衆のゴブリンを掃討するだけだ。
……が、正直頭痛が限界です。
朦朧とする意識の中、なんとか爆弾を投下するも……あ、外れた。
搭載している爆弾は今ので最後だし、新たにドローンを作っている余裕も無い。
これ以上何もできないことを悟った俺の意識は、そこで途切れるのだった。
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