予想外
アルク、リーリア、トースの冒険者3人組は、我が弟エクレオの護衛としてこの街へと訪れた。
かつて同じパーティーメンバーだったドワーフのドンガトと、エルフのエカリナは、技術者に転身して我が商会の商品開発部門で活躍しているが、この3人は商会専属の護衛任務をしつつ、冒険者としても活動している。
ここ最近も遠くのダンジョンまで遠征しており、その帰りにエクレオの護衛を依頼した形だ。
会うのは半年ぶりくらいか。
「お久しぶりです、公爵閣下」
「堅苦しい礼儀は不要ですよ、アルクさん。
あなたも今や上位冒険者ですし」
「……それでも、さすがに公爵とは身分が違うよ」
そう言いつつも、砕けた口調になるアルク。
彼らも俺が提供した装備を活用しているとはいえ、様々な戦いを乗り越え、今や冒険者界隈では有名人である。
そういう意味では、政治的にも無下にはできない存在だ。
「これから暫くの間は、このアネストに滞在するのですか?」
ちなみにタカミ公爵領の領都たる港町は、アネストと改名した。
もう名乗ることも無い、俺の本名が元となっている。
「そうね、少し長く休暇を取ろうと思うの。
私達も、そろそろだから……」
と、リーリア。
あー、もうすぐアルクと結婚するらしいねぇ。
その準備に入るってことか。
「そうでしたね。
結婚式は盛大なものになるように、協力させていただきます」
「そんな……ただでさえお世話にになっているのに」
「いいえ、やらせてください」
俺は式を挙げていないから、せめて身内のは派手にやってあげたい。
「それでは食事でもしながら、話し合いましょう」
場所を変えようとしたその時──、
「え……?」
トースがワイヤーによって縛り上げられ、床に倒れていた。
おそらく俺が渡した装備が、俺への敵意や不利益になる行動等に反応して変形した結果だろう。
俺がそういう風に設定しておいた。
そしてそれは、俺の関係者なら全員が知っていることだ。
それでもトースは、行動を起こそうとした。
どうしたお前!?
無口で目立たないキャラが、いきなり目立つようなことをしたら驚くだろ!?
「トース、一体どういうことだ!?」
アルクがトースを問い詰める。
俺が提供した装備が誤作動したということは、疑っていないようだ。
それだけ信頼はされているということか。
でもだからこそ、仲間のトースの裏切りが理解できないといった感じだな。
「……こうするしかなかった。
親を人質にされては、公爵の暗殺依頼でも無視はできない……」
「おじさんと、おばさんが……!?」
喋った!?
トースのまともな声を初めて聞いた気が……。
って、それよりも、彼とアルクとリーリアは幼馴染だったっけ?
となると──、
「アルクさんとリーリアさんのご家族は……?」
「あ、ああ……。
俺達の親はもう……。
だから大丈夫だが……」
既に故人か。
それならば人質にされる心配は無いが……。
「それは悪いことを聞きました。
だけど他の方々は違いますね。
アンシー、関係者の身辺に警戒を促してください。
クレア、エクレオを連れて空母へ。
あそこが1番安全です」
「はい。
エクレオ、こちらに……!」
これである程度は、新たに人質を取られるような事態は抑えられる。
しかし直接俺を狙うのではなく、関係者を狙うとは……。
「それでトースさん、親御さんの安否は?」
「……遠い故郷のことは、確かめようが無い。
だが、俺に接触してきた奴は、切り取られた人の手首を見せてきた……」
手首だけでは、誰の物なのかは確認できない。
そして生きているのかどうかも。
だが、生きている可能性があり、かつその命が相手に握られていると思わせることができれば、人質としては通用する。
だから必ずしも、人質を生かしておく必要はない。
むしろ長期間拘束しておく手間や、解放した後に犯人に関わる証言をされるリスクを考えれば、生かしておくメリットは少ない。
トースもそのことを、覚悟しているような面持ちだった。
「何故、相談してくれなかった……!」
アルクが悔しそうに問う。
まあ、彼からしたら、仲間に裏切られたようなものだしな。
それ以上に頼ってもらえなかったことの方が、悔しいのかもしれないが。
「しかしなんでこんな……。
私が提供した装備を使わなければ、拘束されることもなく、暗殺も成功した可能性もあったでしょうに……」
「いくら親の為とはいえ、世話になった人を裏切ることはできない。
とはいえ、何もせずに親を見捨てるような真似も、俺にはできなかった」
だから暗殺が失敗することが分かりきっていても、行動に出たのか。
そして失敗したからには、もう隠す必要も無い……と、話してくれたのだな。
それで自身や、人質になった両親がどうなったとしても──。
不器用な男だ。
だが、尊敬すべき不器用さだ。
「ぐ……!」
ん……?
トースがなにやら苦しそうだ。
拘束かぜきつすぎたかな……?
解除してみるか。
いや……トースの肌に文様のような物が浮かび上がっている。
これはまさか……毒!?
「トース、呪いを受けたのか!?」
アルクが叫ぶ。
あ、そっちか。
おそらくトースは、暗殺が失敗したら発動する呪いを受けていたのだ。
お前、それが分かっていて、あえて失敗を選択したのか!?
俺が狙われていることを、知らせる為に!!
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