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新天地へ

「こう……こうですか?

 坊ちゃま……」


 緊張したアンシーの顔──。

 少し呼吸も荒く、色っぽく見える。


「そう、上手……。

 そのまま優しく──あっ、強すぎっ!!」


 ブレーキ、ブレーキ!!


 急停止によって、ガコンと車体が揺れた。


「ブレーキを踏む時も、緊急時以外はなるべくゆっくりと……な?」


「済みません、坊ちゃま……」


 俺は今、アンシーへと車の運転を教えていた。

 俺の小さな身体(からだ)だと運転には不向きなので、彼女に運転してもらうことにしたのだ。

 

 まあ、アンシーも完全に初心者だけど、このミニバンはマニュアル車ではなくオートマ車なので、運転自体はそんなに難しくない。

 異世界には道交法や運転免許制度は無いから、技術さえあればどうとでもなるしな。


 それに舗装されていない道を高速で走ると、振動で酷いことになるので、ゆっくりとしたスピードで走るつもりだ。

 精々出しても、時速30kmくらい?

 これならば初心者の運転でも、大きな事故は起こしにくいだろう。


 そもそも他に衝突するような車が存在しないから、スピードさえ出していなければ、多少何かにぶつけたとしても、俺達が大怪我するほどの事故にはならないはずだ。

 まあ……道を外れて崖から転落した……とかいうようなことになれば話は別だが、今のところアンシーの運転技術は、そこまで危なっかしいものではなかった。


「これならS字クランクで、脱輪するようなことも無いな」


「エス……ジ……?」


 俺が教習所に通っていた時は、ちょっとやらかしてしまったことがあるぜ……。


 暫くしてアンシーは、どうにか一通りの運転方法をマスターした。

 すべての操作を教える必要も無いので基本の部分だけ教えたけど、それでも彼女はなかなか物覚えがいいように思う。


 そんなアンシーの運転によって、旅は始まった。

 馬車で10日くらいの道程(みちのり)だから、5日くらいに短縮したいな。


「しかし坊ちゃま……。

 これを見られたら、騒ぎになるのでは……?」


「一部ではそうだろうね」


 確かに街道の通行人にこの車を目撃される可能性はあるが、それについては極端に情報の伝達手段が限られたこの世界では、精々局所的に噂話になる程度だろう。

 この自動車も旅が終われば当面の間は使う予定が無いので、目撃される機会が減れば、いずれは誰もが忘れる。


「そんなもんですかね……」


 アンシーは完全には納得していないようだが、それ以上は異を唱えなかった。

 なんだかんだで彼女は、俺の意見を尊重してくれる。


「それにそろそろルエザリクさんがこちらに向かってくるから、多少目立った方が合流しやすいしな」


 こんな一本道で行き違いにはならないと思うけど、俺もルエザリクさんが馬車で来るのか、それとも徒歩で来るのかすら知らないから、向こうから接触しやすいように目立つ方がいい。


 ともかく俺達の乗った車は、ゆっくりと街道を進んでいく。

 スピードを抑えているとはいえ馬車よりも速いので、順調な旅になると思っていた。


 しかし未舗装の道路での乗り心地は最悪だし、運転初心者のアンシーも、さすがに集中力が続かない。

 まあ、真っ当な舗装道路でも、2時間も走れば疲れるしな……。

 そんな訳で、頻繁に休憩を挟みながら進んでいく。


 そもそも道路標識が無いから、目的地があと何kmなのか分からないのも、地味に(つら)い……。

 現在は全行程の10%進んだのか、それとも20%進んだのか……。

 全体像が見えないから、果てしない旅をしているような気分になった。


「アンシー、今日はここで泊まるか」


 陽が沈んできたので道の端に車を()めて、野営することにする。

 夜道は危険だからただでさえ少ない往来が更に少なくなるし、他の馬車の通行を邪魔することにはならないだろう。

 そして車のライトで(あか)りを確保しながら、キャンプ飯である。

 バッテリーが上がっても、再変換して作り直せば充電されるので、気にせずに使っていこう。


 なお、料理を作るのは全部アンシーだ。

 ……俺もちょっとは料理を覚えた方がいいかな……。

 いや、決して花嫁修業とかではない。

 アンシーに頼り切りになるのも、悪いからな……。


「あ、手伝いはいいです。

 坊ちゃまは周囲を警戒していてください」


「え……もしかして魔物とか出る?」


 確かに山の中ではあるが……。


「多くはないのですが、皆無ではないらしいですね。

 それにオオカミなどは、当たり前のように出没するらしいので……。

 普通は護衛を雇って、街道を通るのですよ?」


「なるほど……」


 車での移動だから護衛は必要無いのだろうけど、本来は危険なのだな、やっぱり……。

 それじゃあ警戒しておくか。

 俺の感覚も鋭くなっているから、外敵が近づいてきたら分かるだろう。


 しかしオオカミ程度なら自動小銃でどうにかなるかもしれないけど、クマみたいな大型の猛獣や魔物が相手だと、ライフルとかじゃないと対応できないよな……?

 しかし俺の身体(からだ)では、撃った時の反動がキツイ。

 暇を見つけて、アンシーに使い方を教えるか……。


 ……って、前世で猟銃とか撃ったことが無いから、使いこなす為には試行錯誤しなきゃ駄目っぽいが。

 拳銃はまだ、エアガンとかを撃った経験があるから、なんとかなっているけどなぁ……。

 今後、戦車や戦闘機を作っても、操縦できる気がしない……。

 

 いや、サポートAIとかを搭載したものにすれば、なんとかなるか……?

 ロボットアニメとかには、よくあったしな。

 ただ、未来の技術を使った物を作るのは、かなり魔力が増えた現状でも、なかなか大変なんだよなぁ。

 俺が現物を見たり触ったりしたことが無いから、想像力だけでは補えない部分がある。

 それはスキルが自動的に処理するようだが、それでは効率が悪いのだろうな……。


 で、そんなことを考えていたら、夜も更けてきた。

 結局その晩は何も現れなかったので、俺達は車中で眠った。

 ……狭いとはいえ、抱きつくのはやめてくれませんかね、アンシーさん?




 そんな感じで特に何事も無く、旅は続く。

 ところが3日目の夜──。

 眠っていた俺は、異変を感じて目を覚ました。


 おい、車の周囲を何かがウロウロとしているぞ!?

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[気になる点] >「これならS時クランクで、脱輪するようなことも無いな」  『S字』じゃないかなと。
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