死 線
弾かれた矢が、地面に落ちる。
「うえっ!?」
男が剣で矢を叩き落としたのを目の当たりにして、俺は変な声を上げてしまった。
フィクションではよく見るけど、実現可能なのかよ!?
これは身体能力では、絶対に敵わない。
戦うのは勿論、普通に逃げようとしても無駄だろう。
ならば策を弄するしかない。
男の動きを止める為には……こいつだ!!
「!?」
俺がとあるものを地面に投げつけた直後、耳をつんざくような爆音と眩い閃光が周囲を満たした。
それは音と光で相手を無力化する、スタングレネードによるものだった。
これをまともに食らっては、もう戦闘どころでは無いだろう。
スタングレネードは、癇癪玉とは威力が違う。
目と耳がやられて動けなくなった男に、クロスボウの矢を当てるのはそんなに難しくないはずだ。
俺は矢が尽きたクロスボウを「変換」して、装填済みのクロスボウを作り出す。
痛そうだが、足の甲を狙って……。
「グアァっ!?」
矢は命中した。
だけど片足だけでも、追ってくるかもしれない。
再変換でクロスボウに矢を装填し、もう片方の足の甲に矢を撃ち込む。
これでもう、追ってはこられないだろう。
それにスタングレネードの音を聞きつけ、そろそろ人が集まってくるはずだ。
その人達に手当てをしてもらえば、この男は死にはしないと思う。
さあこれで、心置きなく逃げることができるぞ。
しかし──。
「このクソガキャアァァーっ!!」
男が叫ぶ。
そいつはこちらを見ていた。
もう目が回復している!?
異世界人、おかしいよ!?
……だけどもう、俺を追えるような足は無い。
しかしそれでも男は、手にしていた剣を振った。
攻撃が届くような距離じゃない。
10m以上は離れている。
だけど俺は、嫌な感覚を覚えて、その場から飛び退く。
「ぐっ!?」
男の攻撃なんか当たるはずはない。
それにも関わらず、俺の身体は衝撃を受けた。
「なっ……!」
男の攻撃は、俺にまで届いていた。
ゲームや格闘漫画とかでよく見る、衝撃波や真空波とかいうやつか!?
ただ、とっさに回避しようと動いたのと、念の為に逃げる前に予め用意して着ていた防刃ベストのおかげで、胴体には問題なさそうだ。
ベストはちょっと裂けたけど、少なくともそこに比べれば、大きな痛みは感じなかった。
だけどそこは違う。
「ああああああーっ!?」
左手が無くなっていた。
手首から大量の血液が溢れ、地面に落ちる。
そこには斬り落とされた手が、無情にも転がっていた。
嘘だろ!?
斬られた!?
止血しないと死ぬ!?
今俺は、生きるか死ぬかの、瀬戸際に立たされている。
すぐに適切な行動を取らないと、命に関わる傷──。
しかし俺の視界の隅では、男が再び剣を振り上げるのが見えた。
「ひっ……!!」
もう一度今の攻撃を受けたしら、確実に命は無いだろう。
すぐに男を無力化しなければ!
しかも確実にっ!!
パンパンと、乾いた音が複数回響いた。
俺が「空間収納」から出した拳銃を、撃った音だ。
一応用意していたが、使うつもりは無かった。
だけど使わなければ、俺は死んでいた。
そして俺の代わりに、男の身体が力無く崩れおちた。
その周囲には、血溜まりができていく。
殺した。
人を殺してしまった。
だけど今は、それを後悔している場合ではない。
このままでは俺も死ぬ。
どうやって止血する!?
片手で腕を縛るのは難しいし、時間がかかれば出血で意識が朦朧としてくるだろう。
今すぐに止血する必要がある。
傷口を焼いて止める?
だが都合良く切断面だけ焼く手段が無いし、火傷だって程度によっては命に関わる。
それならば……できるかどうかは分からないが、スキルを使って義手を作る!
このスキルは俺が知らない未来の技術も、再現できることになっている。
俺の腕に直接──それこそ神経や骨等と結合し、生身の手と同等以上に動かせる戦闘用の義手を、この失った手の先に形成する!!
その為には、この切り落とされた手首を核として、更に「空間収納」の中にあるすべてを材料にして変換するんだっ!!
ストックが切れたので、今後は不定期更新です。最低でも週に1回くらいは更新したい。