控室にて
私はミーティア。
以前はダーラグ王国の第5王女だったが、今ではノーラン領主であるタカミ公爵エルネスタの第一夫人だ。
まあ、エルネスタは女性だから、傍目には政略結婚だと思われることも多いが、私は割と本気で愛しているぞ。
エルネスタは実に頼れる存在だし、この世界には今までなかった技術を生み出し、私が知らなかった新たな世界も見せてくれるから、彼女との生活は楽しいのだ。
だが、そんな私達の生活を、破壊しようとしている者達がいる。
カトリ教国の者達だ。
教義の所為で、価値観が違うのは分かる。
価値観が違う所為で、利害が相反するするのも分かる。
ならば関わらなければいいのだ。
関わらなければ、争いなんて起こらないからな。
その為の国境でもある。
なのにあ奴らは、国境を越えて、我らに戦いを挑んでくる。
国内で解決できない問題を、こちらで補って解決しようとするのはやめてもらいたいものだ。
そして今まさに、奴らは王国へとまた攻撃を仕掛けてきた。
現時点では村が1つ滅ぼされただけ──いや、「だけ」というには大きな被害だが、国同士の紛争という意味では小規模だ。
だが、これだけで終るとは思えない。
だから国王──父上に警告する為に、私は王都の住み慣れた王城へと訪れた。
そんな私は今、控室にいる。
元々は私の部屋だったが、嫁いだ今となっては、私やタカミ公爵の関係者が訪れた時に使う部屋になっている。
本来多忙な国王には、実の娘といえども、急に訪ねてすぐに会えるわけではないからな。
私は茶を飲みつつ、待っていた。
「まったく……父上はいつまで待たせる気だ。
国家の一大事だから……と、急ぐように伝えたのだがな」
父上を待って、かれこれ30分以上は経ったな……。
あの人、エルネスタのことを怖がっているから、その妻となった私にもあまり関わりたくないのかもしれない。
実の娘なんだけどなぁ……。
「ん……」
その時、私の護衛として同伴していた猫型獣人のシズヨニちゃんの耳がビクンと動き、そしておもむろにが立ち上がる。
さすがに退屈になったのか、彼女は窓の方へと向かった。
「お散歩?」
「ん……そんなところ」
「あまり遠くにいかないようにね」
本当なら城内を部外者が歩き回るのは問題なのだが、身を隠すのが得意なシズヨニちゃんなら誰かに見つかるようなこともあるまい。
彼女は猫のように自由だ。
「分かった」
そう答え、シズヨニちゃんは窓から出て行った。
ここ、6階なんだが……。
まあ、彼女の身体能力が人間離れしているのはいつものことだから、気にするだけ無駄だな……。
私にはよく分からない話だが、シズヨニちゃんの心臓はエルネスタに作ってもらった特別性らしい。
その関係で身体能力が、ちょっとおかしなレベルで強化されているんだとか。
おそらく身体能力だけなら、エルネスタとアンシー以外では勝てる者がいないほどに。
それから更に1時間近くが経過した頃──、
「どうぞ」
ドアがノックされる。
ようやく謁見の許可が下りたか……と思ったのだが、入ってきたのは見知った顔だった。
「ランラック……か」
現れたのはキンシーラ侯爵家の長男で、私の婚約者候補だったこともある男だ。
だが、私にとってはあまり好かない相手だった。
その痩せた体躯と顔付きは、狡賢い狐を思わせる。
見た目で判断したくは無いが、どうにも相性がいいとは思えなかったのだ。
だから早い段階で、彼は婚約者候補から外されている。
「何の用だ、ランラック?
貴様とは最早ただの顔見知りにしか過ぎないし、用も無いのだが……」
「おやおや、これは酷い言い草だな。
まるで厄介者が来たかのように……」
まさしくその通りだが!?
元婚約者候補というだけでも気まずいのに、そもそも私が拒絶の態度を示しているのに、平然としているところが気持ち悪い。
こういう奴は、簡単には引いてくれないからなぁ……。
「久々に帰ってきたと聞いたから、顔を見に来たのだがね」
こいつ、確か城で文官をしているから、私が帰ってきていることを知ることは容易だろう。
だが、挨拶をしにきただけとはとても思えなかった。
「いや、丁度良い機会だから、形だけの不毛な婚姻などやめて、このまま私のところへ戻ってきたらどうかね?」
「貴様のところにいたことなぞ無いが?」
うわぁ……。
こいつ、私が政略の為に、望まぬ結婚をしていると思っているのか?
実際には愛のある生活をしているぞ。
まあ、女性同士だから、子供は期待できないが、それもアンシーが将来的にはナノマシン?……とやらでなんとかするって言っていたし……。
だが、それを知らないランラックは、まだ私とよりを戻せる可能性があると思っているようだ。
仮に私が離婚したとして、本来ならば出戻りの娘に貴族社会では価値も需要も無いはずだが、元々王族だった場合はちょっと話が違う。
私の子供なら順位は低くなるが、王位継承権を与えられる可能性もあるしな。
だがそれは、ランラックにとってのメリットに過ぎない。
自身の一族から、王を輩出できるかもしれないというメリットだ。
「私が公爵家から侯爵家に格落ちすることに、メリットは感じないのだが?」
「それならば問題ない。
いずれこの私は、この国の頂点に立つのだから!」
「は?」
私と結婚して自身の子に王位を継承させるとかいう話ではなく、この国の頂点に──つまり自らが王になるとでもいうのか?
おいおい、とんでもないことを言い出したぞ、こいつ!?
それってつまり反逆宣言だよな?
一族郎党が絞首刑にされるほどの重罪だぞ!?
また遅れてすみません……。そしてブックマーク・本文下の☆での評価・いいねをありがとうございました!