聖人撃破……のはずが
特撮ヒーローのような姿になったアンシー。
個人的には非常に格好いいと思うし、ボディラインが明確になった為にちょっとセクシーでもある。
それでいて彼女から発せられる力強い気配は、以前の数倍以上にまで高まっていた。
今度は聖人ザンヂに、後れを取ることは無いだろう。
それを悟ってなのか、ザンヂは少しだけ後退る。
そんな彼に対して、アンシーは無造作に歩み寄っていった。
「くっ……!」
ザンヂは覚悟を決めたのか、それ以上退くのをやめた。
そして間合いに入った瞬間、ザンヂは剣を振った……と思うが、ナノマシンで身体能力が強化されている俺の目にすら、ハッキリとは見えなかった。
なんとなく、腕を振り下ろしたかな?……って程度。
凄まじい斬撃の速度だった。
鍛え抜かれた至高の一撃といえるだろう。
だが剣は、アンシーを斬り裂くことはなかった。
半ばから折れて弾き飛ばされ、そして壁面に突き刺さっただけだった。
アンシーのサイボーグボディの防御力が、剣による斬撃の攻撃力をはるかに上回ったということだ。
「お見事……!」
ザンヂの鎧に、脳天から股間まで、真っ二つに亀裂が走る。
おそらくアンシーが攻撃したのだろうが、こちらは俺にもまったく見えなかった。
歩くこと以外は、動いたとすら認識できなかったのだ。
まさに神速かつ不可視の一撃である。
これで勝敗は決したかに見えた……が、唐突にアンシーが飛び退いた。
なんだ、どうした!?
ザンヂ鎧が真っ二つに割れて、床に落ちる。
そして中から出てきたのは──、
「ふむ……所詮聖人程度では、太刀打ちできぬか……」
……?
ザンヂの兜の中から聞こえてきた声は若い男だったはずだが、出てきたのは小太りの老人だった。
しかも声は、明らかに先ほどまでと違う。
「あなたは、何者ですか?」
「私は教皇……だった」
ザンヂとは違うのか。
というか、だった……?
「違う……儂だ」
「!?」
教皇を名乗った男の頭に瘤のようなものができ、それは人の顔に変わった。
人面疽!?
それが喋っている……だと!?
「お、俺は……」
「なんで、こんな……ことに」
しかも人面疽はさらに増え、それぞれが喋っている。
これはまさか……、
「教国の上層部の人間が、全員融合している……!?」
おそらくそうだ。
先ほどまではザンヂの人格だけが表に出ていたのだと思うが、たぶん彼の精神力で抑え込まれていた他の人格達は、ザンヂが倒されたことによって表層に出てきたのだろう。
だけどなんだこれは……!?
複数の人間を融合させるという、悪魔的所業──。
いや、悪魔か。
まさにそいつが教国の神だったな。
「教皇……でも誰でもいいですが、あなた達は神に何を願い、そのような姿になったのですか?」
「ふ……不老……不死……」
あ~……。
権力者が揃って求める、ある意味俗物的な目標な。
たぶんこいつらは融合させられた結果、その人数分の命の数だけ死なない……って感じにされたんだと思う。
ある意味不老……はどうか分からないが、不死にはなっている。
ただし人間を──そして個人の枠組みを捨てさせられ、大きな存在の一部としてしか生きていけないが……。
悪魔なら解釈を歪めて、そういうことをする。
いずれにしても、ギリギリ意思疎通はできるけど、これ以上情報を引き出すのも難しそうな状態になっているし、こんな状態で生かし続けるのもなんかなぁ……。
そもそも融合しているのが、教国の人間だけなのか……という問題もある。
こいつらの願いが叶えられたってことは、既に主神とやらも復活しているってことだよな?
「……試してみましょうか」
という訳で、融合人間の真下の地面を「変換」して落とし穴を作る。
そして落ちた彼らの上に、直径2mほどの岩を作り出して落とした。
普通の人間なら、これで死ぬが……。
死ぬのならそれでいい。
こいつらの所為で、何千・何万もの人間が死んでいるのだから、その罰は受けてもらわなければいけないからな。
だが、死ななかった場合は──。
「そこにいましたか、主神とやら」
落下した岩に潰されたかに見えた融合人間だが、岩を吹き飛ばすような勢いで──そう、まるで間欠泉のような勢いで、不定形の肉塊が噴き出した。
さきほどまでは人間1人分のサイズでしかなかったのに、膨張して見上げるほど巨大な物体になっている。
しかも膨張は止まらない。
いずれはこの空間を、全て埋め尽くすのではないかとさえ思えた。
「ここにもう用はありませんね。
アンシー、脱出します!
ついでに兵器も処分していきますよ」
「はい、お嬢様」
アンシーは俺をお姫様抱っこし、猛スピードで出口へ向かって走る。
そして俺は、壁際に積んである兵器の箱の上に、時限式の爆弾を「変換」して設置。
「起爆は5秒後です!」
「問題ありません」
俺達が聖域を飛び出した瞬間、山脈全体が震えるような爆発音が、轟き渡るのだった。
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水耕栽培のヒヤシンス、根がはりすぎて器から抜くのに苦労するレベルに。このまま水の交換ができなくなるのかと……。




