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聖女の処遇

「あなたが聖女ですか……」


 俺は目の前の少女に問う。


「その通りです、御使(みつか)い様。

 あなた様の偉大な力を真似るなど、愚の骨頂でした」


 聖女ミラは、(かしこ)まった態度で(ひざまず)いていた。

 態度が敵国の貴族に対するそれじゃないんだよなぁ……。

 やはり空中要塞は、脅しとして効きすぎたか……。


 そしてこう従順な姿勢を、しかも年端も行かぬ子供にとられると、こちらも強硬な態度には出られないんだよなぁ……。


「あなたがここで1番位が高いとは……?

 教皇や他の上位者は何処へ行ったのですか?」


「教皇様達は……その……」


 ミラは言いよどむ。

 ふむ……何か秘密の計画が動いている……?


「ひっ……!?」


 その時、ゴウンと大きな音を響かせて、上空の空中要塞が少しだけ高度を下げた。

 アンシーが脅しをかけてくれたか。

 ならばもう一度問おう。


「教皇達は何処へ?」


「……聖地へと向かいました」


 聖地?

 何処だそりゃ?

 この戦争中に行くべき場所か?

 しかも国の上層部が丸ごと……?


 もしかして万が一に備えて避難している?

 それとも何か別の目的が……。

 

「その場所を教えてください」


「え……いえ、しかし……」


 ミラは震え上がりながら俺を見上げる。

 これは口止めされている感じかな……。

 なんだか子供をいじめているような気分になってくるが、ここで引く訳にもいかない。


「あなたには、聖地まで案内してもらいますよ」


「ひっ……!」


 俺はミラを抱え上げて、空中へと浮かび上がる。

 そしてそのまま空へと上昇し、空中要塞へと乗り込んだ。


 ただ、ミラをこのまま自由にさせておくという訳にもいかない。

 彼女は俺の兵器を解析できるようだから、この空中要塞は……さすがに全部真似きるとは思えないが、それでも部分的に技術を流用されるだけでも危険だ。


 そんな訳で──、


「っ!?」


 ミラが胸を押さえる。

 内側から光ったからな。


「今、何か……!?」


「あなたの心臓を作り替えました。

 私の意に沿わない行動をした時、その心臓は鼓動を止めます。

 特に私に関わる秘密は、安易に他言してはなりません」


「な……!?」


「戦争犯罪人としてならば、あなたには死罪相当の罪がありますけど、あなたの能力をこのまま消すのは惜しいので、平和的な活動に従事することを条件に免罪とします。

 その解析能力ならば、新しい薬の材料となる素材の発見などに有用でしょうから……」


 上手くいけば、あらゆる病気の特効薬が作れるようになるだろう。

 そんな能力の運用方法の方が、武器のコピー品を作るよりもはるかに価値があるはずだ。


「御使い様……。

 謹んでその任、お引き受けいたします」


 ミラは感極まったような顔で頭を下げた。

 子供だから温情をかけたというのもあるが、これで聖地の場所も強制的に聞き出せる。

 自分の命を守る為という理由ならば、ミラも話しやすいだろう。

 これまでの私に対する接し方を見るに、自身の命を捨ててまで守るほどの信仰心や忠誠心は持っていなさそうだし。


「では、聖地への案内をお願いします」


「はっ」


 俺は身を包んでいた鎧を解除しつつ、メインブリッジへと向かった。

 その後ろからミラもついてくる。


「アンシー、発進できますか?」


「はい、今すぐにでも」

 

「……!」


 アンシーの姿を見て、ミラが硬直する。

 アンシーはある意味この空中要塞よりも、高度な技術の塊だからなぁ。


「分かっていると思いますが、彼女についても他言無用ですよ」


「は、はい、承知しております……!!」


「では、聖地への案内を。

 どちらの方角ですか?」


「え……え~と、南の山脈の中にあるはずです」


 ふむ?

 その言い方だと、ミラ本人は直接知らないのか?


「あなたは行ったことが無いのですか?」


「はい……聖地は禁断の地とされており、教皇様や司教様とその護衛の聖人様くらいしか立ち入ることが許されておりません。

 私はまだ幼いので……」


 聖女とはいえ、実質的には小間使い程度に見られていたということか。

 まあ、何処の世界でも、子供に重要な権限を渡したりはしないわな……普通は。

 ということは……、


「あなたの監督役がいたのではないですか、あの場に?」


「え……はい」


 子供を矢面に立たせて、逃げた馬鹿がいるってことだ。

 俺がアンシーに視線を送ると、意図を察した彼女は、モニターに大神殿の跡地を拡大して映し出した。


「あ……彼です」


 ミラは騎士風の男を指さした。

 彼女が俺の前に名乗り出た時、庇うような素振りを見せた者はいなかったな……。

 場合によってミラは、処刑されていたかもしれないのに。


 そうか、じゃあ遠隔で「変換」をかけて……。


「あっ」


 ミラの監督役の周囲を囲むように無数の槍を突き立てて、簡易的な檻を作る。

 なお、材料は彼が装備していた鎧や剣、そして服だ。

 さすがに下着は勘弁してあげたが、全裸に近い状態にされた時点で、結構な大恥だろう。


『その者は聖女の監督役であるにも関わらず、聖女を守ろうとしなかった卑怯者です。

 捕らえて牢にでも閉じ込めておきなさい』


 俺は外部スピーカーで下に伝えたが、その後のことは知らん。

 ただ、ミラは感謝しているのか頭を下げたので、監督役からの扱いがあまりよくなかったことは察せられた。

 ならばこの判断は、正解だったということだろう。


 さて、この場でやることは、取りあえず終わったな。

 

「それではアンシー、発進です」


「かしこまりました」


 さあ、聖地へ行って、全ての決着をつけるぞ!

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 先日、野生のカマキリを初めて見ました。元々地元には生息していなかったはずなのですが、温暖化の影響で定着しつつあるようです。昔はカブトムシもいなかったんだけどねぇ……。

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