表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

123/147

予想外

 アルク、リーリア、トースの冒険者3人組は、我が弟エクレオの護衛としてこの街へと訪れた。


 かつて同じパーティーメンバーだったドワーフのドンガトと、エルフのエカリナは、技術者に転身して我が商会の商品開発部門で活躍しているが、この3人は商会専属の護衛任務をしつつ、冒険者としても活動している。


 ここ最近も遠くのダンジョンまで遠征しており、その帰りにエクレオの護衛を依頼した形だ。

 会うのは半年ぶりくらいか。


「お久しぶりです、公爵閣下」


「堅苦しい礼儀は不要ですよ、アルクさん。

 あなたも今や上位冒険者ですし」


「……それでも、さすがに公爵とは身分が違うよ」


 そう言いつつも、砕けた口調になるアルク。

 彼らも俺が提供した装備を活用しているとはいえ、様々な戦いを乗り越え、今や冒険者界隈では有名人である。

 そういう意味では、政治的にも無下にはできない存在だ。


「これから暫くの間は、このアネストに滞在するのですか?」


 ちなみにタカミ公爵領の領都たる港町は、アネストと改名した。

 もう名乗ることも無い、俺の本名が元となっている。


「そうね、少し長く休暇を取ろうと思うの。

 私達も、そろそろだから……」


 と、リーリア。

 あー、もうすぐアルクと結婚するらしいねぇ。

 その準備に入るってことか。


「そうでしたね。

 結婚式は盛大なものになるように、協力させていただきます」


「そんな……ただでさえお世話にになっているのに」


「いいえ、やらせてください」


 俺は式を挙げていないから、せめて身内のは派手にやってあげたい。


「それでは食事でもしながら、話し合いましょう」


 場所を変えようとしたその時──、


「え……?」


 トースがワイヤーによって縛り上げられ、床に倒れていた。

 おそらく俺が渡した装備が、俺への敵意や不利益になる行動等に反応して変形した結果だろう。

 俺がそういう風に設定しておいた。


 そしてそれは、俺の関係者なら全員が知っていることだ。

 それでもトースは、行動を起こそうとした。

 どうしたお前!?

 無口で目立たないキャラが、いきなり目立つようなことをしたら驚くだろ!?


「トース、一体どういうことだ!?」


 アルクがトースを問い詰める。

 俺が提供した装備が誤作動したということは、疑っていないようだ。

 それだけ信頼はされているということか。

 でもだからこそ、仲間のトースの裏切りが理解できないといった感じだな。


「……こうするしかなかった。

 親を人質にされては、公爵の暗殺依頼でも無視はできない……」


「おじさんと、おばさんが……!?」


 喋った!?

 トースのまともな声を初めて聞いた気が……。

 って、それよりも、彼とアルクとリーリアは幼馴染だったっけ?

 となると──、


「アルクさんとリーリアさんのご家族は……?」


「あ、ああ……。

 俺達の親はもう……。

 だから大丈夫だが……」


 既に故人か。

 それならば人質にされる心配は無いが……。


「それは悪いことを聞きました。

 だけど他の方々は違いますね。

 アンシー、関係者の身辺に警戒を(うなが)してください。

 クレア、エクレオを連れて空母へ。

 あそこが1番安全です」


「はい。

 エクレオ、こちらに……!」


 これである程度は、新たに人質を取られるような事態は抑えられる。

 しかし直接俺を狙うのではなく、関係者を狙うとは……。


「それでトースさん、親御さんの安否は?」


「……遠い故郷のことは、確かめようが無い。

 だが、俺に接触してきた奴は、切り取られた人の手首を見せてきた……」


 手首だけでは、誰の物なのかは確認できない。

 そして生きているのかどうかも。

 だが、生きている可能性があり、かつその命が相手に握られていると思わせることができれば、人質としては通用する。


 だから必ずしも、人質を生かしておく必要はない。

 むしろ長期間拘束しておく手間や、解放した後に犯人に関わる証言をされるリスクを考えれば、生かしておくメリットは少ない。

 トースもそのことを、覚悟しているような面持ちだった。


「何故、相談してくれなかった……!」


 アルクが悔しそうに問う。

 まあ、彼からしたら、仲間に裏切られたようなものだしな。

 それ以上に頼ってもらえなかったことの方が、悔しいのかもしれないが。


「しかしなんでこんな……。

 私が提供した装備を使わなければ、拘束されることもなく、暗殺も成功した可能性もあったでしょうに……」


「いくら親の為とはいえ、世話になった人を裏切ることはできない。

 とはいえ、何もせずに親を見捨てるような真似も、俺にはできなかった」


 だから暗殺が失敗することが分かりきっていても、行動に出たのか。

 そして失敗したからには、もう隠す必要も無い……と、話してくれたのだな。

 それで自身や、人質になった両親がどうなったとしても──。


 不器用な男だ。

 だが、尊敬すべき不器用さだ。


「ぐ……!」


 ん……?

 トースがなにやら苦しそうだ。

 拘束かぜきつすぎたかな……?

 解除してみるか。


 いや……トースの肌に文様のような物が浮かび上がっている。

 これはまさか……毒!?


「トース、呪いを受けたのか!?」


 アルクが叫ぶ。

 あ、そっちか。


 おそらくトースは、暗殺が失敗したら発動する呪いを受けていたのだ。

 お前、それが分かっていて、あえて失敗を選択したのか!?

 俺が狙われていることを、知らせる為に!!

 いつも応援ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ