夜の来訪者
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……なにかが外にいるな?
そんな風に何者かの気配を感じて、俺は目覚めた。
アンシーに抱きしめられ、柔らかいものが顔に当たっていたので、その感触をこのまま楽しみたい気持ちがあったが、そうも言ってられない。
ただ、気配からはそんなに嫌な感じがしないってことは、獣や魔物ではなく、人間かな……?
通りかかった旅人が、この車が何なのか分からなくて、調べている?
「アンシー、起きろ。
誰か来た」
「ふぇ……坊ちゃま?」
俺は窓から外を窺う。
暗くてよく分からないけど、何人かいるようだ。
聞き取れないけど話し声も聞こえる。
「どうするのですか、坊ちゃま?」
「一応、銃の用意を」
と、俺はアンシーに銃を渡す。
盗賊の類いなら、銃器での撃退は難しくないだろう。
ただ、現状では一般の旅人との区別がつかない。
仮に相手が盗賊だとしても、窓を開ける為にはエンジンをかけないと駄目だから、不意打ちができないんだよなぁ……。
相手の正体が分からない内は、ドアを開けるのも危険だし……。
だからロックはしてある。
「仕方がない。
エンジンをかけてライトをつければ、相手の姿も見えるだろうし、その反応を見て対応を考えよう」
「畏まりました、坊ちゃま」
エンジンをかけてハイビーム照射。
更に車内のライトをつけて、周囲を照らす。
お、武装した男女が驚いている。
これは盗賊と言うよりは、冒険者っぽい格好だな。
俺はちょっとだけ窓を開け、念の為に銃をいつでも撃てるようにしつつ、外へと呼びかけた。
「何をやっているんです?」
「うおっ!?」
外の冒険者らしき者達が驚いている。
車の中に人がいるとは思っていなかったのか、人がいるとは思っていても、子供がいるとは思っていなかったのか……。
「冒険者ですか?
まさか盗賊?」
「え……あ!
盗賊じゃない!
俺達は冒険者だ。
変な物があったから、調べていた」
ふむ……嘘を言っている感じじゃないな。
「ちょっと待っていてください」
俺は外に断りを入れてから、アンシーに呼びかける。
「アンシー、服を着ろ。
ちょっと話してみよう」
「あっ、はい」
睡眠中だったから、下着姿だしね……。
「あ、悪いが急いでくれないか?
魔物が出たんだ」
なんだと!?
こんな夜中に冒険者が歩き回っているのは変だと思ったけど、こいつらは野営地を魔物に襲撃されて、逃げてきたってことか?
こいつらは逃げ込む場所を求めて、この車に目をつけたのかもしれない。
明らかに人工物だもんな……。
で、急いで準備をして、慎重に外へと出る。
背後ではアンシーが銃を構えて警戒しているので、万が一の時にも対応できるぞ。
「おお……」
冒険者達は俺の姿を見て、小さく感嘆の声を上げた。
そんなに驚くほど、俺は美少女かね?
一方、冒険者達だが、約一名を除いて若く見える
駆け出しといった感じだろうか?
1人は剣士風の男。
赤毛の熱血少年って感じで、リーダっぽい。
さっきから代表して喋っているのもこいつだ。
1人は大きな盾を持った髭面の男。
背が低くて、樽のような体型をしているから、もしかしてドワーフなのかな?
ただの太った人の可能性も、捨て切れないが……。
1人は魔法使い風の女。
ちょっと気が強そうで明るい茶髪をツインテールにしている娘で、リーダーの幼馴染みっぽい雰囲気がある。
たぶんツンデレだな。
1人は冒険者職としての盗賊……所謂シーフっぽい男。
何処となく内向的……というか、陰鬱な雰囲気をしている。
そして──、
「さて……詳しい話を聞きたい……ところですが、そちらで隠れている人も出てきてくれなければ、襲撃の意思が有りと見なしますが?
2人いますよね?」
「!!」
図星を指されたのか、冒険者達が動揺している。
左手のおかげが、感覚が鋭敏になっている今の俺には、隠蔽術は効かないぞ。
「す、済まない。
依頼人である護衛対象は安全が確認できるまで、隠れてもらっている」
ふうん……?
隠れているのは、その護衛対象と護衛役か。
まあ、確かに殺気のような物は感じないけど。
「そういうことなら……」
俺が納得しようとしたその時──、
「いや、出て行くよ」
隠れていた気配の方から、声が上がる。
「これから助けを求めるのに、姿を隠したままでは失礼だ」
と、隠れていた2人が出てきた。
礼儀云々以前に、相手が女子供で油断したというのもあるんじゃないかな?
って、1人はエルフの女性か!?
初めて見た!!
しかも銀髪碧眼の美女!!
弓を持っているからたぶん弓使いだろうけど、おそらくエルフ独自の特殊な魔法も使うのだろうな。
機会があったら見せてもらおう。
そしてもう1人の男は──、
「ルエザリクさん!?」
俺が合流しようとしていた商人だった。
来週はちょっと更新が滞るかもしれません。