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見えてきた都市

 それからの旅は、順調だった。

 ただ、その進みは相変わらずゆっくりだ。

 特にルエザリクさん達と合流した日は、睡眠を邪魔されたので、仮眠を伴う休憩を多目に挟んだし。

 居眠り運転は怖いからね。


 アンシー以外に車を運転できる者がいればいいんだけど、ルエザリクさんは俺の客みたいなものなので、そういう人に運転はさせられない。

 それに冒険者達についてはまだ信用しきっていないので、命に関わる可能性のある車の運転は任せたくないからなぁ……。


 いや、ドンガトさんは運転をしたがったけど、ドワーフ特有の短足ではアクセルとブレーキを踏むのには不向きだった為、遠慮してもらった。


 まあ、時間はいくらかかってもいい。

 休憩時や移動中の車内で、ルエザリクさんとこれからの商売についてなど、話し合うことは沢山あるからね。

 その話し合いの中で聞いたのだが、彼は既に店を構えており、留守中は妻に店を任せているそうだ。


 結婚していたんか、あんた……。

 今まで行商であちこちと旅をしていたんだから、その留守を守る家族も大変だっただろうな……。

 でも店舗があるのなら、俺はそこに商品を供給していけば、最低限の生活は確保できるだろう。

 

 だが実際には、ドンガトさんと商品開発をしたり、ダンジョンで素材集めをしたり……と、やるべきことは色々とある。

 全部俺がやる必要は無いとはいえ、一通りやってみてどの程度俺が関わり、そして他人に任せるのか、そのラインを探っていかなければならない。


 あとは冒険者達との、交流を深めないとな。

 取りあえず、全員の名前は憶えた。


 まず、熱血少年風の彼は、なんだかんだで主人公というか、リーダーポジションだろうか。

 事実、パーティーの方針を最終決定しているのは、彼のようだ。

 その名はアルクで、剣士。


 そしてアルクのツンデレ幼なじみは、リーリアで魔術師。

 明らかにアルクに惚れているし、彼の言動にはなんだかんだと文句を言いつつも合わせている感じだけど、本人はその事実を認めていないのか、あるいは自覚していないのか……。


 なおアルクも、リーリアの気持ちには気付いていないようだ。

 マジで鈍感系主人公かよ。


 そんな2人と実は幼なじみだという陰キャ君は、トースでシーフ。

 三角関係とかあるのかな?


 その幼なじみ3人組と冒険者ギルドで出会い、流れでパーティーを組むことになったというドワーフで戦士のドンガトさん。

 正直、冒険者達の中では1番期待している人物だ。

 

 そして同じく流れでパーティー入りした、エルフで精霊魔法が使える弓兵のエカリナさん。

 見た目は美少女と美女の中間って感じの年齢だけど、エルフなので実際の年齢は分からない。

 ドワーフも分からないから、この2人は年上として扱う。


「エルネスタちゃんは可愛いねぇ。

 最初は何でこんな所に、同族がいるのかと思ったわよ」


 と、エカリナさんは、俺のことをかなり気に入っているようだ。

 それというのも、彼女から見ても俺の姿はエルフに近いらしく、親近感を覚えるかららしい。

 確かに金髪碧眼で、華奢な体型は似通っている。

 ただ俺は、エルフのように耳は長くないけどな。


「もしかしたらあなたの先祖に、エルフがいるのかもしれないわね」


「は、はあ……」


 言えない……。

 この姿は神によって、勝手に変えられたものだなんて……。

 つまり神の趣味である可能性が、非常に高いということだ。

 だから先祖とか関係無くてゴメン。


 で、冒険者達とはある程度仲良くなったが、夜営の際に寝る場所は別々だ。

 俺はともかく、アンシーを男達と同じ空間では寝かせられないので、俺達2人だけミニバンの中である。


 他の者達は、外でテントだ。

 テントはゴブリンが襲撃してきた際に現場に残してきたそうだが、ゴブリン達が残った荷物を荒らすよりも、ルエザリクさん達を追うことを優先したおかげで、ほとんど無傷で回収することができた。


 そのテントで寝泊まりする女性陣だけでも、車の中に入れてもいいのかもしれないが、そこまで信用するのは時期尚早というものだし、依頼人と雇われ人という立場の違いもハッキリさせておかないとね……。

 

 というか、彼女達とあまり仲良くすると、アンシ一があまりいい顔をしない……ような気がする。

 嫉妬してくれているのかな?

 それならばそれで、ちょっと嬉しいような気もするが。

 それだけアンシ一にとって、俺が大切だってことだもんな。


 ともかく旅は続く。

 俺達が故郷を出てから、既に6日ほどが経過した頃──。


「凄いな……。

 もうロゼーカンナ市に着きそうだ」


 と、ルエザリクさんは驚いている。

 車での移動速度は、彼らの常識から大きく外れているようだ。

 これでも想定よりは、遅れているんだけどね……。


 それでもこのペースなら、そろそろ都市の姿が見えてくるそうだ。

 それならば、正午前には到着できるかな?


「ぼっ……いえ、お嬢様!

 前を……!!」


 その時、アンシ一が俺に呼びかけてきた。

 さすがに人前で「坊ちゃま」は無いので、アンシ一には「お嬢様」と呼ぶように言ってある。


 それはともかく、都市が見えてきたのかと思って前を見ると、道の先に何かが見える。

 確かに草原の果てに都市のようなものが見えるけど、それよりも前に何かがいた。

 あれは人かな?

 都市が近いのなら交通量も増えるし、車ではちょっと目立ち過ぎるかもしれない。

 そろそろ車から降りて、徒歩で進んだ方が──、


「ん?」


 いや、ちょっと人影が多いな?

 道の上だけではなく、周囲の草原の中にも見える。

 見渡してみると、数え切れないほどいるような……。


「あれ……ゴブリンよ」


 エカリナさんは、緊張した声音で俺の疑問に答えをくれた。

 さすがにエルフは目がいい。

 ……って、ゴブリン?


「ゴブリンって、こんな都市の近くにも出るものなんですか?」


「いいえ、普通は出ないわね。

 駆除対象だから、見つかったら狩られてしまうし、人里の周囲では長く生きられないのが普通よ。

 だから集団になるなんてことは……」


 つまり何処かにいたゴブリンの集団が、何らかの理由で人里近くに移動してきたってこと?

 しかもあいつらは人を襲うから、その目的で出てきた可能性が高いよな?

 まさか都市をおそう気なのか?

 

 これはちょっと急いだ方が良いのかも……。


「お嬢様、ここで停止しますか?」


「いや、襲撃の危険がある……と、市に通報した方がいい。

 それにここにいたら、ゴブリン達がこっちに集まってくるかもしれない。

 さすがにあの数と戦うのは、面倒臭そうだ。

 スピードを上げて、ゴブリンが集まってくる前に突っ切ろう。

 多少車体が傷ついても構わないから、進路上のゴブリンは撥ね飛ばしてしまえ!」


「はい!」


 俺達を乗せていたミニバンは速度を増していく。

 元々は武器の一種として作ったのだから、その用途通りの活躍をしてもらおうじゃないか。

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