秘めたる想い
俺の名はトース。
ただの無口な冒険者だ。
だが、昔から無口だった訳じゃない。
子供の頃は、むしろお喋りだった。
ただ、いらぬことまで喋りすぎた結果、幼馴染の女の子を泣かせたことがある。
男子にはよくある、素直になれないが故の悪態──。
それで気まずくなってしまい、上手く彼女に話しかけられなくなってしまった。
これを反省した俺は、余計なことを喋らなくなっていった。
それを続けていたら、いつしか本当に口下手になってしまい、無口に拍車がかかってしまったのだ。
それでも、後悔はしていない。
たぶん俺は、その子のことが好きだった。
だけど、その恋が叶うとは、思っていなかったんだ。
彼女が好きな奴は、明らかに他の幼馴染だったからな……。
だから彼女に想いを告げるつもりは無かった。
それならばいっそ、まともに喋ることができなくても、それでいいと思っていた。
そうして波風を立てなければ、彼女の友としては、傍にいることはできたから……。
実際、その後に冒険者になった俺達は、仲間として上手くやれてきたと思う。
まだ駆け出しの頃にとある出会いがあり、その人からの支援を受けることができたのも大きかった。
俺達は冒険者として、間違いなく成功している。
しかしそれも、もう終わりだ。
彼女とあいつが結婚することになったからな……。
主に3人で活動していたのに、その中の2人が結婚したら、残りの俺は邪魔者になってしまう。
さすがに居心地が悪いし、俺も彼女への想いを諦めて、身を引くべき頃合いだろう。
だが、そんな時に接触してきた者の所為で、俺は全てを諦めなくてはならなくなった。
恩人への暗殺を強要されたからだ。
親を人質に取られ、更に逆らうのならもうすぐ幸せになるあの2人も標的にすると脅されては、断ることなどできなかった……。
こんなことは、本人達には言えないけどな……。
絶対、気にするだろう。
その2人は今、俺の為に慌てふためいている。
「おい、解呪はできないのか!?」
俺は呪いを受けた。
俺に暗殺を強要してきた者に、何かの液体を飲まされたが、あれが触媒だったか……。
「あ、あたしは攻撃と補助の魔法がメインだから……!
回復系の魔法が使える人なら、もしかしたら……!」
「ミミ、アリサを連れてきてください!
彼女なら回復魔法が使えます!」
「は、はい!」
解呪は……間に合わないだろうな。
俺の体内で、急激に膨らんでいく何かを感じる。
このままでは、この場にいる全員を巻き込むのではないか……!?
「お……俺に接触してきたのは、教国なまりの言葉を話す若い男だった……!」
この地に入植した元教国人と会ったことがあるが、彼らと同じような話し方をする男だった。
今の俺に伝えられる首謀者の情報は、これだけだ。
あいつは顔を隠していたから、声の特徴しか分からなかった。
伝えるべきことを伝えた俺は、力を振り絞って立ち上がり、窓へと走った。
そのまま窓を突き破り、屋外へと出る。
「トース!!」
皆が俺を追おうとするが、彼らを俺は手で制した。
……俺のことは気にするな。
こんな最期になってしまっては難しいかもしれないが、すぐに忘れてくれ。
そして幸せになってくれ、リ──
トースが爆発した。
あれに巻き込まれたら、俺やアンシーはともかく、他の者達は命が危なかっただろう。
彼は皆を守る為に、たった1人で死ぬことを選んだ。
「なんでなんだよ……っ!!」
アルクは床に膝をつき、両手で床を叩いた。
リーリアは茫然と、立ち尽くしている。
俺としてもショックな出来事だ。
トースはある意味、俺の所為で死んだようなものだ。
俺と関わらなければ、あのような死に方はしなくても良かった。
そう、身体の原型が残らないような、あんな死に方を──。
そしてあれでは、アンシーのように、サイボーグとして蘇らせることは難しいだろう。
トースの記憶や心が宿っていたはずの、頭部が失われているのだから……。
それならばせめて……。
俺はバラバラになったトースの欠片を、「変換」する。
「何を……?」
俺は仕上がった物を、アルクへと差し出した。
「怒られるかもしれませんが、トースさんの残った身体を使って作った剣です」
「トースの……!!」
本当は散らばった肉片をかき集めて、埋葬した方がいいのかもしれないが、それは葬る方の精神的にも厳しい作業になるだろう。
それならばいっそのこと、こうした方が……。
「今の私にとって、最高の仕上がりになっています。
おそらく余程のことが無い限り、折れることはないでしょうし、大抵の存在は斬ることができるでしょう。
ご希望なら、後ほどクレア達に魔法の付与もさせます。
どうかあなた達のこれからの冒険に、連れて行ってあげてください」
以前、アルクとは「最強の剣士に相応しい、最強の剣を作ってあげる」と約束したことがあるけど、まさかこんな形で実現するとはな……。
「ああ……そうだ……。
そうだな……!」
アルクは何度も頷きながら、剣を受け取った。
その隣では、リーリアが無言で涙を流し続け、やがてそれは嗚咽に変わっていく。
クッソ……やってくれたな……!
トースが残した最期の情報からは、この暗殺は教国が計画したことである可能性が高いと思われた。
この落とし前、どう付けてやろうか……!!
だが、まずは──。
「アルクさん、リーリアさん、あなた達の故郷へ行きませんか?
トースさんのご両親の安否を、確かめる為に」
その呼びかけにアルクとリーリアは、
「……ああっ!」
「ええ!」
力強く応えた。
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