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比べたら

 アンシー様が撃ちだした光の奔流に、巨大なワイバーン(飛竜)が飲み込まれてしまいましたわ。

 そしてすべてが押し流されてしまうかに見えましたが……。


「嘘……まだ生きて……!」


 巨大ワイバーンは無傷とは言わないまでも、まだ空の上で健在でした。

 そして大きく口を開いた瞬間、大音響が響きわたり──。


「くっ……!!」


 (わたくし)は思わず耳を塞ぎ、(うずくま)りまりつつも、これが音による攻撃だと理解しましたの。

 近くの建物の窓ガラスにヒビが入っておりましたし、旦那様が作る音響兵器?……とかいうのと、効果が似ておりますわね。


 被害はそこまで大きくはありませんが、それもアンシー様の力が無ければ、この程度では済まなかったでしょうね……。

 なぜならば、アンシー様の前に巨大な光の壁が出現していたのですから……。

 あの光の壁で、音の攻撃から町を守っくださったのですね?


 しかもその光の壁は、次の瞬間には無数の光の矢に分裂し、巨大ワイバーンへと襲い掛かりました。

 光の壁自体は魔法の防御障壁に似ていますが、あんな変幻自在に変化する防御障壁なんて、魔法の常識の中には存在しませんわね……。


 ……まあ、旦那様はもっと凄まじいことをやってのけますが、あのお方のは魔法ではないらしいですし、アンシー様のもそうなのでしょう。

 いえ、それが何なのかは、間近で何回も見てきた私にも分かりませんが……。


「あ……逃げる……!」


 いましがたの攻撃が効いたのか、巨大ワイバーンは身を(ひるがえ)して立ち去ろうとしております。

 アンシー様がそれを追いますが、これはまずいかもしれませんわね……。


 あの巨大ワイバーンが陽動で、教国の兵が領都へ侵入している可能性がありますし……。

 勿論、巨大ワイバーンはここで倒しておかなければ、被害が際限なく広がってしまいますわ。

 それだけに追撃へと向かったアンシー様を呼び戻すことは適切ではありませんし、今は頼ることもできませんね……。


 それならば──、


「領兵は、町で被害の確認を!

 その際には不審者がいないか、注意をしてくださいまし。

 教国の工作員が、侵入している可能性がありますわ!」


 私は無線機を積んだ車両に乗り込み、領都内に配備されている無線機搭載型の車両へと呼びかけました。

 これで領都の全域へ、指令が行き渡ったはずですわ。


 さあ、私も行きましょうか。

 私は旦那様に作ってもらった剣を(たずさ)え、町へと向かいます。

 ただし自動車は使いません。

 あれは音が大きいので、侵入者の気配が探りにくくなりますし。

 遠回りのようでいて、足を使って調べていく方が、結果的には近道だと思いますの。


 ともかく旦那様の領地を、これ以上(けが)すような真似は、許しませんことよ!

 



 私の名はパルパレオ。

 偉大なる教国の、聖人が1人である。


 現在私は、我が国が神敵だと認定したタカミの本拠地・アネストを殲滅せしめんと、教皇様が復活させた空神(くうじん)様と供に、その遠い異国の地へと訪れております。


 しかしこの現状はなんなのですか!?

 空神様の眷属であるワイバーン達が、たった1人のメイドによって一掃された……ですと!?

 都市の1つや2つを、余裕で落とすことができる戦力ですぞ!?


 その上、空神様自身も歯が立たない!?

 なんなのですか、あのメイドは!?


 だが、幸いにもあのメイドは、空神様が引き付けておられる。

 今の内に、目的を遂行しなければ……!!


 我が目的は、都市の要所へと呪具(じゅぐ)を埋設すること──。

 本来なら空神様の力で、この都市を完全に破壊することが最善でしたが、それが難しいのならば次善策であるこの呪具に頼るしかないでしょう。


 それは小さな壺──。

 

 これを地中に埋めておけば、地脈から魔力を吸収し、やがて呪いを吐き出すようになる。

 それは少しずつ……だが着実に広がり、井戸を、農地を、そして人を汚染し、やがてここはあらゆる生物が生きられない土地となるでしょう。

 気が付いた時には、手遅れになっている。


 しかし当初は、ワイバーン襲撃のどさくさに紛れて実行する手筈でしたのに、そのワイバーンが駆逐されてしまった今、少々やりにくくなってしまいましたね……。

 まあ、今は避難民に扮しているので、それでなんとか……。


 だが──、


「そこの者、避難命令が出ているのを、聞いていないのかしら?」


 女に──まだ少女と言える年齢の者に声をかけられた。

 上質の服を纏い、髪がクルクルと巻いている。

 いかにも貴族令嬢といった風貌ですが、いや……彼女こそが、タカミ公爵夫人の一人であるセリエルか。


 できるのならば、ここで地獄に送っておきたいところですが、今は任務を優先すべきだ。

 この少女は油断ならない。

 私は気配を消して移動していたのに、彼女はそれでも私の存在に気付いたばかりか、むしろ私に気配を悟らせずに接近してきていたのですから。

 しかもタカミの関係者は、妙な武器を使うというし、下手に手を出して手痛い反撃を受けても困る。


「す……すみません。

 家に母の形見を忘れてしまい、取りに戻っておりました」


 ここは適当に胡麻化して……。


「そう……。

 いえ、ならばその隠したつもりの殺気は、一体なんですの?

 怪しい男ですわね」


 と、セリエルは剣を抜く。

 くっ、見抜かれたか……!

 いかにもお上品なお嬢様然とした風貌なのに、男勝りに剣を振り回すような奴に怪しいとは言われたくはないですな。


「ちっ……!!」


 私は隠し持っていた2本の短刀を抜き、セリエルへと斬りかかった。

 我が二刀流は教国でも並ぶ者無し。

 いかに神敵に連なる者とはいえ、この別々に動く両腕から繰り出される斬撃を、見切ることはできまい。


「あら、そこそこ速いですわね」


「なっ……!?」


 しかしセリエルは、我が斬撃をあっさりと剣で弾く。

 その顔には、余裕の表情が浮かんでいた。


 ただの偶然だっ!!

 私は自身へとそう言い聞かせ、連続して攻撃をしかけるが、そのことごとくがセリエルに防がれる。


 馬鹿な……っ!?


「随分と驚いているようですが、この程度は旦那様やアンシー様のものと比べたら、児戯にも等しい攻撃でしてよ?

 そのお二方(ふたかた)を相手に実戦的な修練を積んできたこの私、我が国で3番手の強者(つわもの)であると、自負しておりますの」


 と、セリエルは不敵に笑いました。

 くっ……これは一筋縄ではいきそうにないですね……!!

 ありがたいことに本作が先日、「注目度 - すべて」で77 位、「注目度 - 連載中」で40 位にランクインしました。

 しかし、何を基準にしてこの成績になったのか、よく分からない……。

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