落ちてくる骸達
「クレアちゃん、これは駄目だよぉ!」
うん、私もそう思う……。
頭を吹き飛ばしても、ものの数秒で再生されては、こちらの魔力が尽きるまで攻撃を繰り返しても、倒しきれないだろう。
じゃあ、これからどう対応したらいいのか──そう逡巡していると、巨人が腕をこちらに伸ばしてきた。
近接戦闘の経験が豊富な冒険者達ならともかく、そんなことなどしたことが無い私とアリサでは回避は無理ーっ!?
「伏せろっ!!」
その時、アルクさんが私達の前に割って入り、迫る巨人の腕を斬り飛ばした。
姉様が作った剣の切れ味もさることながらに、アルクさんの剣技もあってこその結果だろう。
「あ、ありがとうございます」
「あいつは危険だ。
撤退した方がいい!」
そんなアルクさんの提言はもっともだと思うけど、このまま逃げていいものなのだろうか?
放置しておけば、この巨人による被害が国中に拡大していくというのもあるけど……、
「あのっ、姉様達は?」
私にはそれが気がかりだった。
「敵の魔法で異空間に閉じ込められた。
その敵は倒したから、いずれは解放されると思うが……」
じゃあ、姉様達の心配はしなくていいのかな……。
今はむしろ、自分達の心配をした方がいいかもしれないけど、逃げるにしても素直に逃がしてくれるのだろうか……。
「うわっ!?」
巨人が全身から触手を生やした。
あれで一斉に攻撃されたら、ひとたまりもないよ……!
あ、リーリアさんとエカリナさんが、魔法攻撃で気を引いてくれている。
でも、こちらの方に攻撃がくるのも、時間の問題だ。
「アリサ、もう1度攻撃を!!
あの触手を消さないと、逃げることもできない!」
「う、うん!」
「アルクさんは、私達の魔法が完成するまでの時間稼ぎを!」
「え……さすがにあの数は……」
アルクさんは、戸惑った表情を見せる。
まあ確かに1人で対処するのは、ちょっと難しい触手の数だと思う。
だけど、手段はある。
「私達が付与した魔法を使えば、なんとかなると思うよー!」
「精神を集中して念じれば、発動するはずです」
私達が剣に付与した魔法を使えば、なんとかなるはず……!
ただ、アルクさんは剣士だから、魔法を活用するという発想はあまり無いようだし、それ故に使いこなせるのかは少し不安だけど、なんとしてもやり遂げてもらわないと、私達が終わるからね……。
事実、巨人の触手がこちらの方に伸びてきた。
「攻撃が来ます!
はやくっ!!」
「あ、ああ!」
アルクさんが剣を振ると、剣先から風の刃が発生した。
私達が剣に付与した風属性の魔法だ。
これで遠く離れた場所の標的でも、斬ることができる。
……というか、
「おおっ!?」
「うわ、すごーい!」
アルクさんが放った飛ぶ斬撃は、触手どころか本体にまで届いた。
これは想定していたよりも、威力が出ている。
アルクさんの腕がいいのか、付与した私達の腕がいいのか、その両方か。
元々アルクさんだけでも、純粋な剣技だけで斬撃を少し飛ばすことができたらしいから、それとの相乗効果もあるのかもしれない。
ただ、今は好都合だけど、魔力の消費が激しいから、あまり連発はできないかもしれないね……。
勿論この剣には、空気中から魔力を吸収して再び技を使えるように術を付与してあるけれど、最低でも数時間はかかるだろう。
ともかく、今はこの場を乗り切ることが先決だ。
私達の魔法であの触手を全部消し、なおかつ巨人の本体にもある程度ダメージを与えて、少しでも動きを止めなければ、逃げることもままならないからね……。
その為にも、魔力のほとんどをこの一撃につぎ込む!
「アリサ、行きますよ!」
「うん!」
「「ホーリーライトっ!!」」
聖なる浄化の光が、触手を構成する骨達を清め灰へと変えていく。
それは巨人本体にも、ある程度効果を及ぼしていた。
これで少しは逃げる為の時間を稼げたと思──、
「あ」
突然、巨人の身体が崩れ、無数の骨が雪崩のように、轟音を立てながらこちらへと押し寄せてきた。
ちょっ、駄目駄目駄目っ!!
こんなのから逃げられないよっ!?
今まさに、大量の骨で押し潰されそうになったその時──、
「うわっ!?」
私達の前に、巨大な壁がそそり立った。
いや、これは壁などではなく──、
「これは……もしかして、姉様の盾っ!?」
そう、姉様が作り出したと思われる巨大な盾が、骨の雪崩を押しとどめていた。
これで私達は助かったけど、攻撃が不発に終わった無数の骨は、再び巨人の姿へと戻っていく。
そして、この盾が現れたということは──、
「姉様っ!!
無事なのっ!?」
「はーい、ちょっと前から、クレアとアリサの奮闘を見ていましたよ」
声がした方を見ると、そこには緊張感があまり感じられない姉様と、アンシーの姿があった。
いつも応援ありがとうございます。