突撃を阻止せよ
ゾウほどもある巨大なイノシシが、都市を囲む壁に向かって突進してくる。
あれはヤバイ!!
あんなのに突っ込まれたら、壁が崩壊しかねないぞ!?
そしてそうなった場合、壁の上にいる俺達は転落死するか、瓦礫に挟まれて圧死してしまうかもしれない。
しかも壁が崩れた所からゴブリンがなだれ込み、多くの人間が襲われるだろう。
「アンシー、あいつを止めろ!!」
「はい!」
猟銃を──俺の貧弱な身体では発射時の反動に耐えられないような、強力なライフルをアンシーへと渡す。
ちょっと目立つが、もうそんなことを言っている場合ではない。
たとえ俺の全能力を使ってでも、あのイノシシは壁に突っ込む前になんとしても止めなければ……!
しかし──、
「駄目です、効きません!!」
くっ、ライフルの弾では、イノシシの毛皮や脂肪を貫通できないようだ。
「イノシシに乗っているゴブリンは!?」
たぶんイノシシを操っているのは、そのゴブリンだ。
そいつを倒せば、イノシシは止まるかも……。
「やってみるわ」
エルフのエカリナさんが、イノシシに乗っているゴブリンを狙い撃ちする。
何本か外したが、それでもエルフ。
弓の技術は常人よりも高いようで、ゴブリンに矢が命中してイノシシから落ちた。
だけどイノシシは止まらない。
ゴブリンが死んでもその支配が続いていて、1度出された命令には逆らえないのだろうか。
あるいはイノシシが興奮状態に陥っていて、もう自分の意思では止まれないのかも……。
これはやっぱり、イノシシ自体を倒さないと駄目だ。
だが、ライフルは効かなかった。
あるいは対戦車ライフルなら、効いたかもしれない。
それともグレネードランチャーや、ロケットランチャーの方が良かったか?
しかしそれらの武器はまだ、アンシーに試射させたことが無かった。
強力すぎる兵器を素人が使えば、大きな事故を引き起こす危険性が高いし、そもそもいきなり使いこなせるとは思えない。
こんな切迫した状況では、狙って撃ってもイノシシには当たらないのではないか。
それどころか最悪の場合、俺達が自滅する。
だが、あと20秒もすれば、イノシシは壁に突っ込むだろう。
その前に狙いを外す可能性がある飛び道具ではなく、いますぐにイノシシへと直接攻撃を叩き込むことができるものを用意しなければ終わりだ。
「く~っ!!
それじゃあ、こうっ!!」
俺は今までにしたことのない手段を、試すことにした。
成功するのかは分からないけど、やらなきゃならない。
それは「遠隔変換」。
距離が離れた場所へスキルを行使するなんてやったこと無いけれど、成功させなければ被害がとんでもないことになる。
というか限られた時間の中では、もうそれしか手段が無い。
そんな訳で俺は、ここから離れた壁の外に──イノシシの進路上の地面に、それを直接作り出すことにした。
それは地雷だ。
俺の魔力が届くギリギリの場所──そこの地面を触媒にし、俺の魔力を加えて「変換」する。
よし、地雷はなんとか作れた気がする。
しかし地雷は、踏まれなければ作動しない。
踏めっ!
踏んでくれっ!!
イノシシが、地雷を設置した場所へと到達する。
『ブギィィィィィ!?』
直後、イノシシの腹の下から爆発が生じ、その巨体が空中へと少し浮かび上がった。
そのままイノシシは地面を転がり、その後は悲鳴にも似た鳴き声を上げながら藻掻いている。
どうやら脚をやられたのか、もう立ち上がることはできないようだった。
……これでもう安全だ。
「ちょっ……今の爆発何!?
またエルネスタちゃんがやったの?」
少し離れた場所でゴブリンへと魔法攻撃をしていたリーリアが、駆け寄ってきた。
「え……何のことですか?」
俺はすっとぼけるが、
「あんな大きな爆発が起きたのに、大魔法を使われた術式の気配が無かったんですけどぉ?
そんな常識外れなことができるのって、あなたしかいないじゃない」
と、リーリアは俺の仕業だと確信しているようだった。
まあ、今まで銃や車のような、この世界の人間にとっては奇跡じみた物を見せてきたからな……。
「あれって特殊な魔法なの?
あたしにも使えるのかしら?」
と、リーリアは興味津々だ。
「あ、あれは魔道具みたいな物なので……。
使い方を知っていれば、誰でも使えます……」
まあ、作れるのは俺だけだが。
「え~……誰でも使えるのなら、つまんないなぁ」
リーリアは肩を落とす。
たぶんレアな魔法を習得して、幼馴染みのアレクにでもいいところを見せようとしたのだろう。
だが、俺の作った物は、そのアレクでも使えるからな。
自慢にはならない。
「2人とも、呑気にお話をしている場合じゃないわよ」
「「え?」」
その時エカリナさんが、声をかけてきた。
そんな彼女が指さす方には──、
「げっ!?」
複数のイノシシの姿が見えた。
あいつらが全部、ここに突っ込んでくるっていうのか!?
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