爆 撃
これから向かう魔族領は、東の方にある。
俺が統治しているノーラン地方は、国の西端で海に面しているから、国の端から端を横断する必要がある訳だ。
その途中にある王都へミーティアと静代さんを降ろす為、ステルス戦略爆撃機で空から接近したが、特に問題が起こっている様子は無かった。
「今のところ王都は無事みたいですね」
「ああ、でも地方の方は分からないから、可能な限り確認してくれ」
「ミーティアも、国王への警告をよろしくお願いします」
まあ、航路の途中にある都市の様子くらいは、確認しておこう。
何かあったら俺の助けを待っている魔族達には悪いが、寄り道させてもらうわ。
俺はこの国の公爵だから、国内のことを優先する義務がある。
ただ、魔族領の方も切羽詰まっているだろうから、大きく航路を外れて確認するのはやめておく。
それは帰り道で……だな。
その時には時間の余裕があるから、教国との国境を中心に確認しながら帰ることにしよう。
状況次第では、いっそ越境して教国に爆撃する選択肢も考慮する。
「それでは王都の上空を旋回するので、2人を転移させてください」
と、クロムスタへ促す。
「分かりました」
で、ミーティアと静代さんが、無事に地上に到着したのを確認してから、再び魔族領へと向けて出発だ。
音速に近い速度で飛べるから、そんなに時間はかからないはずだ。
実際、到着までには2時間もかからなかったのだから、やはり飛行機の速さは別格なのだと感じる。
上空から見ると、魔族領は山が少なく、広大な平地が広がっていた。
その平地の中には広い農地があり、田舎だという印象がある。
まあ、魔族は長命な所為か出生率が低いらしいから、人口密度の問題なのだろう。
そんな魔族領の中に、1本の線が見える。
それは道でも川でもなく、何か巨大な生物が通った跡なのだ……というのは、巨大な魔物の情報を事前に知っていなければ分からなかっただろうな。
それを辿っていくと、崩壊した集落がいくつもあり、時には火災でも発生したのか、煙が立ち上っているのも確認できた。
「これは酷いですね……」
長閑な農村を破壊することに、なんの意味があるのか。
まあ、長期的に見れば、魔族領の食糧事情にダメージを与えるとか、恐怖で精神的な揺さぶりをかけるとか、色々とあるのだろうけれど、俺には不毛な行為に見える。
そもそも、教国はこの戦争で何を得るつもりなのだろうか。
勝てば領土や奴隷などは得られるかもしれない。
だが、それは本当に必要なのか?
実際、俺に恭順を示した教国人に聞いたことがある。
カトリ教国は、他から奪わなければならないほど、貧しくは無かった──と。
そして王国や魔族から、武力に脅かされるようなことも無かった。
少なくとも王国が国境を越えて、教国の領土に兵を送ったことは、ここ数十年の間は無いと聞いている。
だから教国は、戦争をしてまで状況を変える必要に迫られてはいないはずだった。
結局、教国が侵攻を決定した理由は、教義に反した存在が許せないというだけの、狭量な心の問題なのだ。
本当に非生産的でくだらないと思う。
こんな危険な連中、存在することすら許しがたい。
……と、向こうも考えているのだろうなぁ。
だが、それは教国の勝手な疑心暗鬼から生じた敵意に過ぎない。
だって俺は教国が排除しようとしている魔族や亜人と、何も問題なく共存しているし。
彼らを忌み嫌い、排斥する理由が無い。
逆に教国は、理由も必要も無い敵意を振りまいている。
野放しにするのは危険だわな……。
「見えてきました」
クロムスタが指し示す方向を見ると、巨大な生き物が歩いているのが見えた。
四足歩行の全高は200m近く。
全長だと500mを超えるか。
全体的にはゾウかサイのようなフォルムだが、長いトカゲのような尻尾があり、更に額から生えた鉈のような一本角は、それだけで100m近くはありそうだ。
頭が重そうだが、あんなのに突っ込まれたら、どんなに堅牢な城壁でもひとたまりもないだろう。
そしてそんな巨獣の後を追う、多くの人間が姿も確認できた。
あれは教国軍か。
巨獣が踏み潰した魔族領を制圧するだけの、簡単なお仕事をしている連中だ。
「あと、数kmで魔王様の城です」
うん、見えている。
あそこが陥落すれば、実質的に魔族領は制圧されたということになるのだろう。
その一歩手前まできているということだ。
勿論魔族も、手をこまねいているばかりではない。
巨獣の正面から、いくつもの魔法攻撃が撃ち出されるのが見える。
遠目には大量のロケット花火が、発射されているかのようだ。
でも実際には、人間が使う魔法よりもかなり規模が大きく、威力が高いものであるようだ。
しかしそれが直撃しても巨獣はまるで反応せず、ゆっくりと進むその速度を落とすことも無かった。
足止めにすらなっていない。
うん、誰が決めたのかは知らないが、早い段階で俺を呼ぶ判断をしたのは正解だな。
俺じゃなければ、対応できない相手だろう。
「それでは手筈通りに」
「お願いします」
俺は巨獣に対しての攻撃を始める。
それは地下施設などの破壊を目的とした大型貫通爆弾によるもので、その最大の威力を持つ物を巨獣目掛けて投下した。
その数は2発。
たった2発と思われるかもしれないが、その大きなサイズと重量が故に、それだけしかこのステルス戦略爆撃機に搭載して飛行することができないのだ。
しかしだからこそ、その威力の凄まじさは約束されている。
その大型貫通爆弾は巨獣の背中に突き刺さり、そして大爆発を引き起こした。
ブックマーク・本文下の☆での評価・いいねをありがとうございました!




