旅の再開
俺が使った銃によって、ゴブリン達は混乱状態にある。
攻撃を仕掛けるなら今だが……。
しかし冒険者達も銃に驚いてしまい、二の足を踏んでいた。
「早く!!
ゴブリン達が、体態勢立て直してしまいます!!」
「む……そうだな」
俺の声によって、冒険者達がようやく動き出す。
そして動き出したら、展開は早かった。
「うおっ、滅茶苦茶切れ味がいいぞ、この剣!?」
「こっちもだ……!」
「あははっ!」
簡単にゴブリンへと致命傷を与えられることに、彼らはかなり驚いていた。
エルフさんに至っては、クロスボウの連射が楽しそうだ。
まあ某映画で見たエルフのような弓の技量があれば、連射式のクロスボウに頼る必要もないのだろうけれど、彼女にはそこまでの技量が無いらしい。
だから矢を撃ち尽くしたら自前の弓矢を使うのだけど、狙いを定めるのに手間取っている。
その調子じゃ、クロスボウの手軽さは楽しかっただろうなぁ。
そして──、
「おおっ!」
幼馴染みさんが、魔法を使った。
彼女の杖から炎が生じ、ゴブリンを飲み込む。
たぶん威力なら、俺が手榴弾でも作って投げつけた方が強いのだろうけど、ああいうのには憧れるよなぁ……。
やっぱり魔法は、いずれ習いたいねぇ……。
それから程なくして、ゴブリン達は全滅した。
逃げた奴はいない。
しかし──、
「これで全部ですか?」
「いえ……。
ゴブリンは群れで生活する魔物……。
その群れがこれで全部ということは、ないと思うわ。
女子供の姿が無いもの」
と、エルフさん。
何処かに本隊がいるってことか。
ただ、それを潰すのは、俺達の仕事ではないだろう。
この冒険者達も、ゴブリン対峙の為にここにいるのではない。
あくまでも護衛だ。
「残りのゴブリンは、他の冒険者に任せましょう。
我々はこのまま旅を続けるべきです。
ルエザリクさん、この先に用はありますか?」
「私は君の所へ仕入れに行くつもりだったから、ここで君に会えたのなら、ここから引き返してもいいが……」
「それならばそうしましょう。
私達はロゼーカンナ市へ移住するするつもりです」
「おお……決めてくれたのかい?」
「ええ……少々事情がありまして」
こちらの事情を軽くルエザリクさんに話す。
結果的に冒険者達と専属契約をする必要性を、補完する形になった。
俺の能力は狙われるだろうから、護衛などのフォロー要員は必要だ。
「では、朝になったら、出発ということで」
暗闇の中での旅路は危険なので、朝になるのを待ってから出発することにした。
勿論、全員をミニバンに乗せて──である。
「おいおい、なんだこれ!?
なんで走っているんだ!?
どうして!?」
ドワーフさん、大はしゃぎ。
ルエザリクさんや他の冒険者達も驚いていたが、彼は特に反応が大きい。
技術系に特化した種族としては、車は看過できない超テクノロジーに見えているのだろうな。
ちなみに彼の名前はドンガトと言うそうだ。
「私にもよく分からないので、自分で調べてみますか?
お望みでしたら、今乗っているのは無理ですが、旧式のを預けますので、分解なりしてもいいですよ?」
「本当か!?
是非やらせてくれ!!」
たぶんこのミニバンを分解するのは、専用の機械とかが無いと難しいと思う。
そもそも電子部品の類いは、この世界の人間には理解できないだろうし。
だけど自動車が発明された直後の古い物なら構造も単純だろうし、分解して理解することは可能なんじゃないかな?
「それは将来的に、この乗り物と同じ物を製造販売するのが可能ということかな?」
と、ルエザリクさん。
商売の臭いを感じ取ったのか、少しにやけている。
「ドンガトさんか他の誰かが構造を理解すれば、そういうことになりますね。
他にも提供できる物はあるので、産業界に革命を起こせますよ」
たぶん武器として使える物の中にはあらゆる乗り物、電動工具や化学薬品、果ては広義だとコンピューターや生物すらも含まれるだろう。
それらの全てをこの世界の人間で量産できるようになるには、下手をすれば数世紀はかかるかもしれないが、俺の能力で概念を伝えることだけはできる。
無論、それらは兵器としてではなく、あくまでも生活に便利な道具として広めていきたいと思っている。
それが成功すれば、この世界を確実に変えていけるだろう。
まあ、進んでそんな大それたことがしたい訳ではないけど、俺がこの世界で安全に何不自由なく生きて行く為に必要な地位を手に入れる為には、俺のスキルを最大限に活用する。
そんな決意を新たに、旅は再び始まる。
またゴブリンが出なければいいな……と思いつつも、そんなに都合良くはいかないのではないかという気がした。
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