鋼鉄の心
「おい、俺はこっちだ!!」
俺はあえて声を出して、男達の気を引く。
「兄様?」
まあ、クレアも反応したが。
あっ、男達の一部が妹のクレアの方にも行った。
俺がクレアを庇おうとしていることを察して、人質に使えると理解したか。
「ちっ!!」
クレアに向かった男に向かって、俺は拳銃を発砲した。
迷っている暇は無い。
クレアに近づかれてから撃ったのでは、クレアに当たってしまう可能性があるからな。
とはいえ、慌てて撃ったので、命中率は高くない。
結局弾切れまで一発も当たらなかったが、発砲音で驚いたのか、男達は足を止めた。
その隙に俺は、弾切れを起こした拳銃を再変換して弾を装填し、再び発砲する。
……ん、今度は当たった。
しかし大口径の銃では俺の肩が反動で外れてしまいかねないので、今は小口径の銃を使っているのだが、その威力はそんなに高くはない。
おそらく当たり所が悪くさえなければ、即死はしないと思う。
それでも、戦闘行為ができるようなダメージではないだろう。
実際、彼らは地面に倒れて藻掻いているので、クレアはこれ以上危険には晒されないはずだ。
まあ、また斬撃が飛ぶような技を使われたら別だが、苦しんでいる彼らの姿からは、そういう技を使っているような余裕は無さそうに見えた。
そして次に、俺の方に向かってくる奴らを撃つ。
こちらに向かって一直線に近づいてきているから、狙いは付けやすい。
制圧にはさほど時間はかからなかった。
「アンシー、クレアを家の中へ!」
「はい……。
坊ちゃまは?」
「あいつらを片付ける」
「私がやりますが……?」
アンシーにも一応銃を預けているし、射撃訓練もしている。
だけどそれは、あくまでも護身の為だ。
「いや、手を汚すのは、俺だけでいいよ……。
まだ汚れていないアンシーの手を、汚す必要は無い」
「坊ちゃま……」
アンシーは不憫な子を見るかのように俺を見つめるけれど、こればかりは任せる訳にはいかない。
取りあえず1人を残して、男達にトドメを刺す。
遺体はそのままにはしておけないので、空間収納に……入れるのはなんか嫌だから、即武器へと変換した。
……不思議と最初の時よりも心が動かない。
人の命を奪っているのに……。
俺は左手だけではなく、頭まで機械になってしまったのだろうか……?
「マジで、この左手の所為だったりしないよな……?」
五感とかの感度も上がっているようだし、有り得る話だ。
戦闘の邪魔にならないように、精神を安定させる効果があるとか……。
それで助かっているのも事実だけど、なんだか複雑な気分だ。
もしも左手が関係無いのだとしたら、俺には人の心が無くなってしまったということになってしまうし……。
……ともかく、残っている男に、聞くべきことは聞かなくちゃ。
「……おい、他に仲間はいるか?」
「ひいぃぃぃぃっ!!」
だが、男は怯えて答えない。
今しがた仲間が殺されたあげくに、遺体すらも消滅させられているからな……。
自分自身も、銃弾で肩と足を撃ち抜かれて、大怪我をしているし……。
このまま治療しなければ、死ぬ可能性は高い。
それはなかなかの恐怖だろう。
だけど、わざわざ俺を狙ってきた奴には同情しない。
お前達が大人しく俺を放置していれば、こんなことにはならなかったんだよ。
俺は「空間収納」からナイフを取りだし、男の首に突き付けた。
「他に仲間は?」
「ぜ、全員で来た!」
男は慌てて話す。
脅せば口が軽くなるタイプか。
ふむ……全員か。
だが、例の武具屋はいなかった。
「今回の襲撃を、他に知っている者は?
誰に頼まれた?
あの武具屋は?」
「だ……誰にも頼まれていない……。
俺達は兄貴の仇を討とうと……。
旦那は知っているが、何も言われていない……」
兄貴……?
ああ、この左手の材料になった男か。
つまりこいつらの独断……?
でもあの武具屋は、見て見ぬフリをしたってことだよな……?
脅しが足りなかったか?
それとも脅しすぎたのか?
まあ、いい。
聞きたいことは聞くことができた。
例の武具屋を除けば、俺を狙っている奴らはもういない。
あ、こいつを片付ければ……な。
俺は男に銃を向ける。
「ちょっ、待てよ!?
聞かれたことは、全部話しただろ!?」
「話したら助けるとは、一言も言っていない」
直後、銃弾が男の眉間を撃ち抜いた。
「…………っ」
最初の時よりも落ち着いているとはいえ、嫌な気分だ。
もうちょっと、平和的に生きられるように、考えないとなぁ……。
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