すべてが変わった日
俺は何故か、女の子になってしまっていた。
まず何が問題なのかというと、家族にどうやってこの異常事態を信じてもらうか──と言うことだ。
鏡を見ると、金髪碧眼の美少女で、以前の俺の面影が無いし……。
「お前がアーネストだって……?」
最初の両親の反応はというと、息子であるアーネストこと俺が誘拐されて、入れ替わるように女の子が置き去りにされたというものだ。
状況的には、そう解釈する以外に無いと言える。
だが、仮にそれが事実だとしても、意味不明な部分が多すぎる。
残された女の子は、攫われた息子本人だと名乗っている。
頭がおかしいとしか思えない。
息子本人だと主張することで、その立場や将来的に財産の相続権を得ようとしているのだとすれば、あまりにも御粗末で、せめて同性の似た子を連れてこなければ成功することなんか有り得ないだろう。
あるいは赤ん坊の頃ならば、成功する可能性はあったかもしれない。
病院での取り違えとか、たまにあるし……。
また、捜査を混乱させる目的だったとしても、誘拐する為にわざわざ標的の家に忍び込み、しかも別の子供を連れて入れ替える……となると、犯行の難度が上がって不合理だ。
事前に身代わりの子供を用意し、口裏を合わせる為に俺に関する情報を覚えさせるのも無駄。
常識的に考えて、やる意味がない。
「だから俺は本物だよ!」
俺は両親にそう説いて聞かせた。
「し……しかし……」
だが、両親は信用してくれない。
元々の俺の顔とはかなり変わっていて、いくら性別が変わったとしても面影が無さ過ぎる所為で、同一人物だとは認識するには無理があるようだった。
そこで俺は、家族や俺しか知らないような情報を、いくつもいくつも語って聞かせた。
父と二人きりの時に話した会話の内容、母のへそくりの場所、妹のクレアが転んでケガをした時の状況……等々。
両親からの質問にも、すべて的確に答えてみせた。
本人から情報を聞き出して暗記するには、ちょっと無理な情報量──。
そして両親ですら自覚していなかったような些細なことまで、答えることができる。
そんな俺の記憶だけは、少なくとも本物だということを両親に納得させることはできた。
しかしこの身体の変化はなんだ?
俺が息子本人だと認めた両親は、今度は俺が何らかの呪いか奇病に侵されているのかもしれないと思ったようだ。
以後、両親は俺に近寄らなくなり、メイドに世話を丸投げした。
まあ、伝染するようなものだと怖いしね……。
それに息子から娘になってしまった俺に対して、どう接して良いのか分からなかったというのもあるのだろう。
しかも我が家は下級ながらも貴族なので、跡取り息子がいきなりいなくなってしまったというのも大事である。
最初から俺が長女ならばまだしも、元男では政略結婚にも使えない。
万が一それが明るみに出てしまえば、醜聞どころの騒ぎではなくなるし、そもそも病気や呪いを疑われる者を嫁に出すなんて、相手に対しての敵対行為だと言える。
だから結婚自体も不可能だ。
結果、今まで俺にかけていた期待が、全部無くなってしまった。
その失望が露骨に態度として現れるのも理解できるが、こんなに寂しいことは無いなぁ……。
だが、自由にはなった。
親の干渉が無くなったことで、俺は自由に動けるし、将来も決められてはいない。
「あ……!」
そこで俺は気付く。
そうか……そういうことか……。
これ、俺を転生させた神の仕業だわ。
ストックがあるうちは、更新頻度は高いかと。