相性最悪
俺とアンシーは、異空間へと閉じ込められた。
歩き回っても出口は見当たらない。
おそらく空間が、ループしているのだろう。
地面を見ると同じ形の石が、どの方向へ進んでも出てくるからな。
「これ、地面を掘ったら抜け出せませんかね……?」
「空間が固定されているようで、石を動かすことすらできませんね……」
となると術を解除しないと、ここからは脱出できないのか……。
しかし魔法に関しては、俺もアンシーもからっきしだしなぁ……。
早く脱出して、今も敵と戦っているであろうアルク達に加勢しないと、彼らどころか村の外で待機しているクレア達にも被害が及ぶ。
仮に自力で危機を乗り越えられたとしても、俺がいないとオスプレイが使えないから帰れないし。
いや、クレア……?
「もしかして『変換』でいけるのでは……?」
そういえば以前、クレア達と一緒に付与魔法の術式から、直接「変換」する実験をしたことがあったな。
それで直接「変換」で、魔法の武具が作れない物か……と。
結局、完成品に付与した方が効率がいいってことになったけど、あの時の経験がここで活かせるかもしれない。
とはいえ、下手に術式を弄って、空間が暴発なんてことになっても困る……。
「アンシー、バリアは使えますか?」
「バリア……ああ、これですね。
可能です」
アンシーは脳内検索機能でバリアという言葉を調べて、自身の該当する機能について把握したようだ。
最近では俺が前世の言葉を出しても、勝手に理解してくれるからありがたい。
「何が起こるのか分かりませんので、念の為に準備を。
私はこの空間そのものに、『変換』をかけてみます」
「分かりました」
しかし「変換」とはいっても、俺には魔法の術式とかはよく分からない。
なんとか魔力の気配が分かる程度。
まあ、その魔力を「変換」していけば、魔力で維持されている術式は崩壊するはずだ。
だが、まずは少しずつ、慎重に……。
俺の足元に、ナイフやら斧やらと、「変換」で作った武器が転がっていく。
そして──、
「よし!」
唐突に白色だった視界が開けた。
無事に脱出できたようだ。
……って、なんだあの白くてデカいの!?
あれとアルク達が戦っているのか?
いや、クレアとアリサもいる。
大丈夫なのか……?
ふむ……結構頑張ってるな。
妹達の成長は、実に感慨深い。
でもさすがに勝つのは無理そうだし、絶妙のタイミングで手助けに入ってやろう。
丁度今、「変換」したばかりの材料もあるしな。
これを使えば他の物を使わなくても、かなり大きな物も作ることができる。
よし、このタイミングだな。
雪崩のように崩れて、クレア達へと押し寄せる巨人の巨体を、巨大な盾で防ぐ。
「姉様、助かりました!」
「エル~、私達頑張ったよ~」
助かった妹と嫁が駆け寄ってくる。
2人の頭を撫でまわして、褒めてあげよう。
「はいはい、いい対応をしていましたよ」
特にクレアの指揮能力はなかなかだ。
ここ数年、俺の副官として育ててきた成果が出ているな。
「でも、全然勝てなかったよ……!」
確かにあの白い巨人は、巨大な体躯を持つ上に不定形で、戦いにくい相手ではあっただろうな。
どちらかというと、スライムとかに性質は近いんじゃないかな?
あいつらって核さえ無事なら、身体を維持できる質量さえ残っていれば、肉体をごっそりと失っても傷口を即座に塞いで戦い続けられるからなぁ。
普通の生物のような、失血死とか身体機能の欠損とかそういうのが無い。
……って、よく見たらこいつ、骨の集合体なのか。
それなら、話は早い。
これなら戦うまでもないわ。
「変換!」
生物ではないのなら、俺の「変換」で別の物へと変えてしまえばいい。
これだけの巨体なら、戦闘機でも何機か作っておくかな。
巨人が光り輝き、その足元に戦闘機が現れる。
それと同時に、巨人の姿は消えていった。
「ん?」
消えた巨人の中から、何かが出てきた。
それは1mほどの、大きな蜘蛛かダニのような生物だった。
こいつが本体か。
たぶん糸とかで、骨を操っていたのだろう。
おそらく骨……だけじゃなく、もしかしたら石ころなんかを寄せ集めても、あの巨人を形成することができるはずだ。
だがその本体も、アンシーが指先から放ったビームに貫かれて消滅した。
「そ、そんなあっさり……!
実力差は理解していたつもりだったが……」
茫然としているアルク達。
なんかごめんな……。
今回の敵は俺にとって、相性が良すぎたんだわ。
それに戦いが勝利に終わったとはいえ、村が1つ滅びたという事実は変わらない。
しかも俺の命を狙う為に、巻き込むという形でだ。
この調子で、俺と少しでも関わりがある者達を巻き込まれていったら、たまらないぞ……。
そろそろ教国を潰した方がいいか……?
でも、それをやると、周辺国の民衆を巻き込むことになりかねないから、ことは慎重に進めた方がいいよなぁ……。
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