聖人の呪詛
俺はアルク。
俺とリーリアとトースは、同じカプサタ村の出身だ。
俺達3人は冒険者として活動をしていて、それは上手くいっていると思っていた。
でも、俺はトースの事情を、何も理解していなかった。
その所為であいつを死なせてしまうことに……!
しかもあいつの家族が、人質にされているという。
俺達はそれを確認する為に、久しぶりにこの故郷の村へ帰ってきた。
俺とリーリアの家族はもういないし、特に親しい人もいなかったので、こんな事態でもなければ、もう戻ってくることも無かったかもしれない。
いや、トースの里帰りになら付き合うこともあったかもしれないが、あいつがいなくなった今──それどころか、村の住人全員が殺されてしまった今、その機会はもう2度と無いだろう。
そう、村人は人質にされるどころか皆殺しにされ、更に死体をゾンビとして操られていた。
俺達の故郷は、完全に消滅してしまったのだ。
そしてこの参事の元凶は、白いローブを着た男のようだ。
絶対に許してはおけない相手だった。
しかしその男は嗤った。
「おおぅ、おおぅ……。
蟻んこごときが、この聖人ギリリココ様に集ってくるわ。
これから踏み潰されるとも知らずに……!」
聖人!?
今、聖人と言ったか、こいつ。
確かカトリ教国において、他国の将軍に匹敵する強大な戦闘力を持つ存在だと聞いたことがある。
やはり今回の事件の黒幕は、教国だったか。
そしてわざわざ正体を明かしたということは、俺達を生かして返さないつもりだろう。
だが──、
「……みんなの敵は、俺が討つ!」
そう意気込むが、生半可な相手ではない。
多種多様な魔法を使ってくるし、いつの間にか最大戦力の2人が封印されてしまった。
あの2人抜きでは、確実に勝てるとは言い難い。
だが、俺は1人で戦っているんじゃない。
仲間の協力があれば、負けることなんかあり得ない!
しかしこのギリリココ、隙が無い。
魔法攻撃を連発してきて、近づくことすら難しい。
そもそもリーリアとエカリナさんの防御魔法が無ければ、俺達は既に倒れていただろう。
それに奴へと近づけたとしても、相手だって防御魔法を使ってくる。
それでも──、
「しっ!!」
「ぬっ!?」
俺が振り下ろしたトースの剣は、ギリリココの防御魔法を斬り裂いた。
凄まじい切れ味だ。
トースが俺に力を貸してくれている!
しかしギリリココには届いていない。
防御魔法を斬られた瞬間に身を引き、しかも再び形成した魔法防壁を俺にぶつけてくる。
俺はその衝撃で、後退せざるを得なかった。
くっ……簡単に懐へは潜り込めない。
そもそも、エカリナさんがたまに銃を撃ち込んでいるが、相手はそれにすら反応して防御している。
おそらく魔法抜きでも、このギリリココはそれなりに戦えるのだろう。
このままではじり貧だが、それでもチャンスはあるはず……っ!!
そしてそれは、俺達も敵も予想しない形で訪れた。
「ぐっ!?」
突然、ギリリココの左肩が弾けた。
これはライフルとかいう武器の弾が、直撃した傷か!?
勿論、俺達の攻撃ではない。
この攻撃はたぶん……村外れで待機していたミミさんによる攻撃か。
あのウサギのメイドさんは、狙撃の名手だからな。
そんな彼女による数百mも離れ超長距離攻撃は、さすがにギリリココも予想外だったようだ。
そして俺は一瞬の隙を見逃さず、ギリリココに斬りかかる。
「ガハッ!!」
俺の斬撃を受けて、ギリリココは腰から上下に両断された。
これで俺達の勝ちだっ!!
しかし──、
「!?」
ギリリココの上半身が地面に落ちない。
上半身だけ空中に浮いていた。
そしてその上半身から滴る大量の血液と一緒に、何か黒い物が地面へと広がっていく。
血液や下半身はその黒い物に吸い込まれていき、まるで暗い穴のようになっていた。
「おお……死神様……!
我が魂を差し上げます。
どうかここに顕現し、神敵に神罰を与えたまえ……!」
そしてギリリココがそう呻くように言葉を発した直後、下の穴から無数の人骨のようなものが溢れ出し、あいつの上半身を飲み込んで、何か巨大な物体を形作っていく。
「なっ、なにこれ……っ!?」
リーリアが悲鳴のような声を上げた。
それも当然だ。
今、俺達の前に現れたのは、無数の骨を寄せ集めて作られた巨人だった。
それは俺達が今まで見てきた魔物の中でも、最も巨大な姿をしていた。
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