その信仰を否定する
さて、これからカトリ教国へ攻め込む訳だが、一旦公爵領へ戻ってアンシーを連れていくことにする。
俺達2人が協力すれば、最小限の人的被害で教国を陥落させることも可能だろう。
実際俺達は今、教国の首都──その中枢たる大神殿のはるか上空にいる。
空からならば、敵国の首都にも簡単に侵入できるのだ。
そしてここから攻撃するだけで、戦争には勝利できる。
だが、それだけでは解決しない問題なので、狂信的な教国の信徒がまた変な気を起こさないように、その歪んだ価値観を矯正する必要があった。
他者の信仰を否定するなんて、かなり酷いことなのかもしれないが、信仰なんて自分の中で完結すべきものであって、他者に押し付けたり虐げる為の理由にしたりしてはならないと思う。
教国はそのラインを超えてしまったから、ここいらで軌道修正しなければ教国以外の者達が被害を被ってしまう。
だから教国人の価値観が覆るほどの、衝撃を与えなければならない。
その為にも、より強い神の存在を利用した方がいいかな。
まあ、この世界の神を騙って、変な影響があっても困るので、架空の神を使うことにしよう。
そもそも俺は、この世界の宗教にはあまり詳しくないからなぁ。
ただ、この世界に俺を送り込んだ女神には直接会っているので、この世界の誰よりも神を知っているともいえるが……。
というか、この歪んだ教国の信仰をどうにかさせる為に、女神は俺をこの世界に送り込んだのではないか……という気がしてきた。
真っ当な神様にとっては、神の御名を騙って差別や虐殺を正当化するカトリ協会の在り方は、非常に不愉快だろうし。
……ともかく、慎重にやらないと、死人が沢山出る。
「アンシー、危なそうな人は、あなたの反重力制御で受け止めてくださいね」
「お任せください」
「それでは、いきますよ!」
これから教国の者達にちょっとした奇跡を見せて、その信仰心をへし折ってやる!
そう、地上50mはある高層ビルじみた大神殿を──教国人にとっての心の拠り所となっている場所を、跡形もなく消滅させるのだ!
私は聖女ミラ。
このカトリ教国で唯一、「聖女」の位を授かった者です。
私の能力はあらゆる物を解析することができ、その力によって遺失していた太古の魔法技術を復活させたり、敵国の新兵器──その技術を我が国の兵器に応用させたりすることができます。
ただし仕組みが分かっているだけでは、兵器を完全に再現することはできません。
完全に一致する材料を集めることは難しいですし、それを加工する職人の技術力も必要ですから……。
その為に現状では、本物よりもクオリティが劣る物しか再現できていません。
それでも我が国の戦力は、以前の数倍へと高まったと言えます。
だからこの度のダーラグ王国や魔族領への侵攻も、普通ならば成功が約束されているはずです。
事実、国境の突破には成功したとの報を受けています。
しかし我が国の新装備は、あくまでも模倣……。
オリジナルに対して、何処まで通用するのやら……。
本物を有するタカミ公爵領は遠く離れているので、素早い対策はされないと思いますが、一抹の不安を感じます。
彼女は高速で移動する術を有しているようですし……。
それに間者が手に入れてきた銃や爆弾は、非常に精巧な造りでした。
しかも私の能力でも、完全に解析できない部分もあり……。
その得体のしれない部分の所為で、現物があっても実戦では使用できないのです。
不確定要素が多すぎる現状では、計画通りにことが運ぶかどうか……。
それどころか、手痛い反撃を受けるのではないか──。
そんな私の危惧は、現実のものとなります。
「──っ!?
何事ですかっ!?」
突然に爆音が鳴り響きました。
バルコニーに出て確認してみると、この聖都ラクシスを囲む防護壁の外側に巨大な爆炎が立ち上っているのが確認できます。
それも聖都を囲むように、東西南北の4カ所に。
おそらく屋外にいる者なら、聖都のどこにいてもその爆炎を確認することができたでしょう。
ただ、その爆発による被害は殆ど無いようです。
しかしそれは、始まりに過ぎませんでした。
『傾注せよ!』
聖都全体へと届くような声が、響き渡りました。
「い、一体何処から……!?」
声が上から降ってきたように感じたので、空を仰ぎ見ます。
「あ、あそこのようです」
護衛である聖騎士の一人が、上空を指さしました。
この大神殿のほぼ真上のようですが……。
「私には見えませんね……」
辛うじて点のような物が見えるような……。
『偽りの神を信仰する者どもに告げる。
我は真なる神の使徒である』
な……偽りの神ですって!?
それは我らが主神のことですか!?
なんたる不敬……!!
そんな私の怒りなど意に介さず、声は続きます。
『我はこの国の間違いを正す為、神の奇跡をここに顕現させる。
まずはこの国の象徴たる大神殿を、消すとしよう』
「!?」
え、消すって言った?
ここを消すって……!?
そんなことになったら、私達はどうなるんですか!?
「今すぐに避難を……っ!!」
私はそう指示を出そうとしましたが、時はすでに遅く……。
大神殿全体が眩く輝き始め、直後に天井や壁は勿論、私達の身体を支えていた床までもが消滅し始めました。
私達は最上階に近い高所から、なす術も無く地上へ向けて落下することになったのです。
いつも応援ありがとうございます。
先日、博物館から発掘キットを買ってきて、化石や鉱石を掘り出しておりました。アメジストクラスターが良い感じ。




