それを生み出すスキル
俺は数日前に、前世を思い出した。
そしてこの世界へ生まれる前に、神に会っているということも。
その時の状況は、次の通りだったと思う。
俺はつまらない人生を送っていた。
色んなしがらみに縛られ、好きなことは何もできなかったからな……。
それを後悔する頃にはもう、生き方を変えることができなかった。
三つ子の魂百まで……と言うけど、大人とはそういうものだ。
この生き方は、死ななきゃ治らないな……と。
そう諦観しながら、人生を終えた。
そして次に気がついた時に、俺は宇宙にいた。
宇宙空間を漂っていたのだ。
「え……何ここ……?」
そんな俺の独り言に、何者かの答える声が聞こえる。
『ここは何処でもない場所。
何処かへ至る為の、通り道のような場所──』
声は聞こえるが、姿は見えなかった。
「誰だ……?」
『神……だと言えば、信じますか?』
それはちょっと唐突すぎるな……。
だが、この宇宙空間を見る限り、否定する材料も無いんだよなぁ……。
否定した先にあるのは、俺の頭の方がおかしいという現実だけだし……。
正気で宇宙遊泳なんてできないわ……。
「分かりました。
信じます。
それで……俺に何の御用ですか?」
一応相手を神と認めたのだから、口調を少し改める。
『あなたを私の世界に、転生させたいと思います』
なんだか漫画や小説とかで、よく聞くような話が飛び出してきたぞ。
「それは異世界……ということでしょうか?
一体何故……?」
『その世界は少々停滞しているので、活性化させる為のカンフル剤として、特殊な能力を付与したあなたを放り込んで見よう……ということです。
そしてあなたは、世界を滅ぼすとか、破滅的な結末を招かないのであれば、何をしても自由です』
うん……?
それはある種の社会実験みたいなものか?
俺をその材料にする……と?
大丈夫かな、この神様?
あまり善の存在だとは感じないけど、神様って元々そういうものか……。
いずれにしても、これは断れないのだろうなぁ……。
断ったら、この宇宙空間を永遠に彷徨うなんてことにもなりそうだし……。
ここは素直に従って、少しでも俺の有利になるように、交渉した方がいいな……。
「その……特殊な能力……とは?」
『それはあなたの希望を、ある程度反映したいと思います。
どのようなものがいいですか?
今回は世界に影響を与えるのが目的なので、かなり融通がききますよ?
ただし、能力によってはあなたの不利に働く場合もあるので、よく考えてください』
となると、かなりふっかけても良い訳か。
じゃあ……。
「俺が想像したものを、自由に生み出せる能力というのは……?
俺がその構造を知らなくても……なんなら現時点では実用化されていない未来の物でも、想像の穴を補って実用にたるレベルで再現できる能力……とか」
『ふむ……さすがになんでも……は、無理ですね。
もっとジャンルを絞ってください。
例えば薬品関連だけとか、印刷技術関連だけとか』
う~ん……なんでもってのは無理か。
でも1つのジャンルだけなら、いけるんだな。
それなら……好きな食べ物を生み出せる能力……とか?
生み出した食品を売るも良し、健康食品を自ら食べて、健康な身体を維持するも良し……で、悪くはない。
だけど未知の世界で生きて行く上で、その能力は俺の身を守れるのか?
敵に襲われたら、あっという間に命を失う。
それならば、ある程度戦える能力の方がいいよな……。
「では、軍事関係はどうでしょう。
武器や防具で、自分の身を守れるようになりたいです」
『ふむ……よろしい。
それでいきましょう。
ただし、人間1人の魔力で生み出せる物には、限界があります。
あなたが能力を鍛えて効率的に使えるようになるのと、魔力を増やす努力をしなければ、完全に使いこなすことはできません』
「そうですか……」
ようするに、ゲームみたいにレベルをあげろということか。
『そうだ。
無からすべてを生み出すのではなく、材料などの代償を用意すれば、使用する魔力が少なくても済むようにしておきましょう。
これならば最初から、それなりのものが生み出せるはずです』
「ご配慮、ありがとうございます。
あ……それと、特定の条件下で、生み出した物を無力化できますか?
たとえば誰かに渡した武器が、俺の意に沿わない使われ方をした時とか……」
『ふむ……面白い使い方ができそうなので、細かく設定できるようにしましょう。
ただし設定が甘いと、想定外のタイミングで無力化されるなんてことも有り得ますよ』
「分かりました。
それでお願いします」
『では、赤ん坊から初めても、その能力は使うことはできないでしょうから、その能力を使うに見合った身体へと成長した頃に、記憶が戻るようにしましょう。
その時には、あなたが自由に動きやすい環境になっていることでしょう。
あと、サービスとして、空間収納のスキルもセットに入れておきますね』
その次の瞬間、周囲に見えていた星が、流星のように流れ出した。
いや……これは俺の方が、高速で動いているのか?
その速度は、徐々上がっていく。
まさに光に迫る速さだ。
え、物理的に異世界というか、別の星へ移動している!?
光の速さでも、一体何百年かかるのよ!?
そしてそんな時間の流れに、人間の意識が耐えられるはずも無く……。
俺はいつしか思考を放棄した。
そして俺は、この世界へと転生した訳だが……。
これはあれか……。
女の子にTSすることで、俺が自由に動ける状況にしたということか……!
確かに俺のことを気味悪がった親の干渉は、まったく無くなったけどさぁ……。
もっとやりようはあっただろ!?
まあ……なってしまったものは仕方がない。
「……取りあえず、能力を確認してみるか」
親の干渉が無くなった今、自分の力だけで生きていかなければならなくなったとも言える。
現状では衣食住だけは保証されているけど、それもいつまで続くか分からないからな……。
能力を活用して、不自由なく生きていく為の準備はしておくべきだ。
まずは……いきなりミサイルとか生み出すのは無理だろうから、ナイフ程度から初めてみようか。
「出でよ、ナイフ!」
俺が念じると、目の前に淡い光が現れ、その光の中で少しずつナイフの形が現れていく。
あ……あまり具体的に考えていなかったけど、これは果物ナイフだな。
サバイバルナイフとかには馴染みが無かったから、普段の生活で見知ったものが出てきたのか。
つまりもっとイメージをしっかり持たないと、望んだ物が出てこないということに……。
それでも生み出すことには成功した。
次は無効化する設定を──、
「あ……?」
急激な目眩が俺を襲う。
あ……これ、魔力切れってやつ……?
俺の意識はぷっつりと途切れるのだった。
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