相 性
トースの母親が襲い掛かってきた。
しかも、おそらくは死者として。
つまりゾンビのようなものだ。
「アンシー、彼女が死んでいるのは間違いないんですよね!?」
「心音もありませんし、体温が25度以下にも関わらず、仮死状態にもならずに活動していることが異常です。
少なくとも人間ではあり得ません」
アンシーのセンサーなら、間違いないだろう。
ならば俺がやる。
俺は銃を「空間収納」から取り出し、トースの母親の額を撃ち抜いた。
そのまま彼女は倒れ、動かなくなる。
……やはりゾンビには銃器が効果的で、相性がいいな。
いや、大抵の魔物にも効くが。
「タカミ閣下……!!」
「顔馴染みにはやらせる訳にはいきませんので……」
特にアルクの持っている剣は、トースから作られているからな。
その剣で母親を斬るようなことは、あってはならない。
「そうね。
残りは……」
「ワシらに任せてもらおう!」
エカリナとドンガトが戦闘態勢に入る。
この2人は顏馴染みじゃないから、遠慮はいらないだろう。
──そう、周囲はこの村の住人と思われるゾンビに、取り囲まれていたのだ。
ちっ……どうやら村人は皆殺しにされ、その後はゾンビとして操られているようだ。
おそらくこれをやったのはカトリ教国の者だと思うが、神を信望する者のやることか、これが!?
まったく……狂信者はいつも独善的で、他者のことなんか考えもしない。
なぜ他者にも、信じて大切にしているものがあると、理解しようとしないのか。
理解しないから安易に踏みにじる。
その大義名分として教国が存在しているのなら、いずれどうにかしなければならない。
いずれにせよ、この程度のゾンビの数なら、銃器を使えばすぐに殲滅できる。
無論、罪も無き犠牲者の死体と戦うのは、精神的にキツイものもあるが……。
だが、これで俺を罠に嵌めたつもりか?
こんな簡単に対処できる攻撃で、俺をどうにかできると考えているのなら、舐められたものだ。
……他に何かあるんじゃないか?
「念の為に、クレア達との合流を優先しましょう!」
俺達はゾンビ達と戦いながら、村外れへと向かう。
「うおっ、こいつはクマのゾンビか!?」
何やら動物のゾンビもいるらしく、敵の数は思っていたよりも多いが、まだ対応は余裕だ。
しかしその瞬間──、
「──っ!?
アイアンシールドっ!!」
側面から巨大な火球が飛来してきたことに気付いた俺は、「変換」によって大きな盾を作り出す。
これで火球を防ぐことはできたが、撃ってきたのは何者だ!?
火球が飛んできた方を見ると、真っ白なローブ姿の……たぶん男が立っていた。
「お前が、村の人達をっ!?」
アルク達が男に向かって殺到していく。
彼らの実力ならば、簡単には負けないだろうし、トースや村人達の敵を討つの彼らの役目だろう。
彼らに戦いを任せて、俺とアンシーは後方から支援だな。
「……?」
だが、そうもいかなくなった。
「アンシー、何が起こっているか分かりますか?」
「いえ……解析できません」
何故か俺の視界が歪んでいる。
どうやらアンシーも同様なので、俺の目だけの問題では無いようだ。
そして徐々に白濁していき、周囲が濃霧に包まれたようになった。
アルク達の姿も、ここからは確認できなくなる。
「周囲に何者の存在も確認できません。
生物どころか、建物や自然物さえも……。
地面があるだけです」
と、アンシーが分析してくれた。
……これは、変な空間に閉じ込められたか?
「エルネスタちゃん達が消えたわよっ!?」
「何!?」
私の名はエカリナ。
エルフよ。
だから見た目通りの年齢ではないけれど、女に年齢を聞いてはいけないわ。
今、ゾンビを操っていると思われる男と戦っていたら、後方にいたエルネスタちゃんとメイドちゃんの姿が忽然と消えてしまった。
これは……魔法的な結界……?
しかも人の存在を完全に、別の空間へと閉じ込めてしてしまうほどの──。
なかなか高いレベルの術よね……。
その術を仕掛けてきたのは、おそらく目の前にいる白いローブの男だと思うけど、あの2人だけ閉じ込めたというのは、彼女達が男にとって最も厄介な存在だということもあるでしょうね。
けれど私達全員を閉じ込めなかったってことは、2人だけで限界だったともとれるわよね。
あまり広い面積には、術式を展開できないのかも。
それに魔法使いである私やリーリアが一緒だと、内部から解除される可能性もあるし……。
逆に言うと、魔法が使えないあの2人では、脱出が難しいんじゃないかしら?
とことん相性が悪いわね……。
いくらあの2人でも、長時間閉じ込められていたら、餓死は……「空間収納」の中に食料があるはずだから心配は無いだろうけれど、空気が無くなって窒息してしまうかもしれないわ。
だけど──、
「2人は魔法で閉じ込められたようね。
でも、術者を倒せば、解除されるはずよ!」
確実ではないが、これが一番手っ取り早いのよ。
「じゃあ、やることは変わらねぇな!」
「そうだな!!」
アルク達が、白ローブの男へと斬りかかっていく。
私は防支援法に徹した方がいいかも。
なんだかんだで、相手は手練れだわ……!
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