これからのこと
どうやら家に辿り着けずに行き倒れていた俺を、アンシーが見つけて連れ帰ってくれたらしい。
彼女の顔を見たら安心したのか、様々な感情が漏れ出してしまい、恥ずかしながら大泣きしてしまった。
そんな俺を抱きしめてくれたアンシーのおかげで、今はなんとか落ち着いたけれど、その後はお説教タイムだった。
正座で延々と叱られ、事情も根掘り葉掘り聞かれた。
「つまり坊ちゃまのスキルを狙った者達に、攫われたと……」
「……はい」
スキルのことも、言わざるを得なかった。
「今後のことを考えると、スキルを使って金を用意する必要があったので……。
できればアンシーも、俺が雇いたいし……」
「坊ちゃま……!」
アンシーは感極まった顔をして、俺を優しく抱きしめた。
あ……いい匂い。
この世界の人達って、毎日お風呂に入る習慣は無いようだ。
自宅に入浴施設を維持する余裕がある貴族や金持ちははまだいい方で、貴族の俺でさえも毎日入れない。
大量の水を用意してお湯を沸かすのは大変なので、3日に1回くらいだろうか。
魔法を使える者がいれば、もっと楽であるらしいが、希少な術者は田舎には殆どいないので、雇いたくても雇えないそうな。
雇ったとしても、その報酬は異様に高いとか。
ましてや庶民なんかは、川での水浴びや、濡れた布で身体を拭くだけで済ませてしまう者も多いという。
もしかしたら、本物の風呂を見たことすら無い者もいるかもしれない。
アンシーだって、俺と一緒に入る程度なので、汗臭くてもおかしくないはずなのに……。
それなのにこのいい臭いは、やっぱりフェロモンとか発散しているのかな……?
今や同性の俺に、それが効くのもおかしな話だが……。
多分、俺の精神がまだ男だからだな。
きっとそうに違いない!
「坊ちゃま……。
そんな無理をしなくてもいいのですよ。
いざとなったら、私が坊ちゃまを養いますので」
……それはただのヒモじゃない?
今の俺はただの子供なので、それが当然なのかもしれないけれど、雇われている側のメイドが言うことではない。
いつまでも甘えてばかりは、いられないよなぁ……。
「アンシー……。
気持ちは嬉しいけれど、俺は特殊な立場だ。
あの親だって、いつ何をしてくるか分からない。
そんなもしもの時にも対応できるように、親と同等以上の権力が必要だ。
その為にも金を集めて、地位を買う。
俺のスキルは、金稼ぎには都合がいいから、自由にやらせてくれ」
「しかし、また今回のようなことがあったら……」
アンシーの心配も分かる。
「うん、1人でやるには無理があるって分かった。
だからアンシーも一緒にやって俺を支えてほしい。
今すぐは無理だけど、いずれは父さんの倍額以上を払うから、俺についてきてくれないか?
近い内に取り引き相手がいる、ロゼーカンナ市へ引っ越そうと思っている。
アンシーにはそこでも、俺の傍にいてほしい」
「ああっ、坊ちゃま……っ!
私も連れて行ってくださるのですか?」
「勿論だ。
アンシーのことは、親達よりも家族だと思っている」
「坊ちゃま!」
「わっ!?」
アンシーは俺を押し倒して、俺の頬に何度もキスをした。
同性だからって、スキンシップが激しくない?
でもそれだけ彼女にとっては、俺の言葉が嬉しくて……。
そして俺に対する好感度が、高いということなのだろうか。
だとしたら、俺も嬉しいな。
でも、そろそろ変な気分になってくるから、キスするのやめて……!
あっ……首筋は……らめぇ!
それから数日後、俺は攫われて連れ込まれたあの倉庫の前に来ていた。
たぶん誘拐事件の黒幕は、この倉庫を所有するであろう武具屋だと思うけど、関係者から証言を得た訳でも、物的証拠がある訳できない。
そんな不確かなことで過激な報復するのもどうかと思うので、確実に関与している、この倉庫だけを標的にして終わりにしよう。
まぁ……倉庫の中身を全部素材にしてしまった時点で、武具屋は大打撃を受けただろうから、それで終わりにしても良かった。
ただ、俺も命を失いかねなかったので、その責任はとってもらう。
俺は周囲に人がいないのを確認して、倉庫の壁目掛けて、「空間収納」から取り出した拳銃を撃ち込んだ。
本当は手榴弾でも投げ込もうかと思っていたけど、爆発で火事になったら周囲の民家にも被害が出るしな……。
取りあえず、正体不明の攻撃で壁に穴を空けられれば、脅しにはなるだろう。
実際、それから程なくして武具屋は店終いし、店主は逃げるようにこの地から去った……という話を、人伝に聞いた。
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