脱 出
さて、倉庫の資材を勝手に使って、色々な武具を作ったが、すぐに行動すべきかどうか……。
仮にここから脱出しても、それだけではまた捕まってしまうかもししれない。
確実に逃げ切る為には、俺を攫った奴等を追跡できない状態にする必要がある。
……それには皆殺しにするのが一番手っ取り早いが、さすがにそれはなぁ……。
殺人なんて縁の無い環境で育ってきた俺には、ちょっとハードルが高い。
となると、選択肢はあれだな。
俺はあるものを装着して、暗い倉庫の隅に身を潜める。
魔力もそこそこ使ってしまったから、このまま休んで少しでも回復させよう。
ついでに防刃ベストも装備しておこうか……。
念の為、念の為にね……。
他にも色々と装備して身を守りたいけど、これ以上は重さで身動きがとれなくなりそうだから、やめておいた方がいいだろうな……。
それから1時間程が経過すると──、
「なっ、荷物はどこへいった!?」
男達が戻ってきた。
彼等は空っぽになった倉庫の中を見て、混乱している。
薄暗いので、俺の存在にはまだ気付いていない。
よし、全員いるな。
それを確認した俺は、彼等が倉庫の中にある程度踏み込んだところで、あるものを投げつけた。
それは勢いよく煙を吐き出しながら、床に転がる。
「うわっ、なんだこれっ!?」
「目がっ!?」
「ゲホっ、ゲホっ!!」
うん、効いている
俺が投げつけたのは、催涙ガスを噴出させる手榴弾だ。
これなら効率的に、男達を無力化することができる。
勿論、俺は予めガスマスクを装着しているから、影響は受けない。
何よりもこれは、確実に命を奪うものではないので、使用に対して精神的な抵抗感が少ないのがいい。
最初は倉庫の入り口に地雷を仕掛けようかとも思ったが、これは踏まれなければ効果は無いし、倉庫に入ってくるのが1人だけということも有り得る為、他の連中が無傷で終わる可能性もあった。
そもそも、俺自身が爆発に巻き込まれてしまう可能性が高い。
他の手段も、クロスボウや銃を撃ち込むような攻撃は、致死率を考えると気楽に選択できるものではなかった。
まあ、催涙ガスでも死ぬ時は死ぬけど、もうこれは気分の問題だ。
殺すのと、結果的に死ぬのでは、大きく違うからな……。
とにかく上手くいった!
男達は涙を流しながら咳き込んで、床で悶え苦しんでいる。
さあ、今の内に脱出だ!!
俺が倉庫の外に出ると、そこには少し見覚えがあった。
これ、最初に売り物を持ち込んだ武具店の裏だな。
つまり俺の誘拐を企てたのは、ここの店主だということだ。
ろくに話も聞かずに門前払いしておいて、今更俺の価値に気付いたか。
しかし普通に商談を持ち込んでくるのならばともかく、俺を拉致して利益を独占しようとは、ろくでもない店だなぁ。
こんな悪徳業者は、早々に潰すべきだ。
だけど今はまず、逃げることを優先しよう。
しかし俺が走り出すと、背後から足音が聞こえてきた。
え、もう追っ手が来た!?
振り向くとそこには、1人の男がいた。
そいつも催涙ガスに、まかれていたはずだけど……。
まさかガスに耐性とかあるのか!?
これだから異世界人はよ~!
「舐めた真似しやがって!!」
しかも酷く御立腹の様子。
これは捕まったら何をされるのか、分かったものじゃない。
実際、相手は剣を抜いている。
それ、脅しの為に使うんじゃないんだよね?
前世ではついぞ感じたことのない、殺気のようなものを感じるんだけど……。
今度こそ覚悟を決めて戦うしかないな……。
俺は「空間収納」から、クロスボウを出して構える。
矢は作り出した時点で装填されていた。
どうやらこのスキルは、すぐに使える状態で作ることが可能らしい。
だから仮に戦車を作った場合は、砲弾の装填は勿論、燃料も満タンな上に、バッテリーだってフル充電されているだろう。
これは俺がいなければ、弾薬や燃料が補充できず、使うことができないことを意味している。
これって相当なアドバンテージだよな。
仮に俺から武器を盗んでも、活用できないんだもの。
しかし、まずはこの場を生き延びないと話にならない。
男がこちらに向かって走り出した。
俺は慌てて、クロスボウを発射する。
しかしそれが、命中することは無かった。
狙いは外していなかったはずなのに、なんだあの男は!?
矢が弾かれた!?
次回分でストックが切れるので、その後は不定期更新になります。