メイドさん、心配する
私はメイドのアンシーです。
今私は、大いに焦っていました。
「……遅いです」
もうとっくに陽は落ちて夜になっているのに、アーネスト坊ちゃまがまだ帰宅しないのですよ。
坊ちゃまが昼間、何処で何をしているのか……。
私はそれを把握しておりませんので、居場所にも見当が付きませんね……。
私の仕事は、あくまでもこの離れの管理という名目で、坊ちゃまのお世話はそのついでです。
坊ちゃまの教育などは、業務外でした。
本当は私だって、もっと坊ちゃまと触れ合って色々と教え込み、私の都合の良いように育て──おっと、これはお墓まで持っていかなければならない、外に出してはいけない願望でした。
そもそも雇われの身では、そこまでの権限がありませんしね……。
旦那様からは、「あれは放っておけ」と言われております。
だから坊ちゃまには、必要最低限しか関わってきませんでした。
いえ、おそらく旦那様から見れば、関与しすぎだと思われるかもしれませんが……。
あんな可愛らしい坊ちゃまを、放ってなんておけませんからね。
それでもさすがに、坊ちゃまの外出先までは把握していません。
いつも日が暮れる前までには帰ってきていましたし、何処かで友達でも作って、遊んでいるだけだと思っていたのですが……。
しかしその坊ちゃまが今日、帰ってきません!
今の坊ちゃまは、大変お可愛らしいお姿で……。
まさか誘拐された……!?
そうに違いありません!
私ならば、きっとそうします!
これは一刻も早く対応しないと!!
「旦那様、早く坊ちゃまの捜索隊の編制を!」
私は旦那様に直訴する為に、本邸へと乗り込みました。
しかし──、
「必要無い」
「そんな……!?」
「あれがいなくなるのならば、その方がいいだろう?
あんな訳の分からないもの……。
お前もあれの面倒を見なくても、よくなるのだぞ?」
「くっ……!!
もういいですっ!!」
旦那様達は頼りになりません。
これは私自らが、捜しにいかなければ……!!
確か坊ちゃまは、男装をしていました。
ということは、女の子であることを隠して人に会うということですよね……?
それならば、人がいない森へは行っていないはず……!!
「街ですね!」
私は街へと続く道を急ぎました。
そしてその半ばまで進んだ頃──、
「坊ちゃま!?」
道の上に、誰かが倒れています。
駆け寄って確認すると、やはり坊ちゃまでした。
しかもその有様は、酷い状態です。
服は酷く血で汚れているし、一部は裂けてすらいました。
「怪我は……!?」
確認したところ、大きな傷は無いようです。
だけど左手の手首の辺りが、特に血で汚れています。
それでいてその先の手は、綺麗なままで……。
一体何が……!?
とにかく私は、坊ちゃまを背負って、離れへと帰りました。
そして血や泥で汚れた坊ちゃまの身体を洗い、着替えさせてベッドに寝かせましたが……。
坊ちゃまはなかな目覚めませんでした。
今の坊ちゃまなら、私が自由にできますが、一向に目覚めない姿を見せつけられると、とてもやましい気持ちは湧いてきませんね……。
結局、坊ちゃまは目覚めないまま、夜が明けしまいました。
そして再び夜になろうとした頃──、
「う……」
「坊ちゃま!!」
坊ちゃまが意識を取り戻しました。
思わず感涙の涙を流しそうになったその時、坊ちゃまは私の顔を見て少し安心したような顔をします……が、すぐにボロボロと涙を流し始めたのです。
「坊ちゃま……!」
「うっ……うっ……」
そのまま声も上げずに泣き続ける坊ちゃまのそれは、子供らしくない泣き方だな……と思いました。
そんな声を押し殺して泣いている坊ちゃまの姿を見ていると、その身に何か大変なことが起こったということだけは分かります。
実際、急に女の子になってしまい、旦那様達に見放された時ですら、これほどまでの反応はありませんでした。
「坊ちゃま……。
もう大丈夫ですよ……!
私が一緒にいますから」
私は坊ちゃまの小さな身体を、抱きしめます。
それでも坊ちゃまは落ち着かず、暫くの間、泣き続けるのでした。
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