壁の上で
ロゼーカンナ市に入ることはできた。
しかし壁の外に集結しつつあるゴブリンの群れについては、ちょっと気になることがある。
ゴブリン達に高い壁を越え、ましてや破壊できるとは思わないけど、それじゃあ無計画で攻撃を仕掛けようとしているのだろうか……?
ちょっと解せないな……。
まあ、今はやれることをやるしかない。
「ルエザリクさん、折角ですからこの機会を活かしましょう。
ゴブリン退治をする冒険者達に、武具を売りませんか?」
「ああ、そうか。
いいね。
店から在庫を持ってこよう」
いや、それじゃあ時間がかかる。
「いえ、ここで納品ってことでどうです?」
俺は「空間収納」からいくつか武器を出す。
ただ、冒険者なら自前の武具を持っているだろう。
今この状況で需要があるのは──、
「弓矢か……!」
それとスリングなどの飛び道具。
おそらく壁の外に出てゴブリンを迎え撃つよりは、壁の上から遠距離攻撃ができる武器や魔法で攻撃した方が安全だ。
そして弓矢なら、矢はいくらあってもいいだろう。
「これを市に買い取ってもらって、冒険者へ支給してもらえるように掛け合ってみてはどうでしょうか?」
報酬もハッキリしていない状況では、冒険者達はわざわざ武具を買い足さないだろうけど、支給品であるのならば使ってくれるはずだ。
そして俺達も市が買い取ってくれるのなら、確実に収入になる。
市も結果としてこの危機を乗り越えることができるのならば、予算を出してくれる可能性が高いからな……。
まあ、市側の担当者が横暴な権力者なら、商品を無理矢理接収なんてことも有り得るが、そういう相手とは2度と商売はしないし、そいつの政敵とか対立する相手に強力な武具を売りつけることにするわ。
いや、仲良くした方が得だと感じた相手なら、今後の繋がりを期待して、無償提供してもいいんだけどね。
どうせ安物の武具なら、魔力が続く限り材料無しで無限に作れるし。
で、ルエザリクさんが近くにいた市の担当者にかけあってくれたおかげで、大量の弓矢を買い取ってもらえることになった。
なんか現場の権限が強いのかな?
割と即決してもらえるので、話が早くて助かる。
ただ買い取ってもらえるとは言っても、素人に弓を渡してもいきなり使いこなせないので、どちらかというと弓が使える人用に予備の矢がメインだ。
そんな訳で俺は、人目が突かない場所で矢を量産して納品する。
他にも念の為、強力な兵器も作っておこう。
暫くして──、
「弓矢などの遠距離攻撃が使える者は、こちらへー!」
攻撃が始まるようだ。
冒険者達が、壁の上に続く階段に案内されていく。
「アンシー。俺達も行くか」
「はい、坊ちゃま」
弓は無理でも、クロスボウは使えるから、俺達も戦うぞ。
壁の上からなら安全に、そして一方的に攻撃できるので、女子供でも問題無く役に立てる。
そんな訳で俺達は、自前の弓で戦うエルフであるエカリナさんの横に陣取る。
「あ、エカリナさん、矢が切れたら提供しますよ」
「あら、ありがとう」
一応市の方からも矢は支給されるけど、エカリナさんは俺と専属契約しているので特別だ。
「それにしても……」
「随分いますね……」
壁の外には、かなりの数のゴブリンが集まっていた。
千匹……はいるかな?
多いけど、それでもこの壁を突破できるとは思えない。
とはいえ、矢でちまちま射ていたら、殲滅までには相当な時間がかかるぞ。
なあ、銃とか爆弾を使っちゃ駄目……?
いや、さすがに目立ち過ぎるのはいかんな……。
まあ、ある程度遠距離攻撃でゴブリンの数を減らしたら、地上部隊が壁の外に出て殲滅──というのが、現実的な対応だろうか。
そんな訳で、ゴブリンが壁に近づいてきたら撃つ。
俺の腕では、一発で仕留めることはできないけど、矢だけは潤沢にあるので、数撃ちゃ当たる。
そんな作業を2時間ほど繰り返した。
ただ、近づいているゴブリンも散発的で、かなり暇なんだが……。
気分はアタリを待つ釣り人である。
「おかしいですね……。
ゴブリンは何がしたいのでしょう?」
「だよな……」
アンシーが言う通り、ゴブリンは積極的に攻撃を仕掛けてくる訳でもないし、何がしたいのか分からなかった。
「これはもしかして、何かを待っている……?」
「そのようね……。
何か大きいのが遠くにいるわよ」
んー……俺にはよく見えないが、確かに何かいるようだ。
さすがはエルフさん、目が良いな。
その大きな何かが、徐々に近づいてくる。
そして姿がハッキリしてくると……。
「なんかイノシシ……っぽい?」
うん、イノシシだよな、あれ……。
でも、その背中にゴブリンが乗っているような……。
そのゴブリンとの対比だと……ゾウくらいの大きさじゃないか?
あんなのが突っ込んできたら、壁が崩壊するぞ!?
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