狂人では?
巨人の頭部が縦に割れ、中から何かが現れた。
産み落とされたかのように地面に落ちたそれは、ゆっくりと2本の足で立ち上がる。
それはまたもや人型で、だけど人間よりは大きい。
3mくらいだろうか。
相変わらず鬼のような姿をしている。
ただ、以前までの筋肉が剝き出しになったかのような姿からは少しマシになって、ウナギのような真っ黒でとした皮膚で全身が覆われていた。
「あ~……」
鬼がうめくような声を発しながら、周囲をキョロキョロと見渡す。
まるで自身の状況が、まったく理解できていないかのようだった。
実際、自身の手を見て、首を傾げるなんてこともしている。
「……なんだこの身体?」
うおっ、喋った!?
さっきまでは知性は感じなかったのに……。
人間のような人格が、いきなり湧いて出た?
「あなた、何者ですか……?」
俺が問うと──、
「……あん?
その白銀の鎧は、はタカミ公爵……。
ギリリココの奴は失敗しやがったか」
……俺のことを知っている?
そしてギリリココとは、確かアルク達が倒したという、教国の聖人だっけ?
俺とアンシーを異空間に閉じ込めた奴らしい。
そいつのことを「奴」呼ばわりするということは、同列の存在ってことか……?
少なくとも下っ端が、上位の者に対する呼び方ではない。
つまり聖人──少なくとも教国で上位の存在ということ……って、こんな化け物な姿なのに?
「丁度いい。
この新しい身体の能力を、試させてもらおう!」
新しい身体?
どういうことじゃい。
元々は人間だったんだろうけど、何をどうやったら巨獣や巨人になるなんてことができるんだ?
訳が分からないことばかりだ。
──っと、鬼が攻撃してきた。
回避はできるけど、かなり速いな。
動きが鈍い巨獣や巨人よりも戦いにくそうだ。
というか──、
「何者か──と、聞いたのですが?」
俺は両手の指先から、機関銃のように弾丸を撃ち出した。
俺の魔力が続く限り、「変換」によって無限に作られる為、決して弾切れすることが無い銃撃だ。
鬼はそれを回避して……いや、さすがに全部は避けきれないようだが、皮膚で弾いている。
防御力にも優れている……!
しかしだからといって、ミサイルとかを撃ち込んでも当たらないような気がするなぁ。
爆発に巻き込むことはできるかもしれないが、銃弾が効かないという耐久力を考えると、効果は薄いかもしれない。
おそらくレールガンか荷電粒子砲の直撃なら致命傷になるんだろうけど、あれらはエネルギーの充填に時間がかかるので、あまり連発ができないんだよなぁ。
……そんな風に、攻略法について思考を巡らせていると──、
「俺の名は、アングリー。
カトリ教国の聖人が一人だ!」
そう名乗りながら、アングリーとやらが攻撃を仕掛けてきた。
彼が振り下ろす手刀の先には、岩で作られた刃が出現する。
地属性の魔法か!
それが俺の左腕を斬り裂く。
「……っ!」
まあ、俺の四肢は存在していないから、実際に斬り裂かれたのは義手が変形した鎧に過ぎない。
だから多少壊されてもダメージにはならないし、すぐにナノマシンで修理することができる。
「なんだぁ!?
感触がおかしい」
だろうな。
お前の攻撃は無駄だ。
俺の頭部と胴体がある鎧の中心部を狙わなければ、効果は無いぞ。
無論、そんなことはわざわざ教えてやらないが。
むしろ教えて欲しいのはこっちだ。
「聖人とやらが、何故そのような姿になっているのですか?」
俺は再度問う。
するとアングリーからは、おぞましく理解しがたい答えが返ってきた。
「これは地神とやらを復活させる為に、俺の身体を生贄として食わせた結果よ。
地神は俺の身体を使って復活したようだが、今はこうして俺の精神の方が、地神の身体を乗っ取っている!」
自身の身体を生贄にした……?
そういえばギリリココとやらも、自身の死と引き換えに、あの骨の集合体な巨人を呼び出したと聞いている。
こいつもそれと同じようなことをやったのか?
その結果、地神とやらが復活したはいいけど、アングリーはそこで死んだも同然の状態になっていたはず……。
しかし俺の攻撃で地神の力が弱まり、アングリーの精神が肉体を取り戻す為の余地が生まれた……ということかな?
だが、自身を生贄にするとか、意味が分からない。
それは神に対する信仰が故か?
「何故そんなことを……?」
「地神の力が手に入る可能性があったからなぁ!
俺の実力が伸び悩んでいたから、丁度良い機会だった。
これで俺は、もっと強くなれる……!!」
それで人間であることを捨てたと……?
なるほど、こいつは戦闘狂という奴か。
理解しがたいが、そういう人種がいることは知っている。
強くなって戦う為なら、手段を選ばないという……。
つまりこいつは、ただ戦いが為に、この魔族領に侵攻してきたってことか?
……ふざけるな、と言いたい。
そんなことの為に、多くの人々の生活や命を奪ったのなら、許しがたいぞ……!
だけどアングリーは、罪悪感など一切感じていないようで、むしろ楽しげだった。
「少しずつ力の使い方が、分かってきたところだ。
貴様には、実験台になってもらうぞ……!」
そしてアングリーの身体は、沼に沈むかのように、地面へと吸い込まれていった。
また地属性の魔法か。
なるほど……地神……ね。
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